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慢性気管支炎に参苓白朮散を使用する理由

2008-06-10 19:48:49 | COPD

老人性咳嗽の基本的漢方治療

以前のブログhttp://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20080524 で、

老人性COPD(慢性閉塞性肺疾患)に対する補肺湯、平喘固本湯の話をしました。

今回は参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん)についてご紹介します。

参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん)「和剤局方」は胃腸の薬として知られています。また、慢性の肺疾患とくに慢性気管支炎などの治療薬でもあるのです。

組成を見てみましょう。赤は温薬 グリーンは平薬 ブルーは涼寒薬です。
人参 白朮 茯苓 炙甘草 山薬 蓮子肉 砂仁 白扁豆 
苡仁 桔梗

補気薬の代表方剤である四君子湯(人参 茯苓 白朮 炙甘草の4薬)は、脾気虚の基本方剤です。これに、胃腸機能を補い下痢をとめる補脾止瀉作用を持つ、山薬と蓮子肉が加味されています。蓮子肉は益腎固精、養心安神の作用も併せ持ちます。 さらに健脾化湿といい、胃腸機能を活発化させることにより、体内の異常な水分停滞を除く白扁豆と、利水滲湿作用(利尿作用)をもつ苡仁を配合させることにより、消化吸収作用を健全化させるとともに、下痢を改善させる効能を増強させます。

参苓白朮散は一般には、脾気虚によって、消化吸収の働きが衰えて、比較的慢性の下痢をする時の方剤とされます。

加えて

中国医学では肺気虚で慢性の咳が続き、痰が多い、特に老人の慢性気管支炎などのベースになる治療薬でもあります。

呼吸器の病気に胃腸薬を用いるのはどういう根拠なのでしょうか?


理解するためには中医学の臓腑学説を垣間見る必要があります。

中国伝統医学の脾の臓腑学説

脾は西洋医学で言う脾臓とは異なります。まずこの点をはじめに考慮しておかないといけません。中国伝統医学で言う「脾」とは胃よりも下位に位置する消化器系全体を指すのです。そこには大腸は含まれません。西洋医学で言う「肝臓」は含まれません。

脾は運化を司り、清を上昇させる(運化昇清)

食べ物や水分は口から食道を経て、胃に入ります。胃では食べ物の初期の段階の消化が始まります。これを中国医学では初歩消化といいます。水分や食物の栄養素を「水穀精微物質」と呼びます。

脾は水穀運化作用により水穀精微から後天の精の本を吸収します。その水穀精微の栄養部分は営気(えいき)となり脈内に分布し肺、心を経て血(けつ)となると中国医学は考えます。水穀精微物質の「力」の部分は衛気(えき)となり肺の主気作用により全身の脈外に分布し、体の免疫機能を張り巡らすと考えます。また脾は水湿を肺と腎に運ぶ水湿運化作用を持ち、肺と腎は気化作用(代謝作用)により水湿を汗液と尿液に変えて体外に排出させます。このように脾は津液の生成、代謝に深く関与すると考えます。脾は水穀精微物質より濁なるものを腸に降ろすと考えます。

体内の生理的な液体を津液(シンエキ)と言います。異常な液体を中国医学では 痰(タン)飲(イン)湿(シツ)などに分類して考えます。脾虚によって津液の運化が出来なくなって体内に産生された異常な水質を「内湿」といいます。肺、脾、腎などの水液代謝が失調し、津液の運化と輸布が出来なくなって、停滞、あるいは濃縮されることによって発生する病理産物のひとつが「痰」です。目に見える喀痰はその一部です。中国医学には「脾は生痰の源、肺は貯痰の器」という考えがあります。肺の痰もその起源は脾虚にあるという考え方です。脾虚によって内湿が生じると、やがては痰に変化するという「脾湿生痰」と考えるのです。肺の痰症の症状は咳、呼吸困難、多痰などでわかりやすいのですが、しこり、結節など、具体的にはリンパ腫、甲状腺腫なども痰核と称し、経絡の痰症の症状であると考えます。また、目に見えない「痰」の存在も中国伝統医学では想定しており、たとえば痰が心窮をふさぐと精神異常や意識障害をおこすという具合に考えます。

