現場での「技術の引継ぎ」の重要性について
舞の勤務する 事務所に製造部門の「土屋」が駆け込んできた。 <・土屋>;社長は、どこですか。 <・山田>;外やけど。 <・土屋>;笠巻さんが腰やってもうて。動かれへんようになってん。 <・舞 >;ちょっと行ってきます。 <・山田>;頼むわ。
病院で笠巻さんが舞と話している場面。 <・笠巻>;ただのぎっくり腰や。 娘の佐和子さんが駆けつけて、一人暮らしをしている笠巻を心配するが・・・。
その後、社長のめぐみから笠巻さんの退職が皆の前で発表される。笠巻本人は前から考えていたらしいが、ぎっくり腰をきっかけに、退職を決意したらしい。「引き継ぎはちゃんとしとく」からと言い、今のうちに「なんでも聞いてくれ」と言う。
この笠巻さんがいう「ただのぎっくり腰」というのが労災の認定には、実はむずかしいのだ。ぎっくり腰というのは、「業務に起因」しなくても、起こる可能性があるからです。労災というのは、「業務の遂行上」に起きたというのは、当然としても、「業務起因性」すなわち「業務上の行為が原因として起きたもの」なのかを認定しなければなりません。もともとこの「ぎっくり腰」というのは、急に起こる腰の強い痛みに一般的言われていることばで、いわゆる医学用語ではありませんが、日常的な動作やくしゃみ程度でも起こるといわれており、「ぎっくり腰」の症状だけで、労災の認定はできません。ですから、実はどんな状況でそれが起きたかを、労災申請の際には詳しく記載しなければ、労災の認定を得ることはできないのです。だから、事務所が現場にすぐに駆けつけるような緊急案件なのですが、同僚(それとも上司格?)の山田が舞へ「頼むわ」というのは、ちょっと軽いような気がします。
ぎっくり腰をはじめとして、「腰痛」は日常生活の中でよく起こるものであるため、業務上のものなのかを区別することが難しくなってきます。そこで、厚生労働省では「業務上腰痛の認定基準」を定めていますので、これに基づき労災申請を行えばよいと思われます。そこで認定基準を見ていきますと「災害性の原因による腰痛」と「災害性の原因によらない腰痛」に2つに分かれています。「災害性の原因による腰痛」とは、仕事中の突発的な出来事によるもので、例えば、重量物を2人で担いで運搬中に、そのうちの一人が滑って肩から荷を外したときとか、持ち上げる重量物が予想より重かったとか軽かったとか、あるいは不適当な姿勢によって持ち上げたこと、これらによって、突然に急激な強い力が腰にかかった場合などです。
また「災害性の原因によらない腰痛」とは、日々の仕事で蓄積されたものにより発症、いうならば「慢性疲労による」腰痛ともいうべきものです。この場合、基準では、筋肉等の疲労の場合は、おおよそ3か月以上の従事を基準、骨の変化による場合は、約10年以上の従事を基準として、具体的な業務としては「毎日数時間程度、腰にとって極めて不自然な姿勢を保持して行う業務」等、認定基準ではいくつかの例が挙げられています。
IWAKURAの工場では現場作業であり、この認定基準に沿って判断していくことになりますが、笠巻さんは、何十年といわず現場で働いてきたベテラン。立ち仕事や無理な姿勢での作業や時には重い荷物を持つ作業もあったものと思われますので、労働基準監督署に相談の上、申請できるということであれば、事務部門で協力して申請していくことがよいと考えられます。
よく間違われる従業員の方もいらっしゃいますが、労災申請にあたっては、労働者側の「過失」の有無は関係ありません。例えば、会社でここは滑りやすいので気をつけてと申し合わせていたにも関わらずに、従業員がその日は何とはなしに全く注意していなくて、そこで滑ってぎっくり腰を発症したという場合でも、労災申請には全く影響はありません。民法上の損害賠償には過失等は必要ですが、この過失は労災の要件にはならず、労災の主な要件は「業務起因性」ですので、間違わないでください。
なお、IWAKURAの例に戻りますが、職人さんの「技術の引継ぎ」は緊急の課題で重要な問題であり、なんでも聞いてくれという笠巻に対し、後任の女子工員である土屋が質問攻めにしているという話がありました。ここで出てくる「機械のくせ」などどう伝えていくか、現実として、非常に難しい問題を抱えているのです。実は、朝ドラの話の中では、ドラマの進展にはあまり関係ないので取り上げてはいなところですが、このようにサラリと工場現場の課題を挙げてはいるようですね。
👉 詳しく知りたい方は、次の所を検索ください。
業務上腰痛の認定基準・リーフレット⇒ 検索「業務上腰痛の認定基準 リーフレット」
業務上腰痛の認定基準等について・昭和51年10月16日基発第750号 ⇒検索「業務上腰痛の認定基準等について」