復脈湯(炙甘草湯) 加減復脈湯 一甲~三甲復脈湯の比較
気陰双補剤から滋陰清熱剤への進化の流れ
中医学での復脈湯と名の付く方剤は、後漢時代の「傷寒論」の炙甘草湯(別名復脈湯)が歴史的には最初のものであり、清代の呉鞠通による「温病条件」の加減復脈湯に続き、一甲~三甲復脈湯となる。「傷寒論」は「体内の陽気を守る」という理念に貫かれていると思われるが、後世の金元時代の滋陰学派の発生、さらに下り、清代の葉天士による外感温熱病の衛気営血弁証の発展により「積極的な滋陰清熱解毒」へと発展してきた中で加減復脈湯が生まれた。
温薬を赤、涼寒薬をブルー、平薬をグリーンで表記すれば
炙甘草湯(復脈湯)(後漢 傷寒論)
大棗 人参 炙甘草 生地黄 麦門冬 阿膠 麻子仁 生姜 桂枝
加減復脈湯(清代 温病条件)
生地黄 生白芍 麦門冬 炙甘草 阿膠 麻子仁であり、加減復脈湯には温薬が一切配合されていないことが一目瞭然で滋陰清熱の効果が増強され、温病後期のいわば「虚熱内盛」「邪少虚多」の状態に用いられるものである。症状は微熱 五心煩熱 口干 動悸 元気が無い うとうとする はなはだしい場合は意識朦朧 聴力減退 舌のこわばり 紅絳舌 少苔 脈虚大あるいは遅などがあげられる。現代医学的には十分な補液(点滴)と栄養剤の補給とでも言うべきものである。
一甲牡蠣 二甲鼈甲 三甲亀板 竜骨 と覚える。
上海時代に中国人の学生から覚え方を教えてもらったのが上である。温病後期にて下痢が続く場合は通便作用の麻子仁を除き、固摂渋腸(下痢止め)の効果のある牡蠣を加えたものが一甲復脈湯である。温病による津液損傷が著しく、陰虚生風の手足の痙攣などが生じた場合には加減復脈湯に生牡蠣、生鼈甲を加え潜陽熄風をはかる。現代医学では十分な補液と、場合によっては抗痙攣剤の投与に相当する。二甲復脈湯に生亀板を加えたものが三甲復脈湯であり竜骨を加える場合もある。傷陰、陰虚生風に加え、動悸や胸痛などが生じた場合に用いられる。現代医学では熱病が末期化した場合といえる。いよいよ最終的な末期状態になれば三甲復脈湯に卵黄と五味子、人参を加えた大定風珠(だいていふうじゅ)の登場となるが、私自身は一甲復脈湯~大定風珠は現代の臨床では単独では使われないと思っている。西洋医学的な熱病治療の手法が全然無かった時代の漢方医の悪戦苦闘の歴史であると思っている。
炙甘草湯(復脈湯)は現在でも有効な方剤 。
動悸や不整脈で漢方外来を訪れる患者さんは多く、炙甘草湯の加減が有効な場合が多い。多くの患者さんは老年期で、同時に夜間の咳嗽などを伴っている。西洋医学での治療剤である、βーブロッカー、抗不整脈剤、血小板凝集抑制剤などを服用している場合が多い。現実的に炙甘草湯で「体調が良くなった。」と喜ぶ患者さんが多い。頻脈性不整脈と診断され抗不整脈剤を投与されたが、動悸が治まらなくて、漢方相談においでになる場合に麝香保心丸などと一緒に処方する。多くは、疲れやすく、のぼせ症状があり、便秘気味で、脈は結代があり、弱く、舌質はやや乾燥している。睡眠が不足気味であり気陰両虚の状態である。
「君薬」は炙甘草、大棗、人参です。方剤中で「心」に帰経をもつ生薬は、君薬の一つである炙甘草と麦門冬しかない。「肺」に帰経を持つものは、人参、炙甘草の2生薬である。甘草の働きについてまとめれば、
甘草の肺に対する効能は、潤肺止咳化痰であり、肺を潤し、咳を止め、痰を除く。甘草の補気効能の最大の特徴は補心気の際の君薬となることで、心気虚の症候である動悸、不整脈に対して益気補心脾に働く。
甘草は配合する薬剤によりその効能が変化する。人参と配合すれば補肺脾に働き、(人参でも西洋参と配合あるいは党参を使用すれば補気生津に働き補気作用に加え滋陰作用の側面が出てくる)同じく山薬と配合すれば補気養陰の効能が生じる。
以上のようになる。
近代薬理学的な研究が進み、甘草の調和諸薬、緩和、鎮咳、抗炎症、祛痰、抗潰瘍効果、肝機能改善などの薬理作用が次第に明らかにされつつあるが、明らかな抗不整脈作用などに関しての解明はまだのようである。
生地黄、麦門冬は滋陰に作用し、生姜と桂枝の組み合わせは通陽(陽気をめぐらせる働き)に働き、阿膠はロバの皮から抽出した水溶性コラーゲンとも言え、栄養剤であるとともに、養血、止血に働き、滋陰潤肺の作用がある。
炙甘草湯に配合されている麻子仁は便秘予防の目的
「便秘が主症候」である場合には、麻子仁を1種類単独で用いられることはない。従って「便秘予防」と考えたほうが理屈に合っている。心臓病を患っている時に、排便に時間がかかるような便秘は避けた方がいいわけである。加減復脈湯にはそのまま麻子仁が残されているが、津液損傷による腸燥便秘を考慮したものと想定される。
時代が変われば、、
大定風珠には卵黄が配合されている。卵黄は滋補心腎の要薬である。亡父がシベリア抑留から帰還し、弱りきった体を回復させるために、鶏卵を実家の鶏小屋から盗んで(?)飲んだと話していたのを思い出した。現代ではコレステロールを増加させると言われ鶏卵(卵黄)の分は悪い。隔世の感を禁じえない。
盆の墓参で会津から帰った終戦記念日の夜に原稿を打った。
「もう何十年も同じ盆踊りの歌を聞いてきたがいまだに何を言っているのかわからない」 口に出た。弟曰く「兄貴もそうか、俺もだ」 笑った。
田舎のビアガーデンでは生ビール中ジョッキが300円、つまみの枝豆が100円、実家では窓を開け、蚊取り線香を炊き、クーラーは使わない。低エネルギーエコの生活である。生活費も安い。働き詰めの生活に疲れたら、田舎に帰ろうと思う。「ただ風が吹いているだけ」でない何かを郷里には感じるからだ。
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