「ブランデー、水で割ったらアメリカン」なんてCMが80年代初頭にあった。
そんなCMを見たためか、当時、アメリカンコーヒーはコーヒーをお湯で薄めたものと理解していた。しかし、その昔々のある日、さる友人からそれは誤解でアメリカンコーヒーとは浅いローストで普通に入れるコーヒーであっさりした味わいだが、実際は薄くないし、カフェインも色に反して強いものだ、と教わった。ちゃんとした喫茶店だとそういうコーヒーが出るから飲めばわかる、とも言われた。
先のCMだが、出演しているのはシェリル・ラッドというチャーリーズ・エンジェルスに出演していた女優でなかなかセクシーで格好良かった。ベストヒットUSAなんて番組で「洋楽」をチェックすることが流行の最先端を行っていると思われていた時代だったから、当時「アメリカン」はセクシーで格好良いことだった。浅いローストであっさりした味わいながらも強いカフェイン、なんかその響きも格好良くて「ちゃんとした」と思われる喫茶店でオーダーしてみた。で、出てきたのは、、、、単にお湯で薄めたレギュラーコーヒーだった。味もコクも当然あるはずがなく、しかも値段も他のコーヒーとほとんど変わらず、非常に損した気分になった。
それから5年ほどたった80年代後半、スイス製のエスプレッソマシンで「泡の出るコーヒー」を売りにしているある喫茶店で「アメリカン」の文字をメニューに見た。おそるおそるどんなコーヒーか聞いてみたらエスプレッソをお湯で薄めたもので濃さは普通のレギュラーコーヒーと同じくらい、とのことだった。それを聞いて注文して飲んでみた。濃度もブラックで飲むのにちょうど良かった。今で言うアメリカーノだが、当時はそんな名前を知らなかったし、それに知っている人は皆無に等しかった。
感激してその後、通ってエスプレッソを飲んだが、今思うと味はそれほどでもなかったように思う。その少し前にイタリアンレストランではじめて飲んだエスプレッソに比べれば味は劣っていた。クレマもエンハンサーで作られたもののような気もする。エスプレッソマシンと言えばイタリアンレストランでその前に見たごついマシンしか知らなかったが、その店ではもしかして家庭用のマシンで淹れていたのかもしれない。(スイスのエスプレッソマシンと言えばもしかしてソリス社製?) そうだとしても当時、エスプレッソを売りにしていた喫茶店はほとんどなかったのでかなり先進的な喫茶店だったと思うのだが、先進的すぎたのか、2~3年で閉店してしまった。
それから7~8年。アメリカに実際に滞在してレストランやダイナーなどでコーヒーを飲んだが、彼の地でコーヒーのどこがどうで何がアメリカンなのかはわからなかった。アメリカのコーヒーは単なるコーヒーで誰もアメリカンなどと頭にはつけていなかった。アメリカにはエスプレッソを薄めた(カフェ・)アメリカーノ(Caffè) Americanoと呼ばれる飲み物はあってもアメリカンコーヒーという固有の飲み物はないようだ。
アメリカンコーヒーの実際の由来は調べても良くわからなかった。ここからは自分の憶測だが、、、おそらく、その昔イタリアでエスプレッソが苦すぎると文句をつけたアメリカ人がいたんだろう。そこでバリスタが頭にきてコーヒーをお湯で薄めて出して、半ば嘲笑の意味をこめて「カフェ・アメリカーノ(アメリカン・コーヒー)」と名前をつけ、それが日本に伝わってエスプレッソが珍しかったため、コーヒーをお湯で薄めたものと理解されたのではないか。アメリカの物が格好良かった時代なので一気に広まった。でも、コーヒーをお湯で薄めると言うのは絶対変だ、自分がアメリカで飲んだコーヒーはこうじゃない、と思った日本人がいて、考えに考えて、アメリカで見た浅煎りのローストのコーヒーがそうなんだ、と言い出した、といったところが落ちのような気もする。
いずれにせよお湯で薄めたコーヒーで堂々と商売していた時代から25年余り、エスプレッソもそこらへんで当たり前に飲める。コーヒーの値段はそうかわらないか、安い。バブルははじけてしまったが、生活は確実に豊かになっている。
エスプレッソマシンで普通にエスプレッソを淹れ、マシンのお湯を作る装置で1:1にお湯をそぐ。お湯は直接マシンから注いでいるが、クレマの出来がいいとつぶれない。
クレマがつぶれないように淹れる。