おっ、S・ハンターの新作が出たかと本屋で手に取り、パラパラと読んでみたら、あまりの珍作に、見なかったことにしていた、
「四十七人目の男」(S・ハンター 扶桑社文庫)
が亀戸のブックオフに上下とも並んでいた。
おっ、S・ハンターの新作が出たかと手に取り、パラパラと読んでみたら、あまりの珍作に、見なかったことにしていたのを思い出し、棚に戻しかけて、帯文が目に入った。
「本書を執筆することになった根源は、アメリカ映画が新たな”低み”に達したために、職業的映画批評家としてのわが人生にふさぎの虫が巣食ったことにあった。その泥沼のなかで、わたしは山田洋次監督の『たそがれ清兵衛』を観て、即座に復活した。そして、それがもととなって、サムライ映画を観まくる二年間を送ることになり、その妄念は最終的に・・・サムライ小説を書くというアイデアに結実した」(本書・下巻「謝辞」より)
「アバター」を観たから、アメリカ映画が新たな”低み”に達した、にまず同感した。「職業的映画批評家としてのわが人生」は初耳だった。へえと思い、その謝辞と解説を読んでみた。
世界一から三番目のいずれかのスナイパー(狙撃手)であるボブ・リー・スワガー元海兵隊一等軍曹を主人公とした、冒険ミステリ小説の大ベストセラー作家に本業があるのは意外だった。
その本業とは、ボルチモアサン紙やワシントン・ポスト紙など一流紙の映画批評を担当し、映画批評でピュリツァー賞まで受けているというから、さらに驚いた。なおさら、新たな”低み”に達したアメリカ映画とは何だったのか、それがが知りたくなり、タランティーノの「キル・ビル」を小説にしたような、本作を読むことにしたわけだ。
読み終わった。やはり、前人未踏の珍作だった。原題が「The47th Samurai」のように、赤穂浪士四十七士の吉良邸討ち入りがモチーフ。吉良は「ショーグン」と呼ばれるアダルトビデオ業界の帝王であり、「女子高生がブロージョブ」するようなコスプレ作品を得意とし、金髪女優を擁する外資系資本から「日本」を守ろうとしている。「ショーグン」のボディガードで、ヤクザ組織新撰組を率いるのが、剣の達人・近藤勇。ボブ・リー・スワガーは、今回は狙撃銃ではなく、「キョート」で一週間、剣道を習い、日本刀で近藤勇と切り結ぶ。あらすじを書くのが嫌になるほど、私たちにはデタラメに溢れているが、もちろん、主たる顧客は欧米だから、しかたがないのだろう。もしかすると、私たちの欧米の文化に対する理解も同程度かもしれない。とはいえ、スラスラ最後まで読ませるところは、たいしたもの。
新たな”低み”に達したアメリカ映画については、わからなかった。アメリカでの刊行年がわかれば、執筆時に公開されていた映画を特定するのは、そう難しくないはず(この項続く)。
(敬称略)