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慢性腎炎、(特にIgA腎炎)の漢方治療10

2012-12-30 00:15:00 | Marilyn Monroe マリリン モンロー

時振声教授 医案4

29歳男性、下腿浮腫があり、尿蛋白定性は4+、時氏受診時までに慢性腎炎として、ステロイド、免疫抑制剤、中薬で治療を受けていた。時受診時には24時間尿蛋白定量では5gの蛋白尿であり、ステロイドは10mg/日を維持量としていた。入院時所見:腰部酸張(lumbar soreness and distension)、咽干、軽度乏力(slight lassitude)、睡眠差(insomnia)、舌質偏紅、苔薄黄略?thin yellowish and a little greasy coating)、脈弦滑沈取無力(taut-rolling pulse but forceless while deep pulse-taking)。平素易感冒(平素カゼをひきやすい)。

(付記。他のデータも無かったわけではないのでしょうが、中医医案の特色は細かい血液生化学のデータを記載しないところにあるようです。中医学は経験医学であり、教科書で一般化できない師弟間の秘密があります。)

(さて)中医学の弁証では、先ず、consumptive disease(虚損)であり、mainly strengthen Qi and nourish kidney-Yin(益気滋腎陰を主とする)を治療原則と判断しました。その治療(具体的内容は記載がありません)により、腰酸などの腎虚症状は軽減され、ステロイドも漸減し中止できるまでになりました。

(付記。通常は腎内科医の仕事はここで終了しますが、この医案では)しかし、lassitude(けだるさ、疲労倦怠感)が次第に酷くなり、四肢の重い感じが、特に運動時に激しくなり、嘔気を伴い、食欲不振、軟便、口干(dry throat)が出現し、舌尖紅、苔薄白?脈は細弦略滑(thready-taut pulse with a little rolling)であった。脾気虚兼脾陰不足挟有湿邪(deficiency of spleen Qi with deficiency of spleen Yin complicated with damp-pathogen)と弁証し、益気健脾養陰利湿(reinforce Qi to invigorate the spleen and nourish Yin to induce diuresis)を治則と判断し、参苓白朮散(太平恵民和剤局方)加減を用いた。

参苓白朮散(太平恵民和剤局方)の元方は、人参 茯苓 白朮 山薬 蓮子肉 白扁豆 薏苡仁 砂仁 桔梗 甘草です。

時氏は人参を党参25g、茯苓30g薏苡仁30g蒼朮(燥湿健脾)白朮各15g山薬20g蓮子肉 白扁豆各15g砂仁、白蔲仁各6g桔梗10g白芍15g黄蓍20g大棗 甘草各6gにて治療開始しました。氏が加味したのは、蒼朮白蔲仁白芍黄蓍大棗です。

蒼朮 白朮 各15gという記載は健脾利湿の際によく見かける処方です。但し、陰虚、便秘がある場合は用いないと中薬講義では教えています。「脾は燥を好む」という中医表現があります。蒼朮は燥湿健脾作用のうち燥湿作用が強い。白朮は健脾、消腫作用が強いと記憶しています。共に用いることで脾虚による湿を改善します。生蒼朮は化湿作用が強く、長期の使用は津液不足をきたすことがあります。制蒼朮は蒸してから乾燥させたもので、化湿作用はやや低下します。炒蒼朮は炒めたもので生蒼朮と比較すると化湿作用は低下します。現在流通している蒼朮は殆ど制、或いは炒蒼朮です。

白蔲仁は白豆蔲(びゃくずく)です。化湿行気 温中止 化湿開胃に作用します。湿邪が上焦にある場合(胸苦しい)に良いとされています。中国では赤ちゃんの吐乳にミルクに粉末を混ぜて飲ませます。方剤では三仁湯(杏仁、白蔲仁、薏苡仁)中配合されています。中国臨床では砂仁とカップルにして使用することが多いようです。煎じ薬の場合には、処方箋には/寇仁各6~ 後下(こうしゃ)というように記載される場合が多いです。共に芳香化湿薬ですので後から煎じる必要性があります。時氏の処方はpowder(散)ですから、後下の必要性は勿論ありません。

白芍の使用目的は私にはわかりません。このような処方のコツが師弟間の秘密なんでしょうね。養陰、斂陰の意味でしょうか?湿がある場合に、どのような基準で使用を決定するのか?難しいですね。

