コタツ評論

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ちりとてちん

2007-11-11 01:51:05 | ノンジャンル
http://www3.nhk.or.jp/asadora/

ほんの少し前まで、朝のNHK連続ドラマを欠かさず視聴するようになるとは、想像だにしていなかったが、毎朝、『ちりとてちん』を楽しみにしている。脚本・演出・役者と三拍子揃って、すこぶる上出来なのである。小浜の箸屋から上方落語一門・徒然亭に舞台が移ってさらに好調。新橋演舞場に掛けたいほど上質の軽演劇になっている。

第一は、徒然亭一門に草鞋を脱ぐ和田喜代美役の貫地谷しほりがすこぶるチャーミング。福井は小浜の冴えない女子高生が一念発起して大阪に出てきたらしく、ファッションセンスゼロの服装がよく考えられている。実は、ビーコ(喜代美のあだ名)はコンプレックスを抱くエーコより、はるかに美形な顔立ちなので、このくらいデブッと見せるあか抜けない恰好をさせなければ、悩めるパッとしない女の子に見えないし、だからこそ左斜め45度の笑顔が観音菩薩のように美しく映えるのだ。

役者陣はどれも好演しているが、第二は徒然亭草若役の渡瀬恒彦。ちょっと談志風の役作りだが、飄々として男の稚気と色気が藍染めの手拭いのように、鮮やかに染み出て絶品。ひょいと肩を落とした歩き方が落語家らしくて粋だ。復帰して和服姿の師匠になる草若を早く観たい。元芸者の喜代美の祖母役の江波杏子も、ドラマの軽さに重石を加えて円熟。母親役の和久井映見のとんちんかんぶりも、そのとろくてのんびりした小浜弁と相まって可笑しい。

第三は、上方落語一門を舞台にした企画。といっても、コテコテの大阪弁を使わず、落語通には不満だろうが、噺を劇中劇にするなど工夫が楽しい。落語が好きでたまらない人間を品よく描くところに主眼が据えられていて、上方落語に興味のない人でも魅きこまれてしまうはずだ。ほんの触りだけといっても、さすがに役者たち、落語が上手く聞こえるのも驚きである。

「ビーコ」から「喜代美ちゃん」と呼ばれるようになって、やがては草若の弟子入りして落語家になるのだろうが、いまの貫地谷しほりしか様にならない「ゲッ」と目を丸くして驚く少女漫画的演技(可愛い!)をどう落語的演技に昇華させていくのか、とても楽しみである。貫地谷しほり、大女優になる。渡瀬恒彦、役所広司を抜く。
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