徒然なるままに…なんてね。

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ほとんど…小説…だったりも…します。

一番目の夢(第四話 紫峰の子)

2005-05-03 15:11:42 | 夢の中のお話 『樹の御霊』
 跡取りだった和彦が他界した後、一左は修を差し置いた形で徹人を後継と決めた。修がまだ五つか六つの頃のことだし、止むを得ないことだったと思っている。成人した今となっても修自身は何も言わないし、言うつもりもないらしい。かえって跡取りなど面倒くさいと考えているようなところがある。冬樹を立てることを決めた時も別段何とも感じていないようだった。
 
 しかし、もしあの頃、修がこれほどの能力(チカラ)を持っていることが一族の中に知れていれば、当然、徹人をなどと口にもできなかったに違いない。なぜなら、徹人は今の冬樹よりはましとはいえ、やはり能力的に劣っていたからだ。

 豊穂を徹人と結婚させたのは、豊穂が徹人の能力を補って余りある大きなチカラの持ち主だったからで、徹人を後継として一族に認めさせるための布石でもあった。
 そのために、すでに黒田と一緒になって幸せに暮らしていた豊穂を無理やり離別させ、その御腹の子ともどもさらうようにして連れて来たのだった。
 
 豊穂は紫峰家で透を産み、翌年に冬樹の母となった。もともと丈夫ではない豊穂は、子供を産んでからは寝たり起きたりの状態で、透と冬樹の世話はほとんど小学生の修がしていたようなものだった。勿論、屋敷には何人もの使用人がいるのだが、彼らでは両親の代わりには成り得なかったのだ。すべての責任が幼い修の肩にかかっていたわけだが、一左も徹人も何故か手を差し伸べることをしなかった。

 やがて、徹人が他界し、後を追うように豊穂もこの世を去ってしまうと、一左はますます子供たちを顧みなくなった。修は普通の子供のように遊ぶこともせずに、従兄弟である紫峰の子を育て続けたのだった。
 
 『何故…?』
一左は今になってはじめて修について振り返ってみた。長年ともに生活をしながら、修の心はまったくといっていいほど一左には見えてこない。何を考え、どう動こうとしているのか。今の一左には黒田の存在よりも修の方が脅威とも思える。

 だが、ここで一左はその不安を振り払った。修には紫峰を支配しようという欲はない。あれほど冬樹や透をかわいがっているのだから…と。



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