元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

朝ドラ「舞いあがれ」第98話・新たな出発=ただのぎっくり腰・労災認定は?<業務上腰痛の認定基準>過失は要件でない!

2023-02-26 16:47:43 | 社会保険労務士

  現場での「技術の引継ぎ」の重要性について

  舞の勤務する 事務所に製造部門の「土屋」が駆け込んできた。                                      <・土屋>;社長は、どこですか。                                              <・山田>;外やけど。                                                   <・土屋>;笠巻さんが腰やってもうて。動かれへんようになってん。                            <・ >;ちょっと行ってきます。                                            <・山田>;頼むわ。                                                 

 病院で笠巻さんが舞と話している場面。                                      <・笠巻>;ただのぎっくり腰や。                                         娘の佐和子さんが駆けつけて、一人暮らしをしている笠巻を心配するが・・・。

 その後、社長のめぐみから笠巻さんの退職が皆の前で発表される。笠巻本人は前から考えていたらしいが、ぎっくり腰をきっかけに、退職を決意したらしい。「引き継ぎはちゃんとしとく」からと言い、今のうちに「なんでも聞いてくれ」と言う。

 この笠巻さんがいう「ただのぎっくり腰」というのが労災の認定には、実はむずかしいのだ。ぎっくり腰というのは、「業務に起因」しなくても、起こる可能性があるからです。労災というのは、「業務の遂行上」に起きたというのは、当然としても、「業務起因性」すなわち「業務上の行為が原因として起きたもの」なのかを認定しなければなりません。もともとこの「ぎっくり腰」というのは、急に起こる腰の強い痛みに一般的言われていることばで、いわゆる医学用語ではありませんが、日常的な動作やくしゃみ程度でも起こるといわれており、「ぎっくり腰」の症状だけで、労災の認定はできません。ですから、実はどんな状況でそれが起きたかを、労災申請の際には詳しく記載しなければ、労災の認定を得ることはできないのです。だから、事務所が現場にすぐに駆けつけるような緊急案件なのですが、同僚(それとも上司格?)の山田が舞へ「頼むわ」というのは、ちょっと軽いような気がします。

 ぎっくり腰をはじめとして、「腰痛」は日常生活の中でよく起こるものであるため、業務上のものなのかを区別することが難しくなってきます。そこで、厚生労働省では「業務上腰痛の認定基準」を定めていますので、これに基づき労災申請を行えばよいと思われます。そこで認定基準を見ていきますと「災害性の原因による腰痛」と「災害性の原因によらない腰痛」に2つに分かれています。「災害性の原因による腰痛」とは、仕事中の突発的な出来事によるもので、例えば、重量物を2人で担いで運搬中に、そのうちの一人が滑って肩から荷を外したときとか、持ち上げる重量物が予想より重かったとか軽かったとか、あるいは不適当な姿勢によって持ち上げたこと、これらによって、突然に急激な強い力が腰にかかった場合などです。

 また災害性の原因によらない腰痛」とは、日々の仕事で蓄積されたものにより発症、いうならば「慢性疲労による」腰痛ともいうべきものです。この場合、基準では、筋肉等の疲労の場合は、おおよそ3か月以上の従事を基準、骨の変化による場合は、約10年以上の従事を基準として、具体的な業務としては「毎日数時間程度、腰にとって極めて不自然な姿勢を保持して行う業務」等、認定基準ではいくつかの例が挙げられています。

 IWAKURAの工場では現場作業であり、この認定基準に沿って判断していくことになりますが、笠巻さんは、何十年といわず現場で働いてきたベテラン。立ち仕事や無理な姿勢での作業や時には重い荷物を持つ作業もあったものと思われますので、労働基準監督署に相談の上、申請できるということであれば、事務部門で協力して申請していくことがよいと考えられます。