黄蓍20gは多いですね。黄蓍の使い方を極めると腎病の治療に役に立ちますね。

さて、上記時氏の参苓白朮散加味にて3ヶ月治療したところ、いわゆる倦怠感が軽度残るものの、他の症状は悉く消失し、24時間尿蛋白の定量では1g/日に減少して、患者は退院となりました。尿量の変化や生化学的データなどの記載は一切ありませんでしたが、結果よければ全てよしですね。

ともかく、中医学の診断に診察は欠かせません。四診合参の内容は、望診(神色形態 神は精神状態、態は異常な動作を指す、舌診)、聞診(音声を耳で聞く、体臭を鼻で嗅ぐ)、問診「十問」寒熱、汗、痛み、頭身、便、飲食、胸、難聴、口渇、旧病、病因、婦人科特有、小児科特有、そして切診脈診、按診)です。四診合参が習慣となれば、時間的にも、精神的にも大きな苦痛にはなりません。

30日には上海に飛び、朱老師に会ってきます。今回は贅沢にJALで行ってきます。

ドクター康仁 2012年 最終記

Marilynの版木を彫っている時に私流の楽しみ方があります。近未来は確率論的に予想できますが、予言はできません。過去は記録しておくことで、確定されます。正確には私流の楽しみ方があったと過去形で表現すべきでしょう。

Lying_monroe_with_japanese_mask_5

Marilyn Monroe; similar to a Japanese Noh mask? Original woodcut by Dr. Kojin.

能面にも共通するsomethingを感じて記録しました。


慢性腎炎、(特にIgA腎炎)の漢方治療9

2012-12-28 04:45:00 | Marilyn Monroe マリリン モンロー

時振声教授 医案3

10年間の慢性腎炎に悩む41歳女性患者。10年来、過労や上気道炎で急性悪化を繰り返してきた。10日前悪寒発熱、悪心、食べると嘔吐するという外感病によると思われる症状が出現し、対症療法の後、症状は一旦落ち着いたが、乏尿、浮腫、四肢の重い感じ、眩暈や頭の張る感じ、悪心嘔吐などの症状が強くなった。入院後検査:形神倶衰(lassitude of both physique and mind,顔面と頭部の浮腫(いわゆるpitting edemaでありpuffyと表現される)眼瞼は如臥蚕(like the lying silkworm)で、腹部は腫大し、下肢にはpitting edemaが著明であるが、皮膚は粗い、爪は乾燥し、舌は紅、苔薄黄、脈は沈細数(deep-thready-rapid pulse)血圧24/13.5kPa(1kPa=7.5mmHgで換算すると180/101mmHg)尿蛋白定性(4+)尿沈渣400倍毎視野 白血球4~6 赤血球4~6 上皮細胞1~2 顆粒円柱0~1、末梢血液検査:(原文をそのまま載せれば白血球1.2109乗(好中球0.72、リンパ球0.28と記載されており、国際単位に一致しません。)血清アルブミン値は2.6g/dl グロブリン値は1.8/dl,ヘモグロビン値は9.2/dl PSPテスト15分値2%、2時間値32%であった。元来の内湿と新しい外感の影響を受けたことによる脾虚が進行して気虚が著しくなると、脾の水質運化作用も更に低下する上に、肺の主気作用も傷害され、宣発粛降作用(通調水道作用)により津液を三焦にめぐらす作用も衰え、肺の宣発作用の一部として汗になる作用も衰えます。元来の慢性腎炎により、腎の気化作用も衰えていますので、水質の邪が郁滞することになります。

これらは、基礎理論に従う立場からの私の分析です。一日尿蛋白の定量や、BUN、クレアチニン、血清脂質などのデータは医案には記載されていません。いわゆる腎機能の指標である糸球体ろ過値(GFR)も記載がありません。PSPテストの低下に対するコメントも記載がありません。

さて、

時氏は水湿内停、形成表実、水停、鬱熱証と診断しました。治療は解表清裏、発汗利尿として、越婢加朮湯麻黄連翹赤小豆湯合方を以って、三焦の気を宣通し、内外の湿邪を分消すると判断しました。説明しますが、解表清裏とは発汗させ解熱させ、かつ裏熱も清する意味であり、発汗利尿とは“発汗させれば循環血漿流量が減少するので利尿には適さないのではないか?”という画一的な西洋医学理論ではなく、前述したように、発汗させることを開鬼門カイグイメンともいい、提壷掲蓋の概念から、中医学的には宣肺シュアンフェイによって尿を出させる治療法であり、宣肺排尿(シュアンフェイパイニャオ)を図るという意味になろうかと私は思います。宣肺解表剤により、一時的な尿閉を改善し、尿量を増加させる治療法と理解してください。

越婢加朮湯

越婢加朮湯は現代中医学では主として「水腫」の「風水氾濫」に用いられる方剤です。

風水氾濫とは?

