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慢性腎炎の漢方治療 第108報 慢性腎不全の漢方治療 医案16

2013-04-22 00:15:00 | ブログ

?振声氏医案 水凌心肺案

(江蘇中医雑誌 1986年 第9期より)

Key Words:慢性腎炎 慢性腎不全 尿毒症 尿毒症性心包炎 漢方治療 

苓桂朮甘湯 葶藶大棗瀉肺湯

患者?某 35歳 女性

入院年月日

1982510日慢性腎炎合併尿毒症 尿毒症性心包炎 続発性(腎性)貧血で入院。

入院までの病歴

平素顔面に浮腫があり、慢性腎炎の病歴が既に10年、ここ1年来、腰痛無力、疲労にて加重する。今年1月初めより、悪心嘔吐が頻発、飲食が低下。入院4日前、外感発熱し、症状が加重、尿量が1300mlと無尿に近くなり、大便干結し便通は34日に一回、胸悶気、横になって寝れない、心慌気短(動悸息切れ)の症状が出現。

入院時所見と経過

精神萎縮、面色萎黄、語声低く微、口中尿臭あり。舌淡潤、辺に歯痕あり。苔薄白、右脈弦細、左脈細弱。

BUN 51.4mmol/L310mg/dl)二酸化炭素結合力 17.10mmol/L 血色素3.8/dl

腎シンチグラムで両側腎無機能

胸部レントゲン検査で尿毒症性心包炎。

心臓の各部位に明らかな心膜摩擦音聴取。

入院期間はただ中医治療を行い、血液透析はしていなかった。

関格と弁証:気陰両虚、湿濁上泛。気血注射液と生脈散注射液の点滴静注を開始、心慌はやや減じたが余症は変わらず。その後は便干悪心嘔吐を治療の眼目として、香砂六君子湯、橘皮竹筎湯合大黄附子湯、新加黄竜湯を与え、ただ胃気が和すのを

願った。患者は胸心悸、夜は眠れず、精神状態は極めて悪く、危篤となった。

病機を深く分析し、水凌心肺に重きを置き、温陽飲行水が急務であり、ついに、苓桂朮甘湯合葶藶大棗瀉肺湯加味にて治療するに改めた。

茯苓桂枝白朮15g 甘草6g 東北人参(別に煎じて全体の煎じ薬に入れて服用)10g葶藶子12g 大棗5枚 澤瀉20g 蘇梗10g

コメント

東北人参は野山人参であり、1982年当時はまだ高価ではありませんでした。現在はグラム単価は金よりも高いです。

6剤を服用したところ、尿量は漸増して毎日1000ml以上になり、これに随伴して心悸気や悪心嘔吐の症状もまた減軽し、患者は平臥が可能になった。

胸部レントゲン検査で、心臓影は前より明らかに縮小、同時に心膜摩擦音も消失し、BUNは下降して23.2mmol/L140mg/dl)になり、血色素は上昇し5.9g/dlまで改善し、二酸化炭素結合力19.99mmol/Lとアシドーシスの改善傾向も出現した。

この後、生脈散合苓桂朮甘湯合にて、益気養陰と化飲を兼顧し、諸症は継続的に好転、精神状態も改善し、食欲良、睡眠安定、二便通暢、尿量は安定し毎日1500ml程度。治療3ヶ月余、病情は顕著に改善、1982820日退院。

評析:

本案は関格晩期に属し、下関上格の症状のみならず、胸悶気、平臥不能、心慌気短等の水凌心肺の危険な症候である。始めは患者の気血陰津の欠損に注意し、気血を与え、生脈注射液を与え;ニ診では湿濁上泛に注目し、胃気を和す目的で、通大便の剤を与え、濁邪は出路を有し、まだ救急でなく;三診では水凌心肺の緊急にて、温陽化飲。降濁の剤を与え、飲邪が除かれるを得て、心陽重振、患者は危篤状態から脱したのである。苓桂朮甘湯はただ4味であるが、温陽し陰を除き、功能は的を得て効を奏した。藶大棗瀉肺湯は肺気を開泄させる功能を併せ持つ。二方が合わさり、瀉肺心除満のみならず、瀉肺を通して、通調水道を以って飲邪を除く。葶藶子は一般の伝統認識では、力猛傷正であるが、肺気壅閉の実症によいと主張されている。氏はかつて葶藶子を多用した経験から、功能は頗る良く、副作用の発現を見ず、故に古い論に拘泥しない。後略。

ドクター康仁のコメント

心源性のうっ血性心不全と尿毒症性心外膜炎とは、別物です。後者は前者に移行し得ます  が、前者から後者には移行しません。

?振声氏の医案でいつも感じることですが、

    クレアチニンの記載が極めて乏しいのです。

    軽快し退院となった時点での付随するデータが欠如することが多いのです。本案でも、BUNのデータすら記載がありません。血圧にして然り、心電図にして然りです。

    苓桂朮甘湯 合 葶藶大棗瀉肺湯加味とは、いかにも氏が傷寒論 金匱要略学派であることを彷彿とさせますが、どちらも、ある程度は、うっ血性心不全には効果があるでしょうが、尿毒症性心外膜炎に著効があるとは思えません。

生脈散(備急千金用方):人参9五味子6麦冬15(益気生津、斂陰止汗:気陰双補剤)で腎不全が改善するとは思えません。

葶藶大棗瀉肺湯(金匱要略):葶藶子 大棗 に尿毒症を改善させる効果はないと思います。葶藶子は一種の強心利尿薬ですが、心外膜腔に滲出液が貯留している場合には、心臓そのものの運動が制限されますので、単純に強心利尿などに導くことが困難だからです。氏はレントゲン検査で「心臓影は前より明らかに縮小」と記載していますが、そんな短期間で尿毒症性心外膜炎が軽快するとは思えません。

⑥心外膜炎ならば心電図、血圧の変化などの記載があってしかるべきです。

以上の結論から、同じ症例に接した場合に、氏と同じ方法を用いても私には救命できないと思うのです。中医案は定量性、再現性に欠けると西洋医に指摘されても反論出来ない医案の一つを呈するのは、氏の名誉にもかかわるので残念なことです。

最後に付記しますが、党幹部の御大がお出ましになるまで、若手の医師が必要な処置を行わないのは、縦社会の弊害ですね。心外膜穿刺などを先走って行うとか、腹膜透析、血液透析を先走って行うとかの類ですが「誰がやれと言ったのだ。やるやらないは私が決めることだ」というお叱りを受ける流れです。本案も遅ればせながらも、透析に導入されたのでしょうか?氏の医案には表に出てこない部分が多いという印象があります。

2013/04/22(月) 記


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