Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

国立新美術館「遠距離現在 Universal Remote」展

2024年05月02日 | 美術
 国立新美術館で「遠距離現在 Universal Remote」展が開かれている(6月3日まで)。8人と1組の現代美術家の作品の展覧会だ。「遠距離現在」という言葉はあまり聞きなれない言葉だが、開催趣旨は、世界規模に広がる人間活動にあって、人と人との距離、人と社会との距離は近くなったのか、それとも遠くなったのか、ということらしい。

 本展のキーワードはインターネットの普及とパンデミックの経験だ。作品はすべてパンデミック以前に制作されたものだ。それらの作品をパンデミック以後のいま見るとどう見えるか、と本展は問う。

 8人と1組は国も年齢も、そして関心のありようもさまざまだ。わたしがもっとも面白かった作品は、北京とニューヨークを拠点とするシュ・ビン(1955‐)のヴィデオ作品「とんぼの眼」だ。本作品はインターネット上で公開されている監視カメラの映像を切り貼りして作られている。「監視カメラ」の映像が「公開」されている点にまず驚く。そういう時代なのだろうか。

 シュ・ビンの制作チームはそれらの映像を約11,000時間分ダウンロードした。それを切り貼りして約81分のストーリーを作り上げた。いわばストーリーをでっち上げた。ストーリーはある愛の物語だ。中国の貧しい青年がある娘に恋をする。だが娘はつれない。青年はストーカー的に娘を追う。だが娘の気持ちは動かない。ストーリーは奇想天外な変転をたどる。それはストーリーそのものを異化するかのようだ。なお本展のHP(↓)に予告編が載っている。

 本作品は2017年に制作された。制作意図は、社会に無数に設置された監視カメラの存在を人々に意識させることにあったらしい。だが、少なくともわたしは、それらの監視カメラの存在をすでに受け入れてしまっている自分に気付く。むしろわたしは、本作品を、インターネット上に氾濫する映像に気を付けろという警鐘と思った。ストーリーはでっち上げることができる。ましていまはインターネットが権力者による世論誘導のための場となっている。映像の意図を問えと。

 その他の作品では、デンマークのコペンハーゲンで活動するティナ・エングホフ(1957‐)の「心当たりあるご親族へ――」に惹かれた。本作品は27枚の写真からなる。いずれも孤独死した人の部屋の写真だ。本展のHP(↓)に載った写真は、がらんとした部屋に明るい陽光が射す。部屋の主(あるじ)の不在を感じさせる。私事だが、孤独死した元同僚が本年1月に発見された。死亡推定時期は昨年11月中旬。元同僚は家庭に問題を抱えて、長年妻子と別居していた。元同僚はどんな部屋で発見されたのだろうと思う。
(2024.3.8.国立新美術館)

(※)遠距離現在 Universal / Remote | 企画展 | 国立新美術館 THE NATIONAL ART CENTER, TOKYO

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