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1時間でわかる安保縫製

2015-05-29 06:09:00 | 政治
安倍首相をトイレに走らせた江田質問です。さすが橋本龍太郎首相秘書官時代には官邸を牛耳っていたといわれただけに、政府側の安保・防衛論議を知悉していて、安倍首相をはじめ、内閣法制局長官、外務省条約局長の答弁をボロボロにしてみせました。江田の論点は明快でわかりやすく、国会中継なのに少しも退屈しません。

といっても、一時間も視聴するのはどうもが人情というもの。そこで前半だけ、個別的自衛権と集団的自衛権の国際法上と日本政府との解釈の違いの部分、12分30秒までを書き起こししてみました。この基礎理解がすめば、集団的自衛権や周辺事態法の改定まで、政府側答弁の逃げ道をふさぎながら、安保縫製の破綻を指摘していく、江田法制論の醍醐味を味わうことができます。

後ろの席の辻本清美議員がほとんど感動の面持ちで聴き入っているのが印象的です。憲司という名前は伊達じゃなかったんですね。

江田憲司(維新) 【衆院・平和安全特別委員会】2015年5月28日


江田委員:維新の党・江田憲司でございます。
維新の党もですね。安全保障環境の変化、とくに核・ミサイル技術の進展、武器技術の発達等々によってですね、通常兵器しか持たなかった時代に比べて、軍事オペレーションは大きく変容してきたわけですから、それに応じてしっかり国民の生命財産を守る、領土領空領海を守ることは政治家のいちばんの責務だと思っております。

ただ、この安保法制につきましてはどの世論調査をしても、多くの国民の皆さんが不安や疑念をお持ちだという結果が出ています。この70年、平和国家として歩んできた、平和国家日本、さらには専守防衛という国是、それがこの法案によって、根底から揺らぐのではないか、こういう不安だと思います。

安保法制は膨大な法案ですから、維新の党はじゅうぶんな国会審議を通じて、徹底的に問題点を洗い出し、そして、反対だけの反対をしませんから、しっかり対案を、われわれの考えを国会審議を通じて示して、自衛隊の海外活動、海外派遣に関してはしっかり歯止めをかけて、平和憲法の趣旨、専守防衛という国是に照らしてしっかり歯止めをかけるということで、国民の皆さんの不安を払拭していきたいと思うんですね。

国会審議に際しては、これは憲法論争、法律論ですから、私は情緒的な議論は一切致しません。政府の皆さんがよくいわれるように、これまでの憲法解釈との論理的整合性、さらには最高法規たる憲法の法的安定性、こういった観点から、しっかり憲法論議、法律論議をしていかなくてはいけません。

法律論議とは、国際法を含めた法律論議をしていく。当然、集団的自衛権に関する有名な判決、国際司法裁判所のニカラグア判決、さらには国際法学会の通説、そういった考え方に則って、日本でしか通用しない議論は絶対しちゃいかんと思っております。集団的自衛権、個別的自衛権というのは国際的な概念ですからね。

そういう意味で、論理的整合性や法的安定性について、私なりに質問して参りますのでよろしくお願いします。

まずはパネルをご覧いただきたい。


パネル1 (集団的自衛権の)新3要件の政府解釈

1.「明白な危険」=(等しい)「国民にわが国が武力攻撃を受けた場合と同様の深刻、重大な被害(戦禍、犠牲)が及ぶことが明らか」
         ≒(ほぼ等しい)「武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態」(防衛出動の要件)

2.「我が国の存立を全うし、国民を守るために(他に適当な手段がない)」の文言は、  「他国防衛」ではなく「自国防衛」の趣旨を明確にしたもの

3.1+2=「個別的自衛権」

これは累次、政府の皆さんがご答弁をされている、1は、「国民の幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険とは」、「国民にわが国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻な重大な被害-戦禍、犠牲ともおっしゃってますが-に及ぶことが明らかである」というものです。

2では、「他に適当な手段がない」というところだけよく引かれますが、そうじゃなくて、2のポイントはあくまでも、「我が国の存立を全うし、国民を守るために」ということです。安倍総理も、これは他国防衛ではなく自国防衛なんだとよく云われますよね。であればですね、私が理解する国際法の常識ではこれは個別的自衛権だと云わざるを得ないんです。

それで、昨年の7月(集団的自衛権を)閣議決定をされたときの総理の会見では、こんなことをおっしゃってるんですね。8頁に及ぶ閣議決定文の中で、集団的自衛権という言葉はたった一か所しか出てこない。しかも主文のところじゃなくて、判決でいえば傍論的のところで、国際法上は集団的自衛権が根拠となる場合があると書かれているだけですね。
くわえて安倍総理はこうおっしゃってるんですね。集団的自衛権が現行憲法の下で認められるのかという観念論ではなくと。それから新3要件はいままでの3要件とほとんど同じですと云われている。

ですから、安倍総理、どうしてこれが集団的自衛権の限定要因になるんでしょうか、私にわかりやすく説明いただけないでしょうか。

安倍総理:個別的自衛権とは、一般に自国に対する武力攻撃を実力をもって阻止することが正当化される権利をいい、集団的自衛権とは一般に、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止することが正当化される権利をいうと、このように解されてきております。

日本国憲法の下で、我が国による自衛の措置として武力の行使が許容されるのは、あくまでこの新3要件が満たされる場合に限られるわけでございます。そこで、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命・自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」と書いてあり、そして、「他にこれを排除する適当な手段がない」と書いてあるから、江田委員は、これは個別的自衛権ではないかという主旨のご質問だと思います。

