Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

アルディッティ弦楽四重奏団:室内楽コンサート(1)

2024年08月23日 | 音楽
 恒例のサントリーホールサマーフェスティバルが始まった。今年のプロデューサーはアルディッティ弦楽四重奏団を率いるアーヴィン・アルディッティ(1953‐)だ。アルディッティ弦楽四重奏団は1974年に結成された。今年は創立50周年。アルディッティは昨年自伝を出版した。そこには彼らの50年間にわたる出来事が記されているそうだ。

 アルディッティは今回3つの室内楽コンサートと1つのオーケストラ・プログラムを組んだ。3つの室内楽コンサートは、武満徹の「ア・ウェィ・ア・ローン」を除いて、すべてアルディッティ弦楽四重奏団に献呈された曲で組まれている。しかも(新作を除いて)プログラム・ノートもすべてアルディッティ自身が書くという力の入れようだ。

 昨夜はその第1回。アルディッティは演奏に入る前に短いスピーチをした。「昨年から今年にかけて私たちの親しい友人だった西村朗、リーム、湯浅譲二が亡くなった。この演奏会を彼らに捧げます」という内容だった。

 1曲目は武満徹(1930‐96)の「ア・ウェイ・ア・ローン」。アルディッティはプログラム・ノートに「弦楽四重奏はしばしばリズム的にユニゾンで動き、対位法を提示することはほとんどない」と書いている(向井大策訳)。なるほど、それがこの曲の(西洋人から見た)特徴かと納得する。演奏はその曲の細かい部分にドラマを見出すものだった。

 2曲目はジョナサン・ハーヴェイ(1939‐2012)の弦楽四重奏曲第1番。針のように細く鋭い音が飛び交う曲だ。静から動へ、そして最後には静に戻るという大きなドラマの流れがある。武満徹の平面的な(もしくは水平方向の)曲の流れとは異なる。

 3曲目は細川俊夫(1955‐)のピアノ五重奏曲「オレクシス」。ピアノは北村朋幹。今年3月にベルリンで今回と同じメンバーで世界初演された曲だ。今回は日本初演。ピアノが短長のリズム(タタン)を繰り返す。水の滴りのようだ。リズムにヴァリエーションが加わる。弦楽器が衝動的な音を絡ませる。音楽が緊迫して爆発する。それが何度も繰り返される。最後の爆発は地獄の底を見るようだ。一種の分かりやすさのある構成だ。北村朋幹のピアノのみずみずしさと、そこからは想像もできないピアノを破壊するような激しさと、その振れ幅の大きさに息をのむ。

 4曲目はヘルムート・ラッヘンマン(1935‐)の弦楽四重奏曲第3番「グリド」。1曲目の武満徹とは対照的に、緊密かつ繊細な対位法が張り巡らされた曲だ。ラッヘンマンらしくノイズも出てくるが、それは音楽の展開上必然性があり、そのノイズさえも美しいと感じさせる演奏だ。水際立った演奏だった。
(2024.8.22.サントリーホール小ホール)

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