 よく間違われる従業員の方もいらっしゃいますが、労災申請にあたっては、労働者側の「過失」の有無は関係ありません。例えば、会社でここは滑りやすいので気をつけてと申し合わせていたにも関わらずに、従業員がその日は何とはなしに全く注意していなくて、そこで滑ってぎっくり腰を発症したという場合でも、労災申請には全く影響はありません。民法上の損害賠償には過失等は必要ですが、この過失は労災の要件にはならず、労災の主な要件は「業務起因性」ですので、間違わないでください。

 なお、IWAKURAの例に戻りますが、職人さんの「技術の引継ぎ」は緊急の課題で重要な問題であり、なんでも聞いてくれという笠巻に対し、後任の女子工員である土屋が質問攻めにしているという話がありました。ここで出てくる「機械のくせ」などどう伝えていくか、現実として、非常に難しい問題を抱えているのです。実は、朝ドラの話の中では、ドラマの進展にはあまり関係ないので取り上げてはいなところですが、このようにサラリと工場現場の課題を挙げてはいるようですね。

   👉  詳しく知りたい方は、次の所を検索ください。

    業務上腰痛の認定基準・リーフレット⇒ 検索「業務上腰痛の認定基準 リーフレット」 

    業務上腰痛の認定基準等について・昭和51年10月16日基発第750号 ⇒検索「業務上腰痛の認定基準について」

                       

 




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「舞いあがれ」求人サイトの募集は労働契約申込の誘因⇒労働契約は「指揮下労働」「賃金支払」「その合意」があれば成立(賃金額の決定は不必要)

2023-02-11 10:33:26 | 社会保険労務士

 労働契約成立と具体的な労働条件決定は別でトラブル防止のため書面確認・内容の明示義務(労働契約法・基準法)

 朝ドラ「舞い上がれ」(91回・2/10). 社長のめぐみの所へ舞が決裁文書をもってやって来た。めぐみはパソコンを覗いている。

(・舞);メール来ました?    (・めぐみ);全然来てへん。                               (・山田);何のメールですか。 (・めぐみ);求人サイトにIWAKURAの情報を載せたおってな。それを見た人から問い合わせがきてへんかなって、待ってんやけど。                                                         (・山田);そもそも工場で働きたいという人自体が少ないですからね。私も、よう要らん心配されますもん。何で工場なんかで働いているのかとか。仕事きついし、危ないのとちゃうのか。なんかそういうイメージ持たれていますね。  (・めぐみ);なんとかせな、いつまで立っても人手不足やわ。

 IWAKURAの求人サイトの募集は、あくまでも、労働契約の申し込みの「誘因」であって「勧誘的なもの」である。それを見た人(労働者になるべき者)からの「問い合わせ」があって、その人が労働契約の内容詳細を理解することになる。そこで、労働契約が成立するためには、改めて労働者の申し込み(場合によってはIWAKURAからの申し込み)があり、そしてIWAKURAの承諾(場合によっては労働者の承諾)となり、このことにより労働契約内容の合意となって、初めて労働契約の成立に至ることになるのである。だから、求人サイトに上げただけでは、労働契約締結までは、段階的には、まだまだの感がある。労働契約の成立となって、初めて、企業は働いてもらい、労働者は労働して賃金を得ることができるのである。   ※※以下、 労働契約・雇用契約どちらの表現もあるが、ここでは同じ意味と理解してもらってよい。

 さて、商品の売買においては、いくらで買うかという値段は、契約の重要な条件(=法的には「要件」)であり、これが決まっていないと一般的には売買契約は成立しないといっていいのであるが、雇用契約の場合はどうなのか。雇用契約の場合は、これは「賃金」の額に他ならないのであるが、賃金の額が決まらない限り、雇用契約は成立しないのであろうか。             

 労働契約法では、労働契約の成立要件として「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」とある(労働契約法6条)。これは、労働契約の成立は、①、労働者が使用者に使用されて労働すること(指揮監督下の労働) ②、使用者がこれに対し賃金を支払うこと(労働に対し賃金を支払うこと) ③、①②のことで労働者と使用者が合意すること(意思表示の合致)の3つが要件となるとしているのである。

