肝腎気陰虚型、挟気鬱、血瘀、結熱、痰湿案
(?仁和氏医案 北京中医薬大學博士生論文より)
患者:牛某某、34歳女性
入院年月日:1994年9月5日
病歴と入院時所見:
Ⅱ型糖尿病10余年、長期に経口糖尿病薬治療を受けていたが、病情は一進一退。1年前、明らかな原因無く、全身の疲乏が加重、双下肢に浮腫出現、検尿で蛋白尿が認められ「糖尿病性腎症」と診断され入院治療となった。症状:口渇多飲、尿頻量多、大便偏干、口干口苦、眩暈、視物不清、よく太息をつく、胸脘痞悶、疲乏無力、腰膝酸軟、双下肢浮腫、体形肥胖、舌質暗紅、苔黄やや膩、起沫(舌の表面に唾液の泡立ちがあり)、脈沈細、関脈のみ弦滑、尿検査:尿糖(3+)、蛋白(+)、24時間尿蛋白定量950mg、空腹時血糖15.32mmol/L(275mg/dL)、Cre 84.4μmol/L(0.95mg/dL)、 BUN 9.2mmol/L(55.2mg/dL)、内因性クレアチニンクリアランス115ml/min;眼底検査:糖尿病性網膜症。
西洋医診断:
糖尿病性腎症 糖尿病性網膜症の合併
中医弁証:
肝腎気陰虚型、挟気鬱、血瘀、結熱、痰湿症候、中でも気鬱病機が突出している。
治方:
先ず気血を調理、疏肝清熱、その後に補益する。
方薬:
四逆散加味:柴胡9g 赤芍白芍各12g 枳殻枳実各6g 黄芩9g 制半夏9g 丹参18g 川芎9g 荔枝核橘核各15g 地骨皮25g 天花粉25g 甘草6g 西洋経口糖尿病薬糖达平(グリキドン スルフォニルウレア系経口糖尿病薬)30mgを毎日3回併用した。
経過:
服薬7日、口干苦、胸脘痞悶症状は減軽、大便通暢、
方薬を生脈散合杞菊地黄湯加減とした。
処方:
西洋参6g(別に煎じる) 麦門冬12g 五味子12g 枸杞子15g 菊花12g 生地25g 山茱萸12g 生山薬25g 天花粉30g 茯苓9g 澤瀉9g 地骨皮25g 丹参18g 三七人参粉(田七人参粉)6g(冲服)、仙鶴草30g
コメント:天花粉は血糖降下剤として使用されたのでしょう。三七人参はおそらく眼底出血があったために使用されたのだと想像します。仙鶴草は収斂止血作用も有りますが、疲乏無力に対する強壮薬としての意味もあるでしょう。
経過:
服用約30剤にて、口渇多飲、多尿、乏力、眩暈、眼花など諸症は倶減した。尿蛋白(±)、尿糖陰性、空腹時血糖5.4mmol/L(97.2mg/dL)、Cre BUN 正常、内因性クレアチニンクリアランス125ml/min、病情安定し退院となった。
コメント:入院して糖尿病食になったのですから、カロリー制限も大きな改善要素でしょう。体重の変化などの記載も欲しいところです。
評析
本案の糖尿病性腎症、網膜症合併例では、臨床観察では肝腎気陰虚証が最も多い。“肝は眼に開竅し”、“眼病は多くは鬱”、肝気盛ん、性急で怒りやすく肝気が鬱し、情志抑鬱的な患者は常に糖尿病性網膜病変を合併する。患者の症状及び舌脈象を根拠にすると、中医弁証は肝腎気陰虚型、更に気鬱を兼ね、血瘀、結熱、痰湿症候、中でも気鬱病機が突出している。この時、肝腎の気陰を滋補しようとするならば、先ず調理気血、気血和順を行わなくてはならず、そうすれば方薬は補薬となるのである。従って、本案治療の過程で、先に四逆散加味方にて、疏肝理気、活血化瘀、清解郁熱を行い、後に生脈散合杞菊地黄湯加減に改め、滋補肝腎、益気養陰、活血、利水、清熱を兼治、一定の治療効果を得たのである。
ドクター康仁の印象
糖尿病性網膜症を肝気鬱結の結果として、疏肝解鬱を治法とするというのは、従来の私の考えとは因果律が逆です。網膜症が進むと、視力の衰えから来る精神的なストレスが肝気鬱結を来たす場合もあるとするのが私の考え方でした。
因果律が逆というのも、中国と日本の考え方の違いが如実に出ていて、面白いというか、「処変われば品変わる」の類でしょうね。こんな論文が中国では博士論文になるんでしょうか?幼稚過ぎます。そもそも網膜症の改善を主張するにしても、形態学的にも、いや、それより簡便な視力や視野検査などによる裏づけが何も無いのです。せめて、最低限、体重変化、眼底出血の有無、血圧の記載ぐらいは有ってしかるべきでしょう。村社会はこのような経過で形成されていくのでしょうか?
磯の鮑(あわび)の片思い。
それにしても、歯ごたえ無いですね。
2013年7月18日(木) 記
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