眼瞼浮腫、続いて四肢及び全身まで腫れてきて、勢いが急であり、多くは悪寒、発熱、肢節酸痛、小便不利などがみられる。風熱に偏るものは、咽喉が腫れ痛み、舌質紅、脈浮滑数などを伴う。風寒に偏るものは、悪寒、咳、喘息、舌台薄白、脈浮滑あるいは緊が見られる。水腫が酷い場合、沈脈も見られる。

中医学による将校分析:風邪襲表、肺失宣降の為、水道が通調されず、膀胱まで水液が運ばれなければ、悪風、発熱、肢節酸痛、小便不利、全身浮腫などが現れる。風は陽邪であり、拡散や変化が早く、移動しやすい特徴がある。その性質は軽揚であり、風水が互いに絡み合って発病することにより、水腫が顔面から始まり、直ちに全身に波及する。もし風邪に熱が伴う場合、咽喉が腫れ痛み、舌質紅、脈浮滑数が見られる。風邪に寒が伴う場合、邪が肌表にあり、衛陽が阻ばまれて、肺気不宣になるため、悪寒、発熱、咳き、喘息などが現れる。腫れが酷く、陽気が巡らず内にこもれば、脈沈、或いは沈滑脈、あるいは沈緊が現れる。

治療原則:散風清熱、宣肺行水

方剤:越婢加朮湯(金匱要略)加減。

越婢加朮湯(金匱要略):麻黄 生石膏 甘草 大棗 生姜 白朮

処方中の麻黄は、宣散肺気、発汗解表に働き、表にある水気が取ることができる。生石膏は解肌清熱をし、白朮、甘草、生姜、大棗は健脾化湿をして、崇土制水(五行学説での健脾により水停を除くの意味)の効能がある。それに適当に浮萍、澤瀉、茯苓を加えて、宣肺利水消腫の効能を増強する。咽喉腫痛があれば、板藍根、桔梗、連翹を加えて、清咽散結解毒を期し、熱重尿少の場合には、鮮茅根を加えて、清熱利尿をはかる。もし風寒偏盛であれば、石膏を取り去って、蘇葉、防風、桂枝を加えて、麻黄の辛温解表の力を増強する。もし咳、喘息が割合に酷い場合は、前胡、杏仁を加えて、降気止喘することができる。汗出悪風、衛陽気虚の場合防己黄耆湯(金匱要略)の加減を使い、助衛行水をする。本証には西洋医学での上気道感染後の急性腎炎症候群(慢性腎炎の急性悪化も含む)に類似する病態がある。

 もし表証が次第に解消され、身重かつ水腫が退かないものには、水湿浸漬型として論治する。

防己黄耆湯(金匱要略):防己 黄蓍 白朮 甘草 生姜 大棗が適する。

麻黄連翹赤小豆湯「傷寒論」

「水腫」の「湿毒侵淫」に用いられる方剤です。

 (症状)眼瞼浮腫が全身に及び、小便不利、全身発瘡、甚だしいものは潰爛も見られ、悪風、発熱、舌質紅、苔薄黄、脈浮数或いは滑数である。

 (症候分析)皮膚は脾肺によって司られている部位であり、だから皮膚瘡廱が現れる。湿毒が即時に清解消散されなければ、臓腑に内帰して、中焦の脾胃は水湿を運化できなくなり、昇降清濁の働きが失われ、肺の通調水道の働きを異常にさせ、小便不利になる。風は百病の長であり、病の初期は、多く風邪に関わり、それで眼瞼が先に腫れてきて、即時に全身に波及し、かつ悪風、発熱の症状が現れる。その舌質紅、苔薄黄、脈浮数或いは滑数は、風邪夾湿毒によるものである。

