Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

新作オペラとその台本

2019年01月06日 | 音楽
 2018年後半には新作オペラが3本世界初演(または日本初演)された。野平一郎(1953‐)の「亡命」、藤倉大(1977‐)の「ソラリス」そして松平頼暁(1931‐)の「The Provocators~挑発者たち」。それら3作は、音楽的にはそれぞれの作曲家らしいスタイルを持つものだが、台本には疑問を感じるものがあった。

 まず「亡命」だが、その台本にはがっかりした。ハンガリーの作曲家リゲティ(1923‐2006)とクルターグ(1926‐)をモデルにした(と思われる)登場人物の「亡命」を軸にした人生の軌跡を描くストーリーだが、とくにオペラの後半は伝記的な事実をなぞるだけで、著しく平板になった。また随所に挟み込まれるナレーションがまだるっこかった。

 台本作成は野平多美。失礼ながら、台本作成にどれだけの経験をお持ちなのか、疑問を感じた。もし経験が乏しいなら、本作はその事実を残酷なまでに露呈したと言わざるを得ない。またそのような人物を起用した関係者の問題にもなるだろう。

 一方、「ソラリス」は、スタニスワフ・レムの長編小説を、簡潔に、テーマを外さずにまとめた手際のよさが光った。その台本作成が、ダンサーで振付家の勅使川原三郎であることには驚いた。勅使川原はパリでの世界初演で演出と振付を担当しているので、台本作成から一貫して本作にかかわったのかもしれない。

 「The Provocators~挑発者たち」の場合は、先に3曲の歌曲ができて、それらをつなぐものとしてオペラが構想されたようなので、通常のオペラとは性質が異なるが、オペラとして上演される以上、台本が厳しく評価されることは避けられない。

 作曲者自身によるその台本は、オペラの台本として見た場合は「?」と思うが、仮に3曲の歌曲のためのフォーマットのようなものだと考えた場合でも、歌曲以外の部分がストーリー性を持ち過ぎて、あらずもがなのものに思える。

 日本にかぎらず、むしろ欧米が先行する形で、新作オペラの発表が相次いでいる。それは一種のブームのように見える。そのこと自体は大歓迎だが、だからこそ、台本にたいしては慎重でなければならないと、あらためて感じた。無論、現実の作品は種々の制約の結果だろうが、それでもだ。

 その意味では、今年2月に初演予定の西村朗のオペラ「紫苑物語」では、台本作成に詩人の佐々木幹郎が起用されているので、期待が高まる。

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