徒然なるままに…なんてね。

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ほとんど…小説…だったりも…します。

一番目の夢(第二十一話 嵐の前2)

2005-05-30 18:00:00 | 夢の中のお話 『樹の御霊』
 「大叔父さまたちは、樹と修さんのことをなぜ知っていたのだろう?」
気を落ち着かせながら透は呟いた。 
 
 「誰も知っちゃいないさ。相伝の時には樹の御霊を招霊するから、儀礼的にそう呼んだだけだ。
まあ、次郎左だけは少しは感じとっているかもな。」
雅人は事も無げに種明かしをして見せた。

 「何でも知っているんだな。おまえが宗主になってしまえばいいのに。」
透が毒づくと、雅人はニヤニヤ笑うのをやめて真剣な表情になった。

 「君が知ろうとしないだけさ。何でもかんでも修さんに頼りきりだから…。冬樹もそうだったんだろうけどね。おんぶにだっこ…それじゃあ、真実は見えてこないぜ。お坊ちゃん!

 君には宗主になるチカラはあっても、そのブレーンとなる力量がないんだよ。ブレーンが最高なら、宗主はドンと構えて動かなくていい。本当に重要な決定だけをすればいいんだ。
ブレーンたるものにはトップを支えていくだけの技量が備わっていないとね。

 修さんはそれを見抜いているから、自分では宗主にならない。勿論、僕もそうだ。」

 雅人の言い方には決してとげがあるわけではなかったが、透は全身を鞭打たれたような衝撃を受けた。修が雅人を連れてきた理由は、単に囮に使うというだけのものではないことが今になって理解できた。

 「と…もう一つの理由。君が宗主にならなければ、君のお母さん、豊穂さんが泣く泣く紫峰に嫁いだ意味も、僕の母が追い出された意味も無くなってしまうだろう?
 これは豊穂さんに対する修さんの気持ちでもある。」
雅人はまたニヤニヤ笑いを始めた。

 いけ好かない奴だと透は思った。しかし、雅人の言うことはいちいちもっともで、反論しようにもその根拠を見出せない。

 「こんな会話、あいつに聞かれたらやばいな。」
返す言葉に窮した透はふと、ここが一左と同じ屋根の下だということを思い出した。

 「大丈夫。奴がどんなに聞き耳を立てようと、口喧嘩にしか聞こえないようにしてある。」
どこまでも用意周到な雅人だった。

 「透…君や修さんのようなまとまった大きなチカラは残念ながら僕には無い。だが、幸いなことに多種多様なチカラが備わっている。それ相応のレベルでね。だから、修さんの片腕として働いていける自信がある。
 僕は決して君をけなしているわけじゃない。自覚して欲しいだけだ。どの道決まっていることなら、君は君の意志で宗主になれよ。今のままじゃ成り行き上仕方なくって感じだぜ。」
 
 図星だった。この期に及んでも透の気持ちは定まっていなかった。敷かれたレールの上を黙って歩いているだけで、宗主に成ろうとする理由がいったい何なのか自分でも理解していなかった。。

 「ま…トップがそんなんじゃ組織は潰れるね。いくら最高のブレーンが居てもさ。
修さん命の掛け損かもね。」
呆れたように雅人が言った。

 
 
 仕事を終えた後、修は黒田のオフィスを訪ねていた。そこは以前に透が軟禁状態にされていた屋敷ではなく、黒田の表向きの仕事場兼住居で今までにも何度か訪れたことがあった。
 時計が22時を告げたとき、二人は今現在の本物の一左が置かれている状況を確認し終え、今後についての一応の話がついたところだった。

 「透の修行がたった三日というのは不安材料だな…。」
黒田は何気なく呟いた。

 「済まん。僕がもっと早くから手を打っておけばよかったんだが…。」
修は自分の非を詫びた。

 「いや…あんたはよくやってくれたよ。いい子に育ててくれた。」

黒田にそう言われて、修は黙ってうつむいてしまった。

 「修…?」

 「僕は…透を甘やかし過ぎた…。冬樹も…。もっと早くから鍛えておくべきだったんだ。
そうすれば…死なせずに済んだ…。」
ずっと自分の胸にしまっておいた悲しみが修の中から溢れ出した。
涙が止め処なく修の頬を伝った。


 「修…あんたのせいじゃない。」
黒田は思わず修の肩を抱いた。
『済まなかった…』と何度も心で繰り返しながら…。





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