 (治法)宣肺解毒、利湿消腫

 (方薬)麻黄連翹赤小豆湯五味消毒飲である。

麻黄連翹赤小豆湯(傷寒論):麻黄 杏仁 生梓白皮 連翹 赤小豆 甘草 生姜 大棗

前方中の麻黄、杏仁、桑白皮などは、宣肺行水に、生梓白皮は清熱解毒に、連翹は清熱散結に、赤小豆は利水消腫に作用する。

五味消毒飲(医宗金鑑):金銀花 野菊花 蒲公英 紫花地丁 紫背天葵

後方は銀花、野菊花、蒲公英、紫花地丁、紫背天癸で清解湿毒の力を増強する。膿毒の酷いものには、多く蒲公英、紫花地丁を使用する。湿が盛んで糜爛のある者には、苦参、土茯苓を加え、風が盛んで掻痒のある者には、白鮮皮、地膚子を加え、もし血熱かつ紅腫があれば、丹皮、赤芍を加え、大便不通には、大黄、芒硝を加える。本証には西洋医学での、ビールスあるいはリケッチャ感染による急性腎不全を伴う腎障害に類似する病態がある。

本稿に戻り、時氏が処方したのが、

麻黄 白朮生石膏(先煎)各30g生姜10g大棗5枚、連翹12g赤小豆白茅根各30g澤瀉15gです。

元方の越婢加朮湯(金匱要略)の組成は麻黄 生石膏 甘草 大棗 生姜 白朮であり、

元方の麻黄連翹赤小豆湯(傷寒論)の組成は麻黄 杏仁 生梓白皮 連翹 赤小豆 甘草 生姜 大棗です。

麻黄 白朮生石膏(先煎)各30gですから通常の量からすれば大量です。生姜大棗は両方に共通です。連翹12g赤小豆30gが麻黄連翹赤小豆湯(傷寒論)由来となります。澤瀉15g 白茅根30gが加味されています。7剤を服薬後、病勢は大きく減少し、顔面の浮腫は消退し、頭痛、眩暈、悪心嘔吐は消失し、体が軽くなったと患者は訴え、尿検査の改善も著しかった。

そうしたところ

数日後、感外邪(カゼをひいた)。汗が出て、時々悪風があり、全身のだるい痛み、筋肉痛、四肢の重たい感じが出現し、脈は虚数(feeble-rapid,舌苔は白、舌質は紅。そこで、風湿の邪がまだ十分に除かれていない時に、新たに外感が加わり、過去の病歴と一致する証(水湿内停、形成表実、水停、鬱熱証)が発生したと考え、表虚裏湿(exterior deficiency and interior damp)は疑いの無いところであるから、防己黄耆湯(金匱要略)加味方を以って、健脾表実(replenishing the body surface by invigoration of spleen)と清熱利湿(reduce damp-heat by diuresis)を図った。

時氏が処方したのは、以下

生黄耆防己炒白朮各15g甘草6g(ここまでが防己黄耆湯)加、赤白芍薬各10g赤小豆30g連翹12g葛根20g板藍根15g防風10g服薬20剤で、病状軽快し、退院となった。微温~温薬3薬、微寒~寒薬5薬、平薬2薬の配合です。

ドクター康仁の付記

大青葉ダーチンイェの根が板バンランゲンです。清熱解毒 利咽に作用しますが、近年では抗ウイルス作用が注目されています。芍薬でも赤芍薬は血分での活血化瘀作用に優れます。白芍薬は赤芍薬と同様に微寒ですが、苦酸で、補血収斂、柔肝止痛、平抑肝陽に作用します。上記症例では、収斂作用を期待して止汗目的で使用されたかもしれません。赤小豆は利水消腫 解毒排膿の効があります。葛根は解筋止痛の効に優れます。防風は袪風除湿に作用します。黄蓍はあまりにも有名な生薬ですが、①補気昇陽②益衛固表、(衛気の衛)③托毒生肌 ④利水消腫に作用します。平たく言えば、水毒をとり、尿を利し(利尿消腫作用により脾虚水腫を改善)、元気を増し(補気昇陽)、汗を止め(固表止汗)、皮膚の栄養を助け、肉芽の形成を促し、化膿を止め、膿汁を排泄させる効能(托毒生肌)中気下陥(脱肛、子宮脱垂)にも効果ありとなります。黄蓍の②益衛固表、(衛気の衛)の作用について少述すれば、衛気を養い止汗作用、抵抗力を増加させる作用、喘息や気虚の寒邪の風寒に(精気不足の人のカゼに)使用され、有名方剤として、白朮と共に「玉屏風散」があり、反復性扁桃腺炎の予防治療に用いられます。時氏の処方中にも黄蓍、白朮、防風の三薬「玉屏風散」が配合されているとも判断できます。防己ファンジー祛風清熱薬で、祛風止痛、利水消腫に作用し、利水作用(および鎮痛作用)が注目されています。

