Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

藤岡幸夫/日本フィル

2023年03月12日 | 音楽
 藤岡幸夫指揮日本フィルの横浜定期。空席が目立つのは、プログラムに日本人の作品が組まれているからだろうか。だが、その作品が良かった。菅野祐悟のサクソフォン協奏曲「Mystic Forest」だ。この曲は2021年2月の初演のときに聴いた(サクソフォン独奏は今回と同じ須川展也。オーケストラは藤岡幸夫指揮東京シティ・フィル)。そのときはよくわからなかったが、今回は2度目とあって、どんな曲か、つかめた気がする。

 全3楽章からなる。プログラムに掲載された菅野祐悟のプログラムノートが、各楽章の性格を的確に語っているので(そのプログラムノートが初演のときにもあったかどうか、残念ながら記憶に残っていない)、一部を引用しながら、各楽章をたどってみよう。

 第1楽章は「桜は華々しく咲き誇り、そして一瞬で儚く散る。(以下略)」。桜の花びらが空中を舞うような細かい動きが印象的だ。第2楽章は「紅葉が散る直前に人の心を強烈に揺さぶるのは何故でしょう。(以下略)」。紅葉が散る、その絶え間ない動きを表すようなスケルツォ風の音楽。第3楽章は「日本の雪景色。(以下略)」。緩徐楽章。だが「ホワイトアウトした真っ白な世界の先にある漆黒の闇」とあるように、サクソフォンが腹の底から絞り出すような叫びをあげる。やがて光明が差し、肯定的な響きで終わる。

 全体的にとても美しいのだが、音楽の流れに予想がつかないところがある。細かいところがそうなのだが、その描写は難しいので、第3楽章を例にとると、もし全4楽章なら、第3楽章に緩徐楽章がくるのは常套的だが、全3楽章なので、第3楽章が緩徐楽章で始まると、不意を突かれる。そうか、緩徐楽章で終わるのかと思って聴いていると、明るい響きに変わり、前出の音の動きが回帰して終わる。各楽章のディテールをふくめて、予想のつかない流れが新鮮だ。

 わたしは先月、原田慶太楼指揮の東京交響楽団が演奏する菅野祐悟の交響曲第2番「Alles ist Architektur―すべては建築である」を聴き、美しい響きに感心した。その経験があったからだろう、今回のサクソフォン協奏曲も、響きの美しさを楽しんだ。

 須川展也のアンコールがあった。ビゼーの「アルルの女」から「間奏曲」のサクソフォンのメロディだ。サクソフォン1本でホールの大空間を満たす。すごい音だ。

 2曲目はチャイコフスキーの交響曲第4番。過剰な演出がなく、変な癖もない、きわめて真っ当な演奏だ。第4楽章の最後は迫力満点だった。藤岡幸夫はベテランの域に入っているが、正統的な良い指揮者になった。アンコールにグリーグの「過ぎにし春」が演奏された。東日本大震災から12年目の3月11日のためだろう。
(2023.3.11.横浜みなとみらいホール)

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