Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ハーグ派展

2014年06月06日 | 美術
 ハーグ派といわれても、ピンとこなかった。19世紀の後半、オランダの都市ハーグを拠点とした風景画家たちのこと。それだけなら「あゝ、そうか」で終わってしまうが、ゴッホ(1853‐1890)はそこから出てきたとなると、俄然興味が湧いてくる。

 若き日のゴッホは、従姉妹の夫でハーグ派の画家であったアントン・マウフェ(1838‐1888)に絵の指導を受けた。当時の手紙にはその感激が熱く語られている。

 マウフェの作品は、本展で見るかぎり、そんなに個性的な作品ではなかった。むしろ他の画家たちとともに、ハーグ派という潮流をなす一員のように思われた。ハーグ派と呼ばれる画家たちには、多かれ少なかれ、そういう側面があるようだ。細かく観察すれば、各々個性はあるのだろうが、個性のちがいよりも、むしろ総体としての存在感のほうが強かった。

 もっとも、気に入った作品はあった。ヤコブ・マリス(1837‐1899)の「漁船」(※1)。浜辺に漁船が乗り上げ、ロープで引かれている。空には灰色の雲が湧きあがっている。浜辺には波紋が広がっている。それらの雲と波紋とが、同系色で響きあっている。灰色のグラデーションから生じる軽やかなリズムがある。

 「漁船」は一つの発見だったが、本展の収穫はモンドリアン(1872‐1944)に関することだった。これはモンドリアンの本質に触れる事柄だ。

 モンドリアンは抽象画の創始者の一人だが、その出発点はハーグ派にあった。叔父でハーグ派の流れをくむ画家フリッツ・モンドリアンから絵を学んだ。若い頃は風景画を描いていた。ところが、若い頃にかぎらず、その後もずっと――キュビスムから抽象画に踏み込む時期にも――並行して具象的な風景画を描いていた。これは意外な事実だった。

 本展で展示されている4点のうち3点は、本格的な風景画だ――残りの1点は未完ではないかと思う――。

 興味深いのは3点がいずれも異なる作風であることだ。「アムステルダムの東、オーストザイゼの風景」(1907頃)(※2)は印象派的、「ダイフェンドレヒトの農場」(1916頃)(※3)は表現主義的、「夕暮れの風車」(1917頃)(※4)は、あえていえば、ハーグ派的だ。前述したように、後者の2点はキュビスムからさらに先の抽象画を模索する時期の作品だ。そういう時期に風景画も描いていたことに、創造の一筋縄ではいかない軌跡を見る思いがした。
(2014.6.3.損保ジャパン美術館)

※1 「漁船」(ハーグ市立美術館)
http://www.gemeentemuseum.nl/en/collection/item/5566
※2 「アムステルダムの東、オーストザイゼの風景」(同上)
http://www.gemeentemuseum.nl/en/collection/item/2067
※3 「ダイフェンドレヒトの農場」(同上)
http://www.gemeentemuseum.nl/en/collection/item/1151
※4 「夕暮れの風車」(同上)
http://www.gemeentemuseum.nl/en/collection/item/1045

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