Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

マトヴィエンコ/東響

2024年06月16日 | 音楽
 若手指揮者のドミトリー・マトヴィエンコが東響に初登場した。マトヴィエンコは2021年のマルコ国際指揮者コンクールの優勝者だ。同コンクールのHPを見ると、コンクール時点で30歳、ベラルーシ出身とある。モスクワ音楽院に学び、ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー、ウラディミール・ユロフスキー、テオドール・クルレンチス、ワシリー・ペトレンコの各マスタークラスを受けた。2024/25のシーズンからデンマークのオーフス交響楽団の首席指揮者に就任予定。

 周知のことだが、今回の東響初登場に当たって、当初発表のプログラムはツェムリンスキーの「人魚姫」とストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」だった。只者ではないプログラムに注目したが、後に「人魚姫」がラヴェル2曲に変更された。がっかりしたというのが正直なところだ。

 1曲目はラヴェルの「道化師の朝の歌」。強いアクセントで弾むようなリズムだ。オーケストラが立体的に鳴る。音の照度が高い。ステージが一気に明るくなったようだ。例のファゴットのソロもキャラが立つ(福士マリ子さんだったと思う。名演だ)。プログラムの変更はこれがやりたかったからだろうかと思った。

 2曲目はラヴェルの「マ・メール・ロワ」。ていねいな演奏だったが、「道化師の朝の歌」とは曲の性格が異なるためか、何をやりたいのか、目的意識がいまひとつつかめなかった。少なくとも現時点では、マトヴィエンコはやんちゃな曲のほうが合っているようだ。

 3曲目はストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」(1947年版)。「道化師の朝の歌」の演奏に戻ったような強いアクセント、音の照度の高さ、そして木管楽器、金管楽器の各奏者のキャラの立ったソロの連続と、目の覚めるような演奏だった。音がけっして濁らずに、つねに明晰なことは特筆すべきだ。

 マトヴィエンコは「道化師の朝の歌」と「ペトルーシュカ」で鮮烈な日本デビューを飾った。両曲に現れたマトヴィエンコの個性は強烈にわたしたちに刻印された。ではマトヴィエンコは、それ以外にどんな面を持っているのだろう。演奏会の終了後、わたしはふと今回キャンセルされた「人魚姫」を思い出した。第2楽章はきらびやかな音楽だ。それはいかにもマトヴィエンコの個性に合いそうだ。だが第1楽章の深くて暗い音楽を、マトヴィエンコはどう表現するのだろう。また第3楽章の劇的な音楽は……。

 東響に再登場する機会があるとして、そのときは「人魚姫」でなくてもいいが、マトヴィエンコの他の面にも触れてみたい。
(2024.6.15.サントリーホール)

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