それにしても、難しいのは麻黄の使い方ですね。時氏は最初には麻黄で宣肺排尿(利尿)を狙い、次には黄蓍で固表止汗を図るという具合に「臨機応変」に治療法を変えています。

当初の処方:麻黄 白朮生石膏(先煎)各30g生姜10g大棗5枚、連翹12g赤小豆白茅根各30g澤瀉15g

後の処方 :生黄耆防己炒白朮各15g甘草6g(ここまでが防己黄耆湯)加、赤白芍薬各10g赤小豆30g連翹12g葛根20g板藍根15g防風10g

共通するのは白朮(健脾利湿)赤小豆(利水消腫)連翹(清熱解毒)だけです。

ところで、防己黄蓍等の防己は「広防已」とは異なります。
広防已は、アリストロキア酸という腎障害を起こす物質を含み、海外ではchinese herb nephropathyといわれる腎障害をおこすと報告されています。オオツヅラフジ科の植物を原料とする日本薬局方の「防己」はアリストロキア酸を含みませんので危険性はありません。日本の生薬メーカーは品質管理が徹底していますが、「個人輸入」などの場合、別物の「広防已」が紛れ込む可能性がありますのでご注意ください。

次回も時教授の医案を紹介いたします。

年内の更新も今回が最後になるかもしれません。

夜も明け始め、本年の最後の診療が私を待っています。

P1070052 

Marilyn Monroe in early morning blue.

Original woodcut by Dr. Kojin.

さようなら。2012年。


慢性腎炎、(特にIgA腎炎)の漢方治療8

2012-12-26 00:15:00 | Marilyn Monroe マリリン モンロー

中医学は経験医学です。長年の経験を積んだ名医を老中医と尊称します。中国伝統医学をtraditional Chinese medicine(TCM)といいます。老中医は内科領域ではveteran TCM physicianと英訳します。それでは、veteran TCM physician Shiの症例報告(医案)を覗いてみましょう。中国のcase reportは治療が無効であった場合のreportは殆ど見られません。ですから、治療が有効であった症例報告という意味でeffective casesとしての医案(case report)です。

時振声教授 医案1

1995年9月17日初診、32歳女性。2ヶ月前に感冒発熱咽頭痛の後に肉眼的血尿が生じ、近医を受診し治療を受け肉眼的な血尿は消失したが、顕微鏡学的血尿が持続し、受診となった。腎生検を施行、経度増殖性IgA腎炎であった。臨床診断は“隠匿性糸球体腎炎(血尿型)”とした。腰膝酸軟、全身乏力、感冒にかかりやすく、咽干喜飲、手心熱、生理は遅れがちで、生理不順があり、生理血に瘀塊があり、大便は乾燥しており、2~3日に一度便通がある。小便は黄、尿意切迫、頻尿、排尿痛は無いが、排尿時に熱感を感じることがある。舌質は暗紅、苔は薄黄、舌の奥はやや?、脈弦細。初診時の尿検査では、尿蛋白(-)尿沈渣400倍率で毎視野白血球0~3、赤血球15~20であった。気陰不足、陰虚内熱、血熱妄行に属する証と判断した。

益気滋腎清利と化瘀止血を治則とした。彼は益気滋腎化瘀清利湯加味:太子参15g女貞子、旱蓮草各10g、生側柏、馬鞭草、益母草各30g、白茅根20g、大、小薊各6gを用いた。服薬2週後には、諸症は軽減し、尿沈渣400倍率で赤血球3~5と改善した。さらに継続して4週服用後で検尿に異常所見がなくなった。原方から大、小薊を去り、継続服用しているが1996年遼寧省中医学誌第二期報に発表するまで再発はない。

