徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

一番目の夢(第八話 闇喰いに喰えぬ闇)

2005-05-11 13:18:32 | 夢の中のお話 『樹の御霊』
「昨日、黒田から連絡があった。」
自分宛の書簡を受け取る際に、貴彦は修に囁いた。
 
 修は貴彦の後継者として将来を嘱望されており、表向きは秘書のようなものだが、実際には紫峰の息のかかった組織や会社などを監査して回るような仕事をさせられることも多かった。年の若い修には荷の重い仕事であるが、不思議なことにこれといったトラブルもなく、周囲の人望も厚かった。

 「もはや、藤宮を巻き込むことは避けられん。申し訳ないことだ…。」

 近い親類とはいえ他家に助力を要請するなど、紫峰家を支えてきた貴彦にとっては苦渋の決断だった。金銭的なことならばはるかに藤宮家を凌ぐ紫峰といえど、隠居次郎左には一左の向こうを張って余りあるチカラがある。残念ながら貴彦の敵う相手ではない。
 
 「貴彦叔父さん。次郎左大叔父さまだけがご存知なんです。僕はまだ生まれてなかったし、貴彦叔父さんだって会われたことはないのでしょう?もし違っていたら…僕らは大変な罪を犯すことになるのです。」
躊躇う貴彦を尻目に、修はきっぱりと言い放った。
 
 『そう…これは人の命にかかわる事…体面を考えている場合じゃない。誰の力を借りようと真実さえ判ればいい。』
藤宮へのこだわりを捨てきれない貴彦をじれったそうに見つめながら、修は心のうちで呟いた。

 時間がない。このままでは助けられないかもしれない。もし助けられなかったとしてもこれ以上は、悪しき野望の犠牲者を出させてはいけない。そんな思いが修の胸で渦巻いている。30年近くにわたって紫峰家を覆っている黒い闇。それを取り払ってこそ自分がここにこの時代に生まれた意味がある。

 『さすがの闇喰いもこればかりは喰いきれぬか?』
修は何故かソラの顔を思い浮かべた。大昔、人々に怖れられて封じられた魔獣。だが、愛嬌のあるその姿は今なら、飼ってみたいペットのナンバーワンになれそうだ。ソラと名付けたのは修本人。白い雲のような顔の中に青い目が光っている。

 『あいつのニタニタ笑いだけはいただけないが…。』
そう言いながらも、修はその笑顔がまんざら嫌いでもない。ふと、そんな笑い顔をどこか他でも見たような気がした。
 『黒田…か。』

ワルを気取る黒田の錆び付いたような微笑が修の目に浮かんで消えた。




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