徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

一番目の夢(第三話 紫峰の家)

2005-05-02 17:40:21 | 夢の中のお話 『樹の御霊』
 紫峰の家は、歴史に名を遺すような知名度の高い家系ではないが、平安以前から続くといわれる旧家である。多くの名家が時代とともに没落していったにもかかわらず、不思議なことにその財力と権力を増しながら現在に至っている。まるで、時の網目をくぐり抜けて来たかのように、飄々と存続し続けていた。
 
 現当主には先代の趣味で一郎左衛門という名前がついており、仲間内では紫峰一左で通っている。何不自由ない生活に、傍目から見れば順風満帆な人生を想像するが、久しく一族を覆っている闇に、心安らぐことのない日々を送っていた。
 
 一左には次郎左、三左と呼ばれる弟がいるが、この三左が失踪したのを皮切りに、妻である蕗子、跡取りの長男和彦・咲江夫妻、三男徹人・豊穂夫妻が相次いで亡くなり、紫峰家の財政面の要となっている次男貴彦も、過去の経緯から黒田という男によって頻繁に嫌がらせを受けていた。
 
 しかし、何よりも一左を悩ませていたのは、彼が跡取りと決めている徹人の子、冬樹が何の能力も持たない普通の少年であることだった。
 
 自分の血を直接引いているわけではない透には大きな能力がある。その上、今回のことで、長男和彦の忘れ形見、修にとてつもない能力(チカラ)が隠されていることが発覚した。紫峰家の裏の顔を思えば、この二人を無視して冬樹を立てることが得策かどうか。

 『修に押し付けたのが間違いだったか…。』
一左は今更ながらにそう思った。



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