始めに「お詫び」
張景岳のスライドに誤りがあったので訂正してお詫びします。張景岳とすべきを、張岳景と誤記しました。山岳景色と入力して「山色」を消去した結果です。景色山岳と入力して、「色山」を消去しなくてはなりませんでした。お詫びいたします。次回からは間違えないように氏名単語登録いたしました。
訂正後のスライドを2枚表示いたします。
張景岳略歴1
張景岳略歴2
眼に見えない痰について、景岳全書、張景岳は「眩暈 頭重」に関して、こう述べています。
眩暈や頭重は、虚実を中心としてその原因を弁証していくとよい。
何かの病気の最中に眩暈するものは、清陽が昇り難くなって上が虚したためになる。
(清陽不昇という概念を私は中医基礎理論で学びました)
朱丹渓が、「痰無ければ暈なし」と言っている通りである。完璧な論ではない。
(「痰無ければ暈なし」の病因論は、同じく中医基礎理論で学びました)
その形と気とを合わせて観察し、また慢性病と急性病とを分けてよく弁別すべきである。(内経)に、(上虚すれば眩し、上盛ならば熱痛する)その意味をよく理解するべきである。(頭重の場合はとりわけ上虚に属する)とあり、また、(上焦の気が不足すれば脳満ちず、頭を傾けると苦しい)とあるのはこの意味である。この意味とは「清陽不昇」ということでしょう。
張景岳は朱丹渓の「痰」に言及していますが、では「痰」とは何かを具体的に記述してはいないようです。いまだに中医学者が具体的に示していないのですから、「痰」とは、朱丹渓にも張景岳にも明確に定義できない「概念」である「病理産物」です。
ふたたび思考実験として、読者が昔の漢方医の弟子となり、師弟問答を再現してみましょう。
老師:この心悸(動悸)を訴えるご婦人から何を診てとるや?
貴方:舌苔が粘?で、やや黄、脈は弦滑で、やや肥満であるのが目立ちます。
老師:では、体内に何が滞っていると感じるか。
貴方:「湿、痰」が体に溜まっている状態と推察できます。しかし経血に異常はなく、瘀血にはいたっていません。
老師:問うてみての特徴はなんぞや。
貴方:常に体が重く感じ、息が詰まる感じや喉に何かが引っかかる感じがあり、頭も帽子がかぶさっているような気分で、精神的に落ち込みやすい特徴があります。
老師:気から弁証すればなんぞや。
貴方:気滞です。
老師:然り。気の推動作用が低下するが故に、見えざる痰が喉に鬱結(うっけつ)し、異物感となり、喉の閉塞感で嘔気する。病の根源は肝鬱脾虚であるがゆえに、だるさや眠い感じが一日中続くことがある。体の重い感じは痰湿の為なり。帽子をかぶっているような頭痛は痰濁頭痛と称されるもので、はなはだしきは眩暈にて起きていられなくなる。
老師:便を問うてみてなんぞ特徴ありや。
貴方:下痢気味です。嘔気の際にすっぱい水が上がると訴えています。
老師:脾虚水質内滞による下痢と弁ずる。胃中停飲と弁ずる。
貴方:帯下の量が多いと訴えていますが。
老師:痰湿下注と弁ずる。
貴方:手足の痺れ、肩こりは経絡痰阻によるものですか?
老師:然り。痰湿の停滞が長引くと何に変ずるや。
貴方:「痰火」です。
老師:然り。痰火擾心(じょうしん)が心悸(動悸)の病機なり。しからば、金匱要略中の方剤では何を用いるや。
貴方:半夏厚朴湯です。
老師:然り。ただし、半夏厚朴湯は「痰火」には不十分なり。温薬のみで制火には不十分なり。三因極一病証方論中の方剤では何を用いるや。
貴方:温胆湯です。
老師:組成はいかに。
貴方:半夏4.8g茯苓4.8g生姜0.6g陳皮2.0g 竹筎1.6g 枳実1.2g 甘草0.8です。
老師:然り。制火清心火の目的とするなら、何を加えるべきや。
貴方:黄連です。
老師:然り。もし病が長引き、不寝を訴えれば酸棗仁を加えるのも可なり、痰火が肺陰を灼傷し、粘い喀痰が混じるようになれば、麦門冬を加えるのも可なり、胆南星も加なり、もし、帯下が黄色に変じ、匂いが鼻につくようになれば黄柏を加えても、滑石を加味するのも可なり。ただし現在は必要を認めず。
貴方:葉氏女科中の蒼附導痰丸(そうぶどうたんがん)は可なりや。
老師:蒼朮 香附子 枳殻 半夏 陳皮 茯苓 胆南星 甘草 生姜の組み合わせは二陳湯(和剤局方 半夏 陳皮 茯苓 炙甘草 生姜)を基本とし、蒼朮 香附子 枳殻 胆南星の加味方である。温胆湯から竹筎を除き、蒼朮、香附子、胆南星の加味とも言える。「医方集解 清代」中の清気化痰湯(せいきけたんとう)黄芩 栝萋仁 半夏 陳皮 杏仁 枳実 茯苓 胆南星 のごとく、胆南星が加味されているものの、本日の症例は、肺の痰熱でもないことは勿論であり、婦科の主訴でもなく、月経異常(多くは月経後期)もないが故に、調経の必要性は小さい。婦科の要薬である香附子は不要と即断するのではないが、香附子の必要性は小なり。したがって清気化痰湯と同様に蒼附導痰丸は不向きなり。
貴方:覚えておきます。
続く ドクター康仁 記
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