本日の漢方市民講座も引き続き「痰」です。
師弟問答に入ります。
老師:
痰が存在する臓腑が異れば、症状の表われも特異であることは覚えておかなくてはならない。本朝は「痰蘊脾胃(たんうんひい)」を初めに問う。およその病機と症状はなんぞや。
貴方:
病機の概要を申せば、飲食の不摂生、過度の思慮により、脾胃が傷つけられ、脾の運化の失調により湿を生じ、痰が形成される。症状の主なるものは、食欲不振、嘔気、嘔吐、痞満不舒、倦怠無力、身重く眠く、診て、苔白膩、舌胖、脈は濡緩なり。
老師:
然り。治則と方剤を問う。
貴方:
健脾化痰です。方剤を挙げれば、平胃散(へいいさん)(和剤局方)蒼朮 厚朴 陳皮 大棗 炙甘草の組成です。六君子湯(りっくんしとう)(医学正伝)は、人参 茯苓 白朮 炙甘草 陳皮 制半夏の組成であり、四君子湯に陳皮と制半夏を加味したものです。
老師:
然り。六君子湯は見方を転ずれば、半夏9陳皮9茯苓6甘草3(二陳湯:和剤局方)に人参と白朮を加味した組成になる。面白いではないか。四君子により益気健脾するは、すなわち燥湿化痰となるゆえ、行気化痰の陳皮、袪湿痰の半夏を加味し、化痰の効を強めたのである。逆もまた真なりにて、二陳湯の燥湿化痰の効能に、健脾利水の茯苓、健脾益気、大補元気の人参を加味して、その効を強化したものと解するも可である。大棗、生姜は患者の本虚の程度により加味してもよろしい。
貴方:
四君子湯加半夏陳皮は二陳湯加人参茯苓と酷似しているのには驚きました。六君子の意味が身近に感じられるようになりました。
老師:
良き哉。では、痰鬱于肝論を展開しようではないか。病機の概要は、多くは肝気鬱結、気結痰凝により、痰と気が互いに結して塞ることによる。主な症状は、咽喉に物がつまった感じ、胸脇隠痛、げっぷ、易怒(怒りやすい)、鬱しやすい、苔は薄白膩であり、脈は弦滑である。治療法則は解鬱化痰にて、方剤を挙げれば、四七湯(ししちとう)がある。四七湯(太平恵民和剤局方 引 簡易方法)の源方は何ぞや。
貴方:
半夏厚朴湯(金匱要略)半夏 厚朴 茯苓 生姜 蘇葉に大棗を加味したものであり、効能は行気解鬱 降逆化痰です。
老師:
然り。配合生薬は茯苓(平)を除き、全て温薬となっている。およそ、気滞痰郁の者は、咽喉に物が詰まり、吐き出せなく、飲みこめないという違和感を訴える。胸悶、窒息感、或いは脇痛を伴う。舌苔は白膩、脈は弦滑である。
肝鬱犯脾、脾失健運、痰湿内生の結果、痰と気が横隔膜の上に郁結するため、咽喉中に物が詰まり、吐き出せなく、飲みこめない違和感、“梅核気”とも称される症状をみる。気機不暢のため、胸悶、窒息感が生じる。肝経の鬱滞の結果、脇痛をみる。舌苔が白膩、脈が弦滑なるは肝鬱気滞、痰湿内聚の証候である。
行気解鬱 降逆化痰の治則は化痰利気解鬱とも換言できる。半夏厚朴湯中、半夏、厚朴、茯苓を以って降逆化痰、紫蘇、生姜で利気散結の効能を求む。
制香附子、枳殻、佛手、旋覆花、代赭石を加え、理気解鬱の効能を強化するも可なり。
貴方:
若し、嘔吐、口苦、舌苔が黄膩である場合にはどの方剤に依ればいいのでしょう。
老師:
嘔吐し、口が苦く、舌苔が黄膩であるは痰熱証であるが故に、温胆湯に黄芩、貝母、瓜萋皮を加え、化痰清熱、疏理気機の効能を求めることになる。
貴方:
利気と理気の違いは何でしょうか?
老師:
利気散結の利は通利の意味であり、理気解鬱の理は疏理の意味である。
貴方:
お疲れの御様子ですので、早めにお休みください。
老師:
では「痰動于腎」については後日にいたそう。
ドクター康仁 記
安逸をむさぼると 以下の3つの異常が生じると言われています。
① 気血のめぐりが悪くなる
② 痰湿が出やすい
③ 「久臥傷気」と称し、気を損傷する
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