 これに加え、さらに、例えば、具体的な賃金額の合意が必要になるかについては、有名な最高裁判決がある。これは「内定」が雇用契約の成立にあたるのかという争いであったが、いわゆる、この「大日本印刷事件」では、会社側が「採用内定の段階では賃金(額等)、労働時間、勤務場所等の労働条件が明らかになっていないため雇用契約が成立していない」と主張したが、裁判所側は、具体的条件が決定されていない「採用内定」での労働契約の成立を認めたのである。すなわち、①②③の要件が認められれば、当事者間に労働契約が成立しているとされたのである。

 また、荒木・菅野・山川氏の「詳説労働契約法」では、次のように述べている。『労働契約法(6条)は、労働契約の成立に関するこのような多様な現実(すでに契約内容が具体的に詳細に決定しているものやそうでないものもある。)の中で、労働契約の共通の成立要件としては、・・抽象的な労働提供と賃金支払いの合意で足り、従事すべき労働の具体的内容や労働時間等の詳細まで合意されることは必要がなく、同様に賃金の額、決定方法、支払い時期が具体的に合意される必要もない、としたものと解される。』 要するに、使用者が労働の内容、賃金支払いの具体的内容を明示していなくとも、たとえ、これらを後から決定したとしても、労働契約そのものは成立するとの立場をとったものである。また、関連する規則や規程、労使慣行、従前の労働条件等に照らし、その雇用契約を解釈することによって、補充的に決められる場合も多いからでもあると考えられる。        

    ただし、これはどこで契約が成立しているかの判断であって、具体的な労働の内容、賃金額等について、決定されていないことでよいということではなく、その後の継続的な労働関係にある労働者と使用者にあっては、むしろこの契約は事細かに決定されることが必要です。これらが決定されていないことは、後々の労働トラブルの原因となります。そのため、労働契約法では、労働者の理解を深めるため、できるだけ契約内容を書面で確認されるべき旨を規定し、また、労働基準法では、使用者に対して、契約の内容について書面による明示義務を課しているのである。 

 なお、労働契約は諾成契約であり、口頭でも成立するというのは法律的な考え方であるが、上記の通り、労働契約法・労働基準法では、「書面」確認・明示を規定しているのである。

 (参考) 詳解労働法第2版 水町勇一郎著 p457~459  

     労働法      菅野和夫著  p153~154                                                                                               

 

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朝ドラ「舞いあがれ」78話・大きな夢に向かって=複数の会社の得意な技術を組合せて高度な製品を<協同組合法・組織化法>

2023-02-06 15:02:35 | 社会保険労務士

 中小企業組織化法・中小企業協同組合法は成熟した法律であるが協同化等には困難な課題があってそれを指導する中小企業団体中央会が各県にある!!

 舞は「航空機産業参入支援センター」の説明会を参加することを社長のめぐみに提案する。亡き父が抱いていた「最高の夢」であったことを熱心に伝えたところ、めぐみは説明会に参加することに同意した。
 説明会の後半、航空機に参入するには専門的に対応しなければならず規模の小さな工場ではむつかしいのでは?また、資金の援助はしてもらえるのか?との発言があり、参入支援センターとしては、それに対する答えは用意していないということになったが・・・。

