徐嵩年氏医案 気虚絡損 血不循経案
(中医雑誌1985年 第9期より)
徐嵩年氏は前の医案で紹介した陳以平女史の指導教授であり、上海龍華病院の腎内科の教授でした。2003年4月逝去。
患者:呉某 22歳 女性
入院年月日:1983年4月15日
病歴:
(入院する9年前)1974年4月、下肢にび慢性に紫斑が出現、下肢関節の酸痛を伴い、行動が極めて困難で、疲れると(関節痛が)加重した。1982年12月末から、持続的な発作状態があり、大腿部より足先まで、紫斑は小さいものは点状、大きいものは豆大で、初めは鮮紅色、次いですぐに暗紅になり、古い紫斑は消えないうちに、新しい紫斑が出現し、腹痛と諸関節の酸痛を伴い、尿検査は異常を示し、中医治療は無効であった。
入院後検査所見:
血小板9万
(正常域よりやや少ないが出血傾向が現れるレベルまで低下していません)
出血時間2分(正常域2~5分ですので正常域です)
凝血時間1分
(通常の日本での凝固時間の正常域より短い印象があり、血液の凝固能が亢進している可能性がありますが、日本と同じ方法で測定しているのでしょうか?疑問はあります)
凝血?原??(プロトロンビン時間)10.5秒
「正常域が10~13秒ですので、正常です。急性肝炎、劇症型肝炎、肝硬変、閉塞性黄疸、心不全、悪性腫瘍、ビタミンK欠乏症、プロトロンビン欠乏症、播種性血管内凝固症候群(DIC)などではプロトロンビン時間が延長します」
血沈32mm/hr(赤血球沈降速度を意味します。やや亢進しています)
抗“O”1:625U(国際単位)
「抗ストレプトリジン-O価です。溶連菌(溶血性連鎖球菌)に感染すると、それに対抗するために血液中に出現する抗体のレベルを意味します。一般には170国際単位以上であると、溶連菌感染が疑われます。625単位は高値です。通常は時間を置いて再検します」
黏蛋白5.85mg%(C-reactive protein CRP 日本での正常域は0.30mg/dl以下)
mg%という単位は非常に分かりにくい単位です。質量と割合が一緒になっていますので、混乱しますが、中国の医案のmg%はmg/dlと同じ意味と捉えてください。従ってCRP(炎症性蛋白)5.85mg/dlは高値です。
尿??蛋白降解?物0.67μg/ml
(尿中FDP fibrinogen/fibrin degradation productsを指します。一般に腎炎で尿中に増加します。100ng/ml以下を正常域としますと、0.67μg/mlは1000倍して670ng/mlと換算しますので高値です)
肌?清除率122ml/min
(CCR クレアチニンクリアランスを指します 正常です 腎機能を示す指標の一つです)
24時間尿蛋白定量 1.81g(蓄尿して検査します。信頼性のある検査です。通常1日1g以上の尿蛋白を示す腎炎では治療を要します)
尿ルーチン検査:蛋白(2+)赤血球(2+)
(蛋白尿と顕微鏡学的血尿があることを意味します)
腎生検
5月19日(入院してから一ヶ月強)某医院で腎生検を行い、(当時は龍華病院では腎生検をする医師がいなかったために、入院したまま、他院で腎生検をしていました)
組織所見:(日本でよく用いられている病理表現を用いてドクター康仁が述べます)
軽度のメサンギウム増殖性腎炎、一部の尿細管上皮細胞の腫大と混濁(変性)、間質の血管内膜に繊維性の肥厚があり、蛍光抗体法では糸球体にIgG(+) IgA(2+) IgM(+) C3(+)の沈着を認めた。(部位とパターンの記載はありません)
西医病理診断:IgA腎病(IgA腎炎)
患者は倦怠無力感があり、関節酸痛、紫斑は次々と出現し、双下肢に密集する、腹痛があり便が軟らかい、扁桃腺が腫大、舌苔薄、脈象細。
中医診断:
証は気虚絡損 血不循経に属する。気血が乖離し、(気)虚と瘀(血)を共に認め、血が外溢すると皮膚に紫斑となり、内には血瘀が痺阻し、関節の酸痛となる。
治療:補中、活血行瘀を以ってする。
方薬 以下
黄耆30g 炙甘草9g 当帰12g 干地黄20g 牡丹皮20g 赤芍15
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