内臓下垂を中医は中気下陷といい治療は健脾により脾の上昇作用を強くすることです。脱肛や胃下垂、子宮脱傾向がある場合には、脾の上昇作用機能を強化する目的で補中益気湯を用います。また、一般に中国では習慣性早流産に対しては補中益気湯を服用させます。脾の上昇作用を強くすることが目的です。

脾は統血(とうけつ)作用により血を固摂(こせつ)する。

統血作用とは血を脈管(血管)の中に保持する作用を意味します。この作用を血の固摂作用といいます。現代医学的には、血液細胞の中の血小板が減少したり、凝固因子が不足するといわゆる「出血傾向」が出現しますが、中医学でいう碑の統血作用と対応する西洋医学的な検査データの厳密な対応は残念ながら明確ではありません。その「対応付け」は今後の中医学の大きな課題であろうかと思います。

十二指腸潰瘍による出血を例に取れば、

初期には何をさておいても止血に治療の重点を置き、緩和期には健脾により、脾の統血作用の強化を図ることになります。

脾は口に開竅し、その華は唇、五行では土、志は思、液は涎(えん)、筋肉と四肢を主る

これらは次のように考えれば、中医学を身近なものに感じられるようになります。

まず、消化管の入り口は口です。胃腸機能が悪いと、唇が荒れたり、唇の周囲に吹き出物などが出現します。思い悩みが過ぎれば胃腸障害が発生します。栄養の消化吸収が悪化すれば筋肉は痩せ、四肢は軟弱になります。

脾と肺の関係 

 

「気」からの理解

脾は水穀精微物質から営気、衛気を吸収し、営気は血管の中に、衛気は血管の外に分布し、それらの気は、宋気の分布する肺の全ての気を司る機能の下に置かれています。

「津液の代謝」からの理解

非常に観念的ですが、中国伝統医学では体液(津液)の生成と輸布に関して、次のよう述べています。

津液は脾の水湿運化作用により水穀から小腸、大腸より吸収され、脾の昇清作用により肺に運ばれ、肝の疏泄作用とともに肺の主気作用、宣発粛降作用(通調水道作用)により三焦(全身)をめぐり、肺の宣発作用の一部として汗になるとともに、腎の気化作用により、利尿(降濁作用)によってその量が調節されると。

脾は津液の元、肺は水の上源であり、脾は生痰の元、肺は貯痰の器という教えがあります。

五行学説では脾は土、肺は金であり、脾と肺の関係は脾が母とすれば、肺は子の関係です。

中国医学の治療原則に、「虚即補其母」という概念があります。ある臓が弱ったら、其の臓の母に当たる臓を強化するという意味です。参苓白朮散は虚即補其母」の代表方剤とされます。肺気虚によって生じる慢性の咳嗽や喀痰の治療には、肺の母である脾を健全強化させるという意味になります。「培土生金」と呼ばれる方法です。漢方には急即治標、緩即治元の治療原則があります。病気の急性期にはまず其の症状を緩和し、症状が緩和されている慢性期には、病気の原因を治療するという意味です。喘息や慢性気管支炎の治療を例に取れば、急性期には去痰、気管支拡張、清熱解毒などを行い、まず症状の緩和を図り、慢性期には健脾「培土生金」を行うということになるのです。

少しはご理解いただけたでしょうか?

それでは参苓白朮散の各生薬について説明します。

人参(にんじん)

人参については以前のブログを参考にしていただきたいと思います。

人参についてご紹介することは沢山あります。興味のある方は以下のURLを参考にしてください。

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20060825

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20060826

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20060828

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20060922

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20061017

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20061021

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20061101


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