Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ルートヴィヒ美術館展

2022年07月30日 | 美術
 国立新美術館で「ルートヴィヒ美術館展」が開催中だ。20世紀美術の流れを概観する展示になっている。ルートヴィヒ美術館はドイツのケルンにある美術館だ。ケルンには主要な美術館が二つある。主に20世紀以降の作品を展示するルートヴィヒ美術館と、主に19世紀以前の作品を展示するヴァルラフ=リヒャルツ美術館。ともにドイツの有力な美術館だ。

 本展は序章プラス7章で構成されている。第1章は「ドイツ・モダニズム――新たな芸術表現を求めて」。第一次世界大戦前後から第二次世界大戦までのドイツ美術の動向を追っている。さすがにドイツの美術館だけあって、簡潔ながら目配りのきいた内容だ。日本で当時の作品をまとめて見る機会は少ないので、感銘深い。

 具体的にいうと、ドイツ表現主義の二大潮流である「ブリュッケ」と「青騎士」の画家たち、そしてその周辺の画家たちの作品が並ぶ。わたしがとくに感銘を受けた作品は、アウグスト・マッケ(1887‐1914)の「公園で読む男」(1914)だ。木々が生い茂る公園。帽子をかぶった紳士がベンチで新聞を読んでいる。紳士の体の傾斜と木々の傾斜が平行線をなす。紳士は木々と一体化しているように見える。緑と青と茶色の色彩が、調和のとれた賑わいを演出する。マッケは第一次世界大戦で戦死した。本作品は戦死したその年に描かれた。

 パウル・クレー(1879‐1940)の「陶酔の道化師」(1929)も優品だ。図案化された男の全身像。男は全能感に浸っているように見える。驕る人物の醜悪さが表れている。台頭するナチズムと関係があるのかどうか。少なくとも大恐慌が起きた年に描かれた作品なので、社会不安が背景にあることはまちがいないだろう。

 ケーテ・コルヴィッツ(1867‐1945)、エルンスト・バルラハ(1870‐1938)、ヴィルヘルム・レームブルック(1881‐1919)の彫刻が来ている。これらの3人の彫刻が揃うことそれ自体が感動的だ。そのうちの1点をあげるなら、レームブルックの「振り返る少女のトルソ」(1913/1914)をあげたい。憂愁をたたえた表情はレームブルックならではだ。制作当時のドイツは第一次世界大戦の勃発に沸きかえっていたはずだ。そんな世相にあって、少女はなにを悲しむのか。

 第2章以下では、第二次世界大戦中のピカソの作品(チラシ↑の右上)、戦後のアメリカのポップ・アート(チラシ↑の右下)等々、20世紀美術の歩みがたどられる。チラシ↑の左の作品はアンディ・ウォーホル(1928‐1987)の「ペーター・ルートヴィヒの肖像」(1980)。ペーター・ルートヴィヒはルートヴィヒ美術館の名前の由来となった人物だ。図像ではわかりづらいだろうが、輪郭をなぞるオレンジ色の線が意外なほど美しい。
(2022.7.4.国立新美術館)

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