?平?氏医案 脾腎気陰両虚 湿濁内蘊案
(新中医 2000年 第5期より)
Key Words:慢性腎炎 慢性腎不全 高窒素血症 漢方治療
降氮湯
紹介:?平?氏は上海中医学院卒で富山医科薬科大学に留学されたこともあり、上海曙光病院腎内科教授で博士課程指導教授です。都合30回ほど教えを頂きました。
患者:張某 52歳 男性
病歴:
慢性糸球体腎炎を既に5年、ここ2ヶ月来、眩暈、耳鳴り、悪心嘔吐を伴い、泡沫尿が多くなって入院。
入院時所見:
面色皓白、精神不振、気短懶言、腹張納呆、口干不渇、五心煩熱、睡眠不良、心悸心慌、尿少、便秘、舌質紅、苔薄黄?、脈沈細。
検査所見:
Hb7.2g/dl TP5.4g/dl BUN 24.5mmol/L(147mg/dl)
Cre 346μmol/L(3.9mg/dl);尿検査 PRO(3+) RBC(+) WBC 0~3/HP 顆粒円柱(+) 尿比重固定して1.012
西洋医診断:慢性腎不全 高窒素血症期
中医弁証:脾腎気陰両虚 湿濁内蘊
治則:健脾益気 養陰補腎 清熱化湿泄濁
処方:降氮湯を選択
党参 生黄耆 山薬 澤瀉各15g 砂仁5g(後下)生姜3g 六月雪30g 紫蘇葉 山茱萸 淫羊藿各10g 生半夏、左金丸(包煎)各9g 水煎服用 毎日1剤。
経過:
服薬2週後、大便通暢、小便清長、嘔吐は止まり、胃納は増加、但し五心煩熱はまだあり、口干苦燥、心悸失眠。
原方より淫羊藿 砂仁 生半夏 生姜を去り、以下を加えた
知母 黄柏 生地黄各10g
服薬2ヶ月で諸症は大減し、五心煩熱と口干舌燥の症状は基本的に消失し、
BUNは20mmol/L(120mg/dl)まで下降、但し、心悸失眠あり、舌には紫斑があり、久病瘀濁が残留、気陰は次第に回復、
原方より知母 黄柏 澤瀉を去り、以下を加えた
丹参30g 川芎 桃仁各10g
再服用14剤で諸症は皆除かれた。
Hb10.5g/dl Cre 183μmol/L(2.06mg/dl) BUN 18.6mmol/L(111.6mg/dl)
尿検査 蛋白微量。退院後は玉屏風散を長期に服用し、固表扶正するように話して、治療効果を固め、引き続き外来治療となった。
評析
慢性腎不全の病呈は長く、久病多虚、腎虚が疾病の本であり、脾は運化を主り、気血生化の源であり、精血欠耗は即ち諸多虚損の症であり、腰酸膝軟、神疲乏力、精神萎縮、面色少華、眩暈目眩、畏寒肢冷の如きである。
?平?氏は調補脾腎を重視し、“腎は先天の本、脾は後天の本”、“先天は後天を生み、後天は先天を養う”の説を尊重し、気血は相連、陰陽互根、臨床上も往々、陰陽両虚、或いは気陰不足の者が多く、単純な陽虚あるいは単純な陰虚は比較的少ないと認識している。
故に、補脾には党参 黄耆 山薬が必要で、補血に丹参 当帰 白芍を多用する; 若し腎陰欠虚し、虚火漸旺すれば、口干咽燥、舌紅が出現し、温燥の品はよろしくなく、生地 知母 黄柏 枸杞子 女貞子 旱蓮草などに改める。
?平?氏は滋陰壮水の多くの薬中に、少量の温腎の品を加入することを好む、淫羊藿 仙茅 巴戟天の如きである。その理由は無根失守の火を引き降ろして腎に帰らせ、いわゆる“導竜帰海、引火帰源”であり陰陽を平衡せしめるのである。
慢性腎不全時に脾腎両虚の状態に、さらに往々にして湿熱の邪が内蘊することによって、外邪を復感し、熱毒が熾盛し病状を加重させる。
?平?氏は、本病は正虚邪実、湿濁(熱毒)の邪が比較的盛んな症状を呈すると認識している。
治療は化湿泄濁を主として、但し効けば短期で中止し、攻めるに過ぎてはならず、病状の軽重に応じ、病人の体質状況と標本の緩急を計りながら、攻下峻剤は慎用し、性質が緩である清熱解毒薬を多く配伍して病状を和するのである。
紫蘇葉は本病の治療薬であり「本経逢源」に曰く「紫蘇は血脈の邪を散ずる」とある、さらにその魚蟹毒の解毒の効能は、体内の毒素を排泄し、湿熱毒を大便から排泄させる。泄濁法を運用する際、黄連 虎杖 六月雪の清熱解毒を増やして加え、また、澤瀉 車前子 玉米須などの薬剤を加え、通利湿熱を助する。
この他に、慢性腎不全に伴う悪心 嘔吐 納呆には左金丸6g(包煎) 砂仁3g(後下)を常用し、頑固な嘔吐や、食べるとすぐに吐いてしまい、飲食を欲しない者には、小半夏湯(生半夏9g 生姜3gを同時に煎じ生半夏の毒を除く)は降逆止嘔の助けとなる。
ドクター康仁のコメント
老師は既に老中医として殿堂入りを果たされました。
お体を御大切にして、腎臓病の病人をこれからも救ってあげてください。
ある日の老師の処方箋です。羚羊角の配合もありますね。
処方箋を見ただけで、漢方医なら患者さんの状態が解りますね。
党参 丹参 黄耆 生地 山茱萸 山薬 枸杞子 杜仲 牛膝
沢蘭 玉米須 川芎 石菖蒲 石決明 羚羊角
2013/04/23(火) 記
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