評析

本症例は外感風熱による肉眼的血尿時に治療が不十分であったので、病が遷延し、気陰内耗、陰虚内熱、血熱妄行に至った。唐容川は述べる:“離経の血は、新鮮血であれどもまた、瘀血と為す。”故に、時氏は、血尿には虚実を論じない、すでに離経の血が存在し必ず瘀滞を有するからだ。治療時には常に活血化瘀を忘れないようにする、同時に、血を見て止血はよろしくない、炭類の止血固渋薬を大量に使用するのは禁忌であり、効果が無いばかりか、また却って瘀滞が病呈を遷延させると時老中医は説いています。

太子参は益気健脾、補記生津に、女貞子旱蓮草は滋腎養肝に、生側柏は涼血散瘀、袪風利湿、馬鞭草は活血散瘀、利水消腫に、大小薊は涼血止血、散瘀利尿、益母草は活血利水作用するが、“行血は不傷新血(出血させることにはならなく)、養血は瘀血を滞らせることもない”更に、中空で節のある白茅根は、郁熱を透じ、小便の渋りや排尿痛によく効く、また涼血止血に作用する。益気滋腎、活血化瘀、清利湿熱、涼血止血の功能は、“血尿腎炎”の有効良方である。

時振声教授 医案2 腎陰不足 陰虚内熱案

20歳女性、感冒発熱後に肉眼的血尿が出現。某病院で腎生検を受け、IgA腎炎と診断される。ステロイドホルモン、雷公藤治療が無効で、顕微鏡学的血尿、(400倍毎視野で尿沈渣赤血球1030個)尿蛋白定性(+)或いは(-)。疲労が重なり、感冒で咽頭痛が生じると肉眼的血尿が加重し、2~3日続くと、顕微鏡学的血尿になり、病呈は1年以上になっていた。腰酸腰痛、咽干咽痛、口干喜飲、食欲不振、尿は新鮮な肉を洗った時のような赤い色で、大便は乾燥に傾き、舌質暗紅、舌苔薄黄微?、脈は弦細であった。腎陰不足、陰虚内熱、血熱妄行、挟有瘀血、湿熱にて、滋腎化瘀清利湯と銀蒲玄麦甘桔湯の合方を4剤投与したところ病状は好転し、咽干咽痛は軽減した。尿検査にて蛋白(+~-)赤血球(5~8)、滋腎化瘀清利湯を2ヶ月継続投与したところ、如検査で蛋白(-)赤血球(-)となった。治療効能を固めるために、さらに2ヶ月投与を継続した。尿検査は正常に属している。

評析

IgA腎炎では肉眼的血尿あるいは顕微鏡学的血尿があり、同時に手足心熱、口干喜飲、大便偏干、脈象は沈細あるいは弦細、舌質は暗紅苔薄或いは舌質紅無苔などは、中医弁証では腎陰不足或いは肝腎陰虚、瘀血を挟み、湿熱も伴う証に属する。時氏は滋腎化瘀清利湯を以って滋養腎陰を治本とし、清熱利湿と活血化瘀を治標として、臨床治療効果を高めている。

時氏滋腎化瘀清利湯女貞子10旱蓮草10白花蛇舌草15生側柏15馬鞭草15大小薊30益母草30白茅根30石葦30

銀蒲玄麦甘桔湯:銀花15蒲公英15玄参10麦門冬15生甘草6g桔梗6g薄荷6g(後下)

温薬が一つも見当たらないのが本日の焦点の一つと感じてください。治本や治標という用語に拘らなくてもいいのではないかと私は思います。

次回も時振声教授の医案をご紹介します。

続く

ドクター康仁 記

Peaceful_green_reflection

画竜点睛を欠くといいますね。最後に決め損なったことを表現する四文字熟語の表現の一つですが、私は、昔とは違って、最初に眼を書き入れます。木版画というのは、切り損なったら終わりの世界ですから、最初に眼から彫り始めます。もし、点睛を欠けばそれ以上は彫り進めません。