小山田(MC);そのハードルを乗り越えるには、どうすればいいのでしょうか。
;  株式会社イワクラの岩倉舞と申します。
    東大阪から来ました。亡くなった父の夢が弊社のねじを航空機に搭載することでした。
    私も、同じ夢を目標に掲げております。
    中小企業が航空機に参入する一つの方法として、私は複数の会社が協力すればよいのではないかと考えます。
    東大阪には、様々な工場があります。それぞれの得意な技術を組み合わせれば、高度な製品を生み出すことが可能です。
    数社が集まって一つの工場を作り、そこで航空機の部品を生産するんです。
    一括受注、一貫生産に対応するため、発注元にもメリットをもたらすのではないでしょうか。
 <説明会終了後、演壇で興味深く聞いていた男性が声をかける。>
荒金 ;岩倉さんとおっしゃいましたか。菱崎重工業の荒金(部長)です。
  ;株式会社イワクラの岩倉と申します。<以上、名刺を交換する>
荒金 ;東大阪でねじをやっておられるのですね。
  ;はい
荒金 ;先ほどの岩倉さんの発言、興味深く伺いました。複数の会社が協力して部品を作る。夢があっていい。
  ;ありがとうございます。
荒金 ;本当にそんなことが可能と思われますか。
  ;はい。東大阪には独自の技術を持ったまち工場がたくさんあります。力をあわせればすばらしいものを作りあげれると思うんです。
荒金 ;力を合わせるということが難しい。それぞれにはプライドと思惑がある。それでも、力を合わせることができますか。
  ;はい 同じ思いがあるからです。自分たちで作った部品を最高の製品に使って欲しい。
荒金 ;だから、航空機部品のチャレンジに同調する企業があるはずだと。
(舞の返事「はい」に続けて)
荒金 ;そして、御社にも優れた技術がある。
(舞の「あります」に続けて)
荒金 ;うん、面白い。
 (秘書;荒金部長お時間が・・・)
荒金 ;では、失礼します。
 株式会社イワクラの社長のめぐみは、舞が手を挙げて、積極的に発言したことに驚いていたようであったのだが・・・。
 そして、舞は菱崎重工業が重工業において、トップクラスであることをめぐみに確認したが、
 めぐみは舞に、そこは亡き父がイワクラの工場を継ぐまで勤めていた会社であることを伝えた。

 舞が考えるような中小企業同士が協力して製品を作りあげるというようなものとしては、制度として、すでに法的には出来あがっている。中小企業組織化法・中小企業等協同組合法であって、組織化法は昭和32年、協同組合法は昭和24年の成立の法律であって、戦後の復興期のころにはすでに成立していた成熟した法律でもある。舞の言うように、中小企業でも得意な技術を出し合い「協力すれば」、高度の製品ができる、これを後押しする法律なのである。基本的には、「協力」の態様としては、主には「協同化」して行うのと「協業化」して行うのが分かれるところであるが、協同は自分ところの企業は現状は一応そのままで、共同生産、共同販売・共同受注等を共同で何かをしようとする場合に使われる。一方、協業化は、各自の事業を全面的に提供して共同経営にしてしまうという、それぞれの会社の事業そのものを統合してしまうというものである。舞が提案した「数社が集まって一つの工場を作る」というのは、この協同化を意識したものであろう。

 荒金部長は「各会社にはプライドと思惑があり、それでも力を合わせるということができますか」と質問した。実はこのことが、協同化・協業化の際に超えなければならないハードルとなる。作者は、この難しい課題を荒金部長を通して指摘したのだ。現実には、その課題を克服するために、各都道府県には都道府県中小企業団体中央会があり、そこに所属する指導員が頑張っているのだ。

 (その後のドラマの展開・第85回) 今回はすぐに量産体制することとなったので、朝霧工業にお願いすることになったが、負けず劣らない試作品を作りあげたイワクラに、将来航空機部品に特化する気はないかと荒金部長が尋ねた。社長のめぐみは、特化の大きなリスクを考えて、今の現状を維持したいと答えた。しかし、その後、荒金部長からは「自動車部品」(エンジンのボルト)の発注を委託され、これこそ自社の機械では作れないところもあり、地区の仲間内で協力してもらい作ろうということになったのである。 
 

  
    

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朝ドラ「舞いあがれ」70/71話・決断の時=退職勧奨はお願いであって拒絶自由なので強制すれば違法・損害賠償の対象

2023-01-29 11:55:25 | 社会保険労務士

 使用者・労働者誠意をもって臨み両者合意により解決するのが退職勧奨(社長の顔が見える町工場にはそれなりの誠意ある勧奨の方法がある!!)