しかし、現象として、現象としてですね、我が国に対する武力攻撃が発生していない、そして目的が事実上我が国の存立(を損なう)ために行う武力行使だとしても、密接な関係のある他国に対しても武力攻撃が発生している以上、国際法的には集団的自衛権として行使しなければ、個別的自衛権としては行使できない、このように我らは理解しているところであります。


江田委員:いま安倍総理がおっしゃったことはまさにこれまで日本政府が取ってきた立場でありまして、これがいかに国際法上でいくと、(個別的自衛権を)必要以上に狭く解釈した、日本特有の解釈であったということをこれからご説明したいと思います。

パネル2 集団的自衛権について国際法上の学説

①他国防衛説
=他国を防衛する権利
(刑法上の正当防衛のうち「他人の権利の防衛に相当」)
  ※ 通説=国際司法裁判所(ICJ)ニカラグア判決

②死活的利益防衛説
=他国への攻撃で自国の利益が死活的に害された場合に行使

国際法上の学説がありまして、集団的自衛権とはあくまでも他国を防衛する権利、これは国内法の刑法の正当防衛の項目を読んでいただければ、自己または他人を防衛する権利が正当防衛なんですね。したがいまして①が、集団的自衛権なんですよ。

で、いま総理がおっしゃったのは②なんですね。少数説です。死活的利益防衛説といって、これは他国への武力攻撃の結果、自国の死活的利益が害された場合に行使できる。これを集団的自衛権だと解するのが②なんですが、これは残念ながら少数説なんですね。通説じゃないんです。まさに、今回の存立危機事態に書いてある要件は、まさに②に対している。よく似てるんですね。ホルムズ(海峡)の問題でもそうでしょ。要は、この②の説を採用して集団的自衛権というのは間違っているというのを一点申し上げておきたいと思います。

次のパネルを。国際法の概念を簡単にいうと、自国を守るための権利が個別的自衛権、他国を守るための権利が集団的自衛権、これは国際司法裁判所の解です。国際司法裁判所というのはご承知の通り、いうまでもなく国際法の有権解釈をする唯一の機関ですからね。日本政府といえどもこれに異を唱えることはできないわけであります。

それでこういうことなんですね。自国が攻撃されたか、他国が攻撃されたか、という現象面をとらえて、自国が攻撃された場合は個別的自衛権、他国が攻撃された場合は集団的自衛権といったんです。ですが、国際司法裁判所の理解では、他国が攻撃されたといっても、結局それが自国を守るために発動されたならば、それは個別的自衛権だと、これは確固とした国際法上の解釈なんですよ。

パネル3

(日本政府の個別的自衛権)(国際法上の個別的自衛権)   
自国が攻撃される  → 自国を守る権利
               ↗
(日本政府の集団的的自衛権)(国際法上の集団的自衛権)
他国が攻撃される  → 他国を守る権利


以上のようになっています。安倍総理、私は湾岸戦争、PKO法案のときも三日三晩徹夜したときには、国会対応として官邸におりました。周辺事態法のときも私は携わらせていただきました。橋本総理は非常にご熱心で、執務室に外務官僚、防衛官僚呼び入れて、逐条でやりました。

なぜ、日本政府がこういう対応になってきたかというと、いちばん大きいのは憲法解釈ですよ。私は大学時代、芦部信喜先生、宮澤俊義という憲法の大家の一番弟子で、芦辺信好先生に憲法学を教えてもらいましたが、いまでも憲法学会の通説は自衛隊は違憲ですからね、文言解釈上違憲だというのは通説ですからね。安倍総理には釈迦に説法ですけども、(9条の)2項で戦力の不持や交戦権の否認がある。

ですから形式文言的には違憲ですが、自衛隊はこれだけ国民に定着して愛されてしかもリスクを負ってがんばっていただいている。自衛隊をちゃんと位置づけていくべきだとは思っているけれど、(憲法とのかねあいから)戦後の歴代内閣は知恵を絞って、必要最小限の自衛の措置だとやってきたわけですね。ですから国際的なスタンダードからすると、大変狭く(個別的自衛権を)解釈してきたと。それはやむを得ない面もあったと私は思ってるんですね。

ですから、私はいままでの憲法解釈との論理的整合性というのであれば、最高法規の憲法の法的安定性というのであれば、やはりいままでとってきた個別的自衛権は必要最小限度認めるけれど、集団的自衛権は認めないという法理、論理的整合性を逸脱しては絶対ダメだと思ってるんですよ、絶対、絶対。

その限りにおいて我々維新の党の考えは、個別的自衛権を必要以上に狭く解釈していたところをですね、さっき申しました、核・軍事オペレーションの発達とか、武器技術の進展とか、安全保障環境の変容によって、通常兵器敷かない時代とは格段に変わっているから、そのために万全の措置をとるために、個別的自衛権の範囲を国際標準に合わせて適正化をするということで、かろうじていままでの憲法解釈の整合性を図っていくということなんです。

※重複を避けたり、煩瑣な会話体を読みやすくするために多少の補正をくわえています

この質疑のハイライトは、周辺事態法改正の「立法事実を示せ」でしょうね。どこに法律を変える必要がある具体的事実があるのか。南シナ海なのか、ホルムズ海峡なのか。どこで、その「立法事実」は起きているのか?その質問のさなかに、安倍総理は消えます。「あれっ、安倍総理はどこへ行ったんですか?」と江田委員が尋ねると、自民党席から、「ちょっと、トイレへ」という誰かの声が。

(敬称略)