多種の特異IgE陽性症例の治療経験
24歳 男性。小児期からアトピー性皮膚炎あり。近年3つの医療施設を受診するも顔面、後頚部、前胸部、腹部、ひざの裏のアトピー性病変が悪化するので当院を受診した。
初診時所見
(比較の意味で浮腫が取れた状態の写真を併置する。耳介が正常に近く薄くなり、外耳孔周囲の浮腫が引いている。)治療による浮腫の軽減。
背部には湿疹とともに痤 瘡様丘疹が目立つ。
各医療施設の近年の治療内容
某開業医での治療:抗アレルギー剤、痒みのための睡眠障害に対する睡眠剤、保湿軟膏とstrongestとstrongの中間に位置する強めのステロイド軟膏
うつ病を疑われての抗うつ剤
薬剤の説明は簡便すぎる傾向がある。清熱解毒剤が中心になっているが、桂枝が配合されている五苓散には若干問題があると感じる。痒み止めの祛風剤の配合が苦参と茵陳蒿のみではやや心もとない。防風や?芥、白蒺藜など の配合が無い。
特異IgE検査所見
ダニやハウスダスト以外にもほとんどの食品が陽性である。
食生活の指導
ダニやハウスダストの無い環境で生活するのはほぼ不可能である。卵白、牛乳、小麦はほとんどの外食品、市販食品に含まれる。米を食うなとも言えない。蕎麦はともかく、大豆由来の食品を食べないで過ごすのは日常生活では不可能である。カニ、エビ、アサリの海産物はある程度は注意して回避できるだろう。問診によると患者さんが食べ物で喘息発作が誘発されたことは無いとのこと。ちなみに、患者さんは香住の出身で元来、海産の甲殻類は食べ慣れていた。
私が指導した食生活
症状が改善するまでは避けるものとして、香辛料(胡椒、唐辛子、ラー油、山椒、シナモン、丁子、生のバジル、同じく生の紫蘇など)、カレー、キムチ、にんにく、にら、生の玉ねぎ、薬味を越す程度の生姜、みょうが、鶏肉以外の肉食(牛肉、豚肉、羊肉など)鰻、あなご、太刀魚、カニ、エビ、アサリ、チョコレートを禁食とした。
治療
ステロイド剤は順次、通常量の7分の1まで減量。経過中抗菌剤を加味した。当時の副作用情報に基づいて、アレロックを他剤に変更。漢方治療は黄連解毒湯、当帰飲子、消風散合方加味にて開始。ほぼ半年後には浮腫を伴う発赤の改善、背部、後頚部の発疹の消失、痤瘡変化が消失した。途中から当帰飲子、?芥連翹湯合方に変更した。
治療開始6ヶ月後。若干の赤みは残るものの酷い痒みは消失。後頚部にはステロイド苔癬が残存している。
ちょうどその時分に正月を香住の実家で過ごした際に、家人も含めアトピーが改善していると皆に言われた。良縁に恵まれ昨年、結婚された。
冬の香住はカニが美味しい。夏は釣り船で鯛釣りもいい。この患者さんの紹介の釣り宿で息子と2泊して、美味しい鯛を釣り上げた。患者さんのお母様がわざわざ釣り宿まで尋ねて来られて、旨い日本酒を差し入れてくださった。最近は禁食も忘れがちであるがアトピー再発は今のところ無い。