 経営困難に落ち入った会社のIWAKURA。 信用金庫の意向もあって、最低3人をリストラしなくてはならなくなった社長のめぐみ。徹夜し悩んだ末に、その人選をようやく決めた。 

 面接一人目、稲本氏
 めぐみ;これは強制ではありませんが、稲本さんに退職していただきたいと思っています。本当に申し訳ありません。
 稲本 ;そうですか。
   (そのまま、椅子から立ち上がる。)
 めぐみ;再就職先は、いっしょに探します。・・・・(そして)何かご質問はありませんか。
   (稲本、首を横に振る。)
   (そのまま、部屋から出ていく。)

 面接二人目、砂川氏
 砂川 ;何で俺なんですか。
 めぐみ;生産管理から1名辞めていただく必要があんのんです。
 砂川 ;若手違うて給料高いし、かといって、いてへんようなって困るほどのベテランではないというとこですか。
     ええよ、分かりました。お世話になった会社、困らしたかないしな。
 めぐみ;申し訳ありません。 
   (立って出ていく間際)
 砂川 :ほな、近いうちに退職届出しますわ。
 めぐみ;よろしくお願いします。
 舞  ;再就職先探すお手伝いさせてください。
 砂川 ;お嬢ちゃんも、こんなこと手伝うて大変やな。

 面接3人目、小森氏
 小森 ;いやです。退職勧奨ということは、断る自由もあることですよね。
     ほな、断ります。俺辞めません。   

 再就職先を探す過程で、小森さんの就職先については、金属加工をしている「長井」さんの所がいいと地元の会社仲間の話があった。そこで、長井の社長に小森が働いているのを見てもらったところ、「いい職人さんである」とほめていたことを舞が小森の伝えると、小森は次のように話し出した。俺が先代社長(浩太)初めて褒められた「ねじ」やと取り出し、そして「IWAKURAのねじは他とは違うと先代社長はいった。ここで働いていることは俺の自慢でな。けどな、俺が辞めな、IWAKURAがつぶれてしまうのやったら、しゃあないわ、おれやめるわ」。単に意地をこねているのではなく、小森は、このIWAKURAで働くことで、誇りをもって、仕事についていたのである。

 これは、いわゆる「退職勧奨」である。 労働契約の解除については、使用者からの使用者からの一方的な意思表示による「解雇」と労働者からの一方的な意思表示のよる「(依願)退職」がある。これに対して、退職勧奨の場合の「勧奨」というのは、労働者に対して労働契約解約の「申し込みの誘因(誘い)=退職を勧めること」に過ぎない。したがって、退職勧奨は、いわば、会社から従業員に対し「退職してくれませんか」とお願いしているのです。これを受けて、基本的には、労働者が退職届(願)を提出する解約の「申し込み」があって、この申し込みに対して使用者が「承諾」するという「(双方)合意(による)退職」などがあって、初めて「退職」となるのである。

 したがって、小森氏が言うように、退職勧奨は、申し込みの誘いであって、断る自由は当然ありますし、めぐみさんがいうように強制的なものでは全くないわけです。だから、例えば、退職しない意思表示をしているにかかわらず、しつこく何度も勧奨することは、違法となり損害賠償の対象となるので注意が必要です。

 また、砂川氏が「退職届を出しますわ」といったことにネットでの疑義が出されているようですが、確かに、退職勧奨の場合は、単なる退職とは違い「退職合意書」のような合意契約書(退職の合意・退職事由・退職までの出勤要否・私物貸与物の取り扱い等)を結んで、退職届としては提出しないこともあります。しかし、一般の就業規則には、「退職」の規定のみが規定されているところもあり、会社によっては、退職届を要求することがあり得ます。会社としても「退職の意思表示」は確認しなくてはならないことから考えると、退職届の提出を求めることはやむを得ないと考えられます。その場合には、労働者としては、その退職の事由として、一般的な「一身上の都合により」と書くのではなく「退職勧奨により」と書いておきましょう。

