Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

B→C 加耒徹バリトン・リサイタル

2023年03月15日 | 音楽
 B→Cコンサートにバリトン歌手の加耒徹(かく・とおる)が出演した。加耒徹は2021年の東京二期会の「ルル」でシェーン博士役を好演した。B→Cコンサートでは10か国の言語を歌うというので、楽しみにしていた。

 まずバッハのカンタータ第203番「裏切り者なる愛よ」。バッハには珍しく、イタリア語のカンタータだ。そのせいなのかどうなのか、音楽と言葉がしっくりこない。松岡あさひの弾くピアノ伴奏は熱がこもっていた。

 次はカーゲル(1931‐2008)の「バベルの塔」から「ヘブライ語」「ポルトガル語」「ハンガリー語」「オランダ語」「日本語」の5曲。石川亮子氏のプログラムノーツによると、これは旧約聖書「創世記」第11章第5~7節(神が人間たちのバベルの塔の建設を怒り、言語をバラバラにした件)を歌詞とする18の言語による18のメロディからなる作品。カーゲルは「歌手は演奏に際して18曲すべてではなく、3~6曲を抜粋し、任意の順で演奏するように」と指示した。冒頭、ヘブライ語が始まると、エキゾチックな語感に惹かれた。特殊唱法が入る曲もある。日本語ではポンというユーモラスな音が入る。各曲ともおもしろい。当夜の大きな収穫だった。

 ライマン(1936‐)の「ヴォカリーズ」は激しい曲だった。加耒徹は構築的といっていいほど彫りが深く、陰影が濃やかな歌唱を聴かせた。

 シェイクスピアの「十二夜」から道化の歌「おお、私の恋人よ」にもとづくクィルター(1877‐1953)、フィンジ(1901‐1956)、フォルトナー(1907‐1987)の3曲が歌われた。ライマンの後で聴くと、ホッとするような安らぎがあった。加耒徹の英語の発音も自然だった。さらにデイヴィッド・ローチ(1990‐)の、同じ歌詞にもとづく3曲が歌われた。ローチはトマス・アデスが審査員をつとめた2020年度の武満徹音楽賞で第2位を受賞した人だ。

 デュパルクの「旅への誘い」と「悲しき歌」が歌われた。さすがに名曲だ。ラフマニノフの「夜の静けさの中」「ヒワの死に寄せて」「君は彼を知っている」の3曲が歌われた。「ヒワの死に寄せて」が情感豊かな曲だった。

 最後にホリガー(1939‐)の「ルネア」が歌われた。詩人ニコラウス・レーナウの23のセンテンス(1行~数行)にもとづく23の断片からなる連作歌曲だ。内部奏法を多用するピアノの音とあいまって、狂気の中で死を迎えたレーナウの、正気と狂気の境界の意外に広がりのある世界を感じさせた。ホリガーが、シューマンやヘルダーリンなど、狂気にとらわれた人にこだわる理由がわかる気がした。
(2023.3.14.東京オペラシティ・小ホール)

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