Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

レンブラント展

2011年06月01日 | 美術
 「レンブラント 光の探求/闇の誘惑」展。レンブラントは油彩の画家のイメージが強いが、生涯にわたって版画の制作を続けていて、本展は版画を中心とした構成。

 昨年はブリューゲルの版画展とデューラーの版画展が開かれた。ブリューゲルもデューラーも、レンブラントと同様に、油彩の画家のイメージが強かったが、両展をみて、版画の世界の豊饒さに啓発された。

 本展はその文脈上に位置する展覧会。もっともブリューゲルともデューラーともちがう作風だ。それを説明しようとすると、理屈っぽくなるし、わたしの手には負えそうにない。

 ブリューゲルにもデューラーにもなかった点として、レンブラントには「ステート」の問題があることを、本展で初めて知った。これは一度(あるいは数度)刷った原版に、新たに手を加えて、もう一度(あるいは数度)刷ることがあった結果、異なるステートの作品が残されたこと。

 たとえば3種類のステートによる4点の作品が展示されている「3本の十字架」は、ゴルゴダの丘で二人の盗賊とともに磔刑に処せられたイエスを描いた作品だが、あるステートからは、画面が黒く塗りつぶされ、異様に不気味な画面になっている。ディテールも、馬の向きが変更され、盗賊の一人と前面の男の一人は、黒の闇に溶解している。

 次の「エッケ・ホモ」(4種類のステートによる5点の作品。)は、総督ピラトによって民衆の前に引き出されたイエスを描いた作品だが、本作の場合、あるステートからは、バルコニーの前の民衆が消えている。その結果、わたしたちの視線はバルコニーに立つイエスに集中する。他にも細かい改変があり、少々不謹慎だが、まちがい探しのクイズのようだ。

 このような「ステート」の問題は、音楽でのブルックナーの交響曲の「版」の問題と似ているので、興味深く思った。

 油彩画も何点か来ている。「書斎のミネルヴァ」は1635年の作。1635年というと、レンブラント29歳、独立してアトリエを構えた年だ。野心みなぎるレンブラントの、驚異的な力量を誇示する作品。

 晩年の「ヘンドリッキエ・ストッフェルス」(1652年)は、破産をし、人生の苦渋をなめ尽くしたレンブラントの、穏やかな諦念を感じさせる作品。実質的な妻であったヘンドリッキエへの信頼感が漂い、くつろいで、安らぎに満ちている。
(2011.5.30.国立西洋美術館)

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