風水と言っても、吉凶禍福を占う陰陽道、八卦の類を指すのではなく、水腫を指すのです。水腫は水液が体内に貯留し、頭面、眼瞼、四肢、腹背及び全身に浮腫が生じる病証を指し、重症の者には、胸水、腹水を伴いますが、これは胸水 腹水と別に併記する医療上の習慣があります。(従って、浮腫は狭義な症候です)原発性急性、慢性腎炎を含む各種腎疾患のみならず、慢性心不全(うっ血性心不全)、肝硬変、内分泌系機能失調(甲状腺機能低下症など)、栄養失調の際に浮腫が現れた場合など水腫は多分野に渡りますが、本稿では腎病の水腫論です。タイトルに腎炎としなかった理由は西洋医学的に腎後性腎不全も水腫を起こすからです。脳浮腫の進行を怖れる余り、高浸透圧利尿剤を過剰に投与し、いわゆる「肺が真っ白」というレントゲン所見を示す肺水腫などに水腫という単語が残っています。糜爛性毒ガスによる肺水腫の水腫も同様です。<o:p></o:p>
本稿に進みます。急性糸球体腎炎、慢性糸球体腎炎の急性憎悪期、さらにはネフローゼ症候群の発病時に多くは水腫を主症状とします。(一般には認識されていませんが)通常は頭顔面から始まり、全身に及び、咳嗽、喘鳴、畏寒、全身の関節の酸痛を伴うことがあり、(中医は)肺衛の証である肺気不宣にて、水湿が下降せず肌表に溢れて、風水の証を形成したと弁証します。この類の患者には臨床上、常に(これは西洋医にとっては異論もあるでしょう)面色皓白、小便不利等の腎陽虚、開閉失司、水気内停の証を伴います。<o:p></o:p>
治療には宣肺清熱温腎利水の法が宜しいのです。宣肺について説明は省きます。興味のおありの方は以下の記事をご参照ください。<o:p></o:p>
肺の中医学的生理論:<o:p></o:p>
http://kojindou.no-blog.jp/happykanpo/cat12325512/<o:p></o:p>
方用:麻辛附子桂甘姜棗湯加味:桂枝15g 麻黄15g 附子10~15g(先煎) 細辛3~7g 生姜15g 蒼朮 20g 紅棗4~5個 生石膏50g 甘草10g 水煎服用<o:p></o:p>
附子片の先煎の意味は先に1時間ほど煎じると毒性が無くなり、効能が残るということです。不整脈を惹起するアコニチン等が化熱加水分解されます。<o:p></o:p>
方中の麻黄 細辛 生姜は辛温宣肺に、多くの症例で熱邪を挟むが故に生石膏を配伍して清熱し、桂枝 蒼朮 大棗は温脾除湿に、附子は温腎助陽に作用し、諸薬は協調して水湿を除きます。<o:p></o:p>
水腫が高度で平臥不可能な場合には、葶藶子 冬瓜皮 西瓜皮等を配伍して利水の効能を付加することも可能です。また扁桃腺が充血腫大して、水腫が加重されてくる場合には、麦門冬 黄芩 山豆根 知母等の清咽利肺の品を加味します。(利咽清肺と表現してもいいでしょう。利咽利肺のように、利を繰り返さないのが四文字熟語です)<o:p></o:p>
水腫の(漢方)治療は肺脾腎から着手し、どの臓が主に障害されているのかの弁別が大切です。勿論、風水水湿不得下行の際には、治療の鍵は(中医は)肺にあると考えますが、脾腎との関連は忘れてはいけません。(と中医は考えるのです)<o:p></o:p>
治肺を主とし、治脾腎を補佐として、宣肺利水を先に選択し、温脾腎を補佐として、相補相生となり、水腫は消退するのです。<o:p></o:p>
本稿の方薬とは全部が一致するわけではありませんが、加減を勉強する上で、以下の2報告が参考になると思いますのでご参照ください。<o:p></o:p>
ネフローゼ症候群:http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20140123<o:p></o:p>
ネフローゼ症候群:http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20140124<o:p></o:p>
治療の順番があるのです。患者の病状の主次軽重に合わせて、方薬も変化していくのです。<o:p></o:p>
古典派の学者に叱られそうですので、以下を付記しておきます。原文そのものではありません。私が原文の格調を保ちながら、やや近代風に修飾したものです。<o:p></o:p>
【方薬】越婢加朮湯(金匱要略)加減。散風清熱、宣肺行水<o:p></o:p>
越婢加朮湯(金匱要略):麻黄 石膏 甘草 大棗 生姜 白朮<o:p></o:p>
処方中の麻黄は、宣散肺気、発汗解表に働き、表にある水気が取ることができる。生石膏は解肌清熱をし、白朮、甘草、生姜、大棗は健脾化湿をして、崇土制水の効能がある。それに適時、浮萍、澤瀉、茯苓を加えて、宣肺利水消腫の効能を増強する。咽喉腫痛があれば、板藍根、桔梗、連翹を加えて、清咽散結解毒を期し、熱重尿少の場合には、鮮茅根を加えて、清熱利尿をはかる。もし風寒偏盛であれば、石膏を取り去って、蘇葉、防風、桂枝を加えて、麻黄の辛温解表の力を増強する。もし咳、喘息が割合に酷い場合は、前胡、杏仁を加えて、降気平喘することができる。汗出悪風、衛陽気虚の場合、防己黄耆湯(金匱要略)防己 黄蓍 白朮 甘草 生姜 大棗の加減を使い、助衛行水する。<o:p></o:p>
<o:p> </o:p>
2014年7月6日(日)<o:p></o:p>
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます