Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

SOMPO美術館「ゴッホと静物画」展

2023年11月20日 | 美術
 SOMPO美術館で「ゴッホと静物画」展が開かれている。もともとは2020年に予定された新館への移転記念の企画展だが、コロナ禍のために延期された。ゴッホの静物画の変遷をたどるとともに、ゴッホが影響を受けた(あるいはゴッホから影響を受けた)静物画と比較検討する試みだ。

 チラシ(↑)に使われている作品は「アイリス」だ。ゴッホの代表作のひとつで、日本にも以前来たことがある。わたしは2度目だが、会場で再会したとき、初めて見るような新鮮さを感じた。まず思ったことは、花瓶がこんなに小さかったか、ということだ。花瓶に盛られたアイリスの花のボリューム感に比べて、花瓶が小さい。今にも倒れそうなくらいにアンバランスだ。

 そのアンバランス感はアイリスのボリューム感を強調するためだったかもしれない。だが本作品はゴッホが亡くなる年に描かれた作品だ。その不安定さにこそ意味があるように思える。その不安定さはゴッホの精神状態を反映しているのではないかと。

 アイリスの葉の鮮やかな緑が圧倒的だ。アイリスの花の青紫を凌駕する(青紫の色は経年劣化しているようだ)。緑の葉が花瓶を起点に四方八方に伸びる。先の尖ったそれらの葉は暴力的なほどの勢いがある。その一方で、花瓶のわきには倒れた葉がある。静物画では落ちた花は死の象徴だ。だが本作品の倒れた葉は、一般的な死ではなく、ゴッホ自身を思わせずにはいない。

 アイリスの花の中には茶色に変色した花が混じっている。枯れた花だ。それはもちろん死の象徴だが、本作品では枯れた花が一つや二つではないことが特徴的だ。花束全体に点在する。花束全体が枯れる日も遠くないことを予感させる。本作品は不気味な作品でもある。

 背景の黄色は明るい。ゴッホの黄色だ。本作品は数多いゴッホの黄色の作品の中でもとくに目覚ましいもののひとつだ。だが手放しに喜んではいられない。ゴッホの黄色は、作品が優れていればいるほど、精神の緊張を感じさせる。本作品もまさにそうだ。その緊張は補色の関係から説明できるわけだが、前述のように、本作品がゴッホの亡くなる年に描かれた作品であることを考えると、ゴッホの精神の極度の緊張の表れのように思える。

 「アイリス」以外では「麦わら帽のある静物」に惹かれた(画像は本展のHP↓に掲載されている)。ゴッホの習作だ。農民画家として出発した初期のゴッホには暗い作品が多いが、その前に描かれた本作品は意外に明るい。本作品が描かれたのは1881年。上記の「アイリス」が描かれたのは1890年。その二つの年がゴッホの画業の起点と終点だ。
(2023.11.11.SOMPO美術館)

(※)本展のHP

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