Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

世田谷美術館「民藝」展

2024年06月04日 | 美術
 世田谷美術館で「民藝」展が開かれている。柳宗悦(1889‐1961)らが提唱した手作りの日用品に美を見出す民衆的工藝=「民藝」。本展では着物、茶碗、家具などが展示されている。いずれも無名の職人が作ったものだ。個性を競う芸術家の作品ではない。野心とは無縁のそれらの品々を見ていると、一種のさわやかさを感じる。

 本展は3章で構成されている。第1章は1941年に日本民藝館で開かれた「生活展」を再現したもの。テーブル、椅子、食器棚などを配置して生活空間を作り、そこに茶碗などをさりげなく並べる。当時は画期的な展示方法だったらしい。

 第2章では民藝品を「衣・食・住」に分類して展示する。わたしは今回「衣」の品々に惹かれた。八丈島の黄八丈の着物「八端羽織」(はったんはおり)(江戸時代19世紀)がまず目に留まった。素朴な風合いが何ともいえない。また「蓑(伊達げら)」(陸奥津軽(青森)1930年代)に注目した。雪深い地方の女性用の蓑だ。首周りに細工が施されている。男性が作ったものらしい。丹精込めた手仕事だ。

 第3章ではラテンアメリカ、アフリカなどの民藝品を展示する。民藝に相当する品々は、日本にとどまらずに、世界中に見出せることを実感する。また本章では現代日本の職人たちの仕事ぶりをヴィデオで紹介する。ヴィデオは5本ある。
(1)小鹿田焼(おんたやき)大分県日田市
(2)丹波布(たんばぬの)兵庫県丹波市
(3)鳥越竹細工(とりごえたけざいく)岩手県二戸郡一戸町
(4)八尾和紙(やつおわし)富山県富山市八尾町
(5)倉敷ガラス(くらしきガラス)岡山県倉敷市

 どれも昔ながらの手仕事だ。家業として伝わる製法を守る。どの品物も繊細な美しさを秘めている。職人たちはそれらの品々が現代に需要があるのかどうか、半信半疑だ。ひょっとすると途方もなく時代遅れのことをやっているのかもしれない。でも、昔からやってきたことだ。今もやる。進歩なんて考えない。後継者はいるのか、いないのか、そんなことは分からない。考えても仕方がない――と、皆さん呟く。

 民藝は作者の無名性が特徴だが、それらのヴィデオを見ると、無名性の裏には個々の作者の人生がひそむことが分かる。どんな人が作ったのか。どんな思いで作ったのか――それを知ると、民藝の品々が貴く見える。我ながら可笑しいのだが、わたしは帰宅後、身の回りの日用品が今までとはちがって見えた。量産品はともかく、手仕事の跡が残る品物は貴く見えた。民藝パワーに当たったからだろう。
(2024.5.15.世田谷美術館)

(※)本展のHP

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