升陽益胃湯の出典は李東垣の「内外弁証惑論」です。効能は益気健脾升陽除湿です。方中の黄蓍、人参(或いは党参)、白朮、甘草は補気益胃に、柴胡、防風、羌活、独活は升陽袪湿に、半夏、陳皮、茯苓、澤瀉、黄連は除湿清熱に、白芍は養血和営に働く。脾胃気虚、湿郁化熱の証に適用します。
清心蓮子飲は気陰両虚、湿熱内蘊に適用します。比較すれば、まず陰虚症状が無く、湿熱がはっきりとせず、湿が化熱しているという状態に升陽益気湯を用います。湿が化熱しているという状態は弁証すれば湿熱に他なりませんから、陰虚症状、陰虚火旺の証があるかないかが適応の要になるでしょう。
従って黄耆、人参は益気健脾で共通ですが、麦門冬の養陰剤、退虚熱剤の地骨皮は升陽益気湯には配伍されていません。
人体の病理は移行形が多いのが常ですから、典型的な証を覚えて、方剤を丸暗記してしまったほうが近道で、何かと便利なのです。
升陽益気湯:脾胃気虚、湿鬱化熱に益気健脾升陽除湿に作用する。
組成:さんぎバイカン、チャイぼーきょうどく、はんちんフーリン、たくれんバイシャオ
人参 黄耆 白朮 甘草 柴胡 防風 羌活 独活 半夏 陳皮 茯苓 澤瀉 黄連 白芍
患者:陳某 23歳 女性
初診年月日:1989年8月1日
病歴:
患者慢性糸球体腎炎歴1年余、いろいろな治療を受けたが効果が不十分。
初診時所見:
顔面が浮腫みっぽい、下肢に浮腫、面色萎黄、納呆悪心、全身乏力、尿少、尿量約500ml/24hr、舌淡胖大、滑潤で歯痕あり、苔薄白、脈沈細。尿蛋白3+、RBC5~10個/HP、尿糖2+、血清総蛋白3.3g/dL、アルブミン1.8g/dL。腎エコー検査で双腎区に炎症性変化を認める。
中医弁証:脾虚失運、気虚清陽下陥、湿熱留恋の証
西医診断:慢性糸球体腎炎
治法:益気健脾、除湿熱、升陽挙陥
方薬:昇陽益胃湯加減:
党参20g 茯苓15g 白朮15g 黄耆30g 黄連7g 半夏15g 陳皮10g 澤瀉15g 防風10g 羌活10g 柴胡10g 白芍15g 白花蛇舌草30g 甘草10g
水煎服用、毎日1剤、2回に分服。
服薬6剤後、尿量増多、浮腫好転、飲食増加。
経過:
上方を守り40余剤、諸症消失、面色は紅潤に転じた。尿蛋白+、尿糖(-)、血清総蛋白6.4g/dL、アルブミン3.6g/dL。病情緩解、半年後の追跡調査で再発無し。
ドクター康仁の印象:
古典的升陽益気湯+白花蛇舌草です。
証が決まり、最適な方剤を使用すれば効果が抜群という典型です。
勿論、李東垣の時代には蛋白尿という概念自体がなかったのですが、祛風湿薬の効果(防風、羌活)が精微物質の固摂につながるとは彼も想像もしていなかったでしょうが、黄耆、党参、祛風湿薬の蛋白尿減少効果は確かなものになりつつあります。白花蛇舌草は清熱解毒利湿剤ですが、近年ではステロイドの代わりに使用されているのではないかと思われるくらい多用されています。免疫調整作用があるのでしょうが、その細部までの解明はされていません。
糖尿病性腎症の可能性を疑う西洋医もいるでしょうが、尿糖はマイナスになっています。水穀精微物質の固摂という概念は中医にとっては当たり前なのですが。
舌淡(紅ではないですね、一目で気虚という印象がします)(湿が内停しているので)胖大、滑潤で歯痕あり(陰虚は否定されますね)、苔薄白、脈沈細(脾は後天の源です。脾虚になれば湿盛になり、ゆくゆくは血虚にもなります。)脾の昇清降濁の機能が損なわれれば、清陽不升となり、顔色も萎えた枯葉のような色になり面色萎黄となる。この類の「基礎理論」については過去に十分にご紹介しましたので本日は省略させていただきます。
2014年2月18日(火)
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