 そうでないと困ることが起きてしまう恐れがあります。経営困難による退職勧奨は、雇用保険上は、あくまでも自己都合の退職ではなく、会社都合の退職です。「正当な理由がない自己都合」と取られると、被保険者期間により最悪の場合には、失業手当(法の呼称では「基本手当」に改称されてはいる。)がもらえなかったり、失業手当の支給開始が2~3か月遅れたり、また支給される期間・額に差が生じてしまいます。また、退職金の規定があるところでは、自己都合と会社都合により、支給額に差が生じるところもあります。そこで、繰り返しになりますが、「退職勧奨による」という退職事由は、はっきり記載しておきましょう。

 さらに、条件によっては、退職してもよいという場合もあるでしょう。労働者としては、ある程度納得できる条件になるように、例えば、いわゆる「色をつけること」等を交渉してみる価値があるかもしれません。

 さて、冒頭のIWAKURAの退職勧奨の面談の例は、どう感じるでしょう。亡くなった先代社長の浩太は、小さな町工場から大きな夢を持って少しずつ会社を大きくしていき、その技術は他のどの会社にも負けないほどに成長した。それを見ていた従業員は、大企業と違い、社長の顔もすぐそばにあり、会社のためにかける思いや誇りには強いものがあった。それゆえ、退職勧奨の対象となった当の本人は、砂川氏のように「なんでおれが」という意識もあるが、それは会社の中の自分の位置づけを理解している当の本人が分かっていた部分もある。それゆえ、妻のめぐみが社長に就任して、やむえずリストラしたときは、先代社長やったらそんなことはなかったのにという思いと同時に、会社がつぶれるのやったら、自分がやめるしかないという退職勧奨に応じるようになったと思われる。

 一方めぐみと舞は、まずはこの面談が強制ではないことを伝えた上で、会社の実情から上乗せ給与等が出来ない分、会社としても再就職先を探すことを同時に伝えたのである。そして、事実、めぐみと舞は、再就職先を奔走して探しまわったのである。その過程で、小森が「なぜ辞めないと言った」のかも分かることとなり、従業員の心情に寄り添った点で、結果的には、良い結果を招いたと思われる。リストラするためのリストラではなく、めぐみも舞も誠意をもって従業員の立場にたってリストラで当たったのが、トラブルにならなかったのではないかと思われる。町工場の例であるが、大企業のような厳しい規定の沿ったものではない「ゆるゆる」ではあるが、それはそれなりのリストラの方法があると感じさせられた。<注>

  第80話・81話では、ジェット機用のねじの試作に取り組む過程が描かれたが、退職勧奨で長井金属(後継者問題で廃業のため)に移った小森氏が紆余曲折はあったが、IWAKURAに復帰することになった。                          

 舞;戻って来れるよう、精いっぱい頑張ります。 小森;信じたいけどな。それ無理やろ。

 舞の約束が果たせたのだ!!

 
 
 <注>IWAKURAの退職勧奨は、ドラマの中に描かれていたのは、1回目の退職勧奨である。2回目以降は、1回目で勧奨に応じた稲本・砂川氏に対しては、退職手続きの説明に入っていくことになり、拒否の意思を表明した小森に対しては、退職条件を変えたり、あるいは強制にならない程度で、まだ聞いていなかった拒否の理由を確かめたりして、次の段階に進んでいくことになるのだろう。

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NHK朝ドラ「舞いあがれ」;職業において依然残る「男社会」を変えようとする倫子

2022-12-16 17:04:56 | 社会保険労務士
 労働法の世界では男女機会均等法に加えて2015年女性活躍推進法が成立 

 差別意識の中で、職場の中で今なお根深く残っているものとしては、職業により違いはあろうが、やはり男女差別が挙げられるだろう。ドラマの主人公の「舞」が職業として選んだのはパイロットであり、現実には、これこそ男性優位の社会であり、いわゆる「男社会」である。それゆえ、舞が航空学校に入学して、厳しい訓練・学業の傍らそこでの恋愛感情を描きながらも、作者がこの「男社会」の問題に触れざるを得なかったものと考えられるのである。※注1※

 最終審査まであと5日と迫ったときに、同一訓練のグループの一人・中沢(慎一)が、「妻が突然離婚届を送ってきて、電話をしても出ない」という状況を皆に言った。舞と同部屋の(矢野)倫子は、彼の話は他人ごとではないようではあり中沢に「言いたいことをいったら」ということで、「舞」は倫子と共に中沢の部屋を尋ねる。ちょうどその時中沢は離婚届を出しに行くところであったが呼び止め、話し合う。最終審査の前に余計なことは考えたくないし、また、それに集中できないので、そのまま離婚に応じるという中沢。というのも、妻の方が話をする気がないから仕方がないという中沢に、倫子はどうしたら妻の美幸さんが話してくれるか考えなさいという。
 
 中沢 何で俺が離婚しなきゃいけないんだ。パイロットになって、家族を養って、一体何が不満なんだ。
 倫子 中沢は美幸さんの夢、聞いたことあるの
 中沢 なんだよ急に。・・・俺の夢を支えることか?  
 倫子 本気でそう思ってるの。・・・あんたはまず、最初に理解しなければならないことがある。
    (そして続ける)
    中沢が夢を追いかけられるのは、中沢が男だからよ。
    もし子供を持つ女性が、突然パイロットになるなんて言い出したら誰が応援してくれる。
    きっと止められる!「母親なのに」って!
    それに「パイロットなんて男の職業でしょ」なんていわれて!
    女性の機長だってまだ日本にはいないじゃない。中沢はその意味を全然分かっていない。
 中沢 男が稼いで女が家庭を守る。そう決めたのは世の中だろう。
    (倫子はそこにあったお茶をぶっかけほど激怒する。)
 倫子 だから私は変えたいの。変えるためにここに来たの。
    自分の人生を、世の中に決められたくない。男も女も関係ない。・・・
    私がパイロットになりたいと思ったように、美幸さんもやりたいことがあるかもしれない。
    中沢は、これまでそういう話を聞いてこなかったんじゃない。
    中沢は、気がついているんでしょ。美幸さんの気持ちから目を背けていたってこと。
    逃げずに美幸さんと向き合うべきだと思う。中沢ならできるよ。
  ⇒舞は、倫子がこんな強い思いで、この学校に来ていたことにおどろきを覚えた。

   その後、中沢は同部屋の吉田に騒がせしていることを謝るとともに
   レターセットを借り手紙を書いて、後日、妻と話し合うことになったとナレーションは伝えた。

 現実の世界(家庭・社会)がまだまだであることを、中沢(男)と倫子(女)のこれらのせりふが全てを言いつくしている。
 
 労働法の世界では、労働基準法の男女差別賃金の禁止、そして1972年に成立した男女雇用機会均等法による男女差別の諸待遇の禁止規定が出来たが、日本の雇用システムに根差した男女間の採用・昇進等の格差は解消されずに、女性の職業生活と家庭生活の両立はなお困難な状況にある。そこで政府は、2015年に、10年間の時限立法として、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(「女性活躍推進法」)制定した。これは、①女性への採用・昇進等の積極的な提供とその活用 ②職業生活と家庭生活との円滑・継続的な両立を可能とするための「環境の整備」 ③職業生活と家庭生活の両立に関する「女性の意思の尊重」 を基本原則として、女性の職業生活における活躍を推進することを目的としたものである。※注2※

 ※注1※ 「舞い上がれ」’22年12月14日(水)放送分=第11週(第53回)「笑顔のフライト」
 ※注2※ 参考 詳解労働法 水町勇一郎著 P344~

 
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