慢性腎炎、(特にIgA腎炎)の漢方治療4

2012-12-21 02:15:00 | Marilyn Monroe マリリン モンロー

清利湿熱、解毒通淋法

さて、CKDに対する「清利湿熱、解毒通淋法」は。下焦湿熱、邪擾腎絡の証に用いるとされます。どのような証かと言えば、●腰酸腰痛(腰がだるく痛む:これは腎虚の証であり、これのみでは下焦湿熱の証にはなりません)以外に、●尿黄短赤(肉眼的に尿の黄色が強くなり、頻尿気味で排尿痛などを伴う)、甚だしい場合には肉眼的血尿があり、頻尿気味で、▲腹が張る感じがあり、食欲不振、大便は軟便気味ですっきりと排便できなく、●舌苔は黄?で、脈は弦細或いは細数(さいさく)(数は「さく」と読み、頻脈傾向を指します)。湿熱が下焦に薀結(うんけつ)(停滞する意味)し、腎陰を消耗させると、陰虚内熱が生じ、それら熱邪が腎絡を傷つけると、尿黄短赤や血尿が生じると説いています。中医学では腰は腎の(外)腑であるとされ、腎虚になると腰酸腰痛が生じ、下焦熱盛になると不快な頻尿が生じ、湿熱が(中焦の)脾胃に薀結すると、脾は健常な運化を失う(脾失健運)ことになり、腹が張る感じ、食欲不振、大便は軟便気味で、すっきりと排便できないなどの消化器症状が出現します。舌や脈象は下焦湿熱の証とされます。

小薊飲子済生方)」を主方とします。済生方の原方の組成は小薊 生地黄 藕節 蒲黄 山梔子 木通 竹葉 滑石 当帰 甘草ですが、近年は木通の腎毒性が明らかになっている為に、通草を用います。竹葉は淡竹葉を用いるのが現代流です。通草と淡竹葉は小便に熱を導き排出する働きがあります。小薊 生地黄 藕節 蒲黄は涼血止血に働き、山梔子は熱邪を三焦から除くと中薬学に記載があります。当帰は一般には養血活血に作用すると記載されていますが、腎炎の場合には「引血帰経」と称し、離経の瘀血を経脈に戻すという意味合いの表現がなされています。湿熱の証が甚だしい場合には、石葦萆薢を加味し、血尿が著しい場合には、白茅根槐花で涼血止血の効を強め、さらに旱蓮草で涼血止血、滋陰益腎の功能を求めます。

血淋(けつりん)

中医内科学では伝統的に「血淋(けつりん)」という範疇があります。「小薊飲子(済生方)」が主方となる分野ですので、紹介します。

(症状)まず、「実証」から述べますが、小便がスムーズに出難く、排尿時に熱感と刺痛がある。 尿色が深紅、或いは血塊が混じり、疼痛満急が酷くなり、或いは心煩を伴い、苔黄、脈は滑数である。次ぎに「虚証」に言及します。

尿色が淡紅、排尿痛や尿の渋滞は著しくなく、腰酸膝軟、精神疲労、無力、舌淡紅、脈細数などが見られる。

症候を中医学的に分析すれば、湿熱が膀胱に下注して熱盛傷絡、迫血妄行すると小便が渋り痛み、血が混じる。血塊が尿路を閉塞するために疼痛満急が更に悪くなる。例えば、心火亢盛であれば、心煩、苔黄、脈数などは実熱の現象である。病が長期にわたり、腎陰不足になり、虚火灼絡で、脈絡が損傷されて、その結果、尿色が淡紅になるも渋痛が著しくなく、腰膝酸軟などが見られる。これは血淋の虚証に属する。以上のような分析になります。

治療原則は、実証に対しては、清熱通淋、涼血止血を、虚証には、滋陰清熱、補虚止血となります。

使用される方薬は、実証には、小薊飲子導赤散を用いる。小薊飲子中の小薊草は、30gまで多めに使い、生地黄は新鮮の物を適宜とする。甘草は生甘草が適宜であり瀉火に作用する。

導赤散」(小児薬用直決)も主方の一つです。組成は、生地黄 木通(通草、灯心草で代用) 生甘草梢9 淡竹葉6であり、清心瀉火 利水通淋に作用します。使用される証は「心経熱盛証」(プラス尿血)であり、具体的には、心胸煩熱、口渇面赤、渇欲冷水、口舌生+尿混濁、排尿痛であり、熱移小腸が病機であると説いています。心の臓腑関係は、心と小腸になりますが、熱移小腸は、西洋医学者にとっては、非常に「感覚的に乖離した概念」です。中医学説があらかじめ出来上がっているものですから、後世の中医学者も先人に敬意を表して用語漢字で表現しているのも、一部には現実であろうと私は思います。サイエンスは権力や権威とは無縁であるべきですが。小腸実熱について付記すれば、病機概要:多くは心火が小腸に移ったものである。

主要症状:思い悩む、不眠、口内炎ができる。小便が濃く、排尿もよく痛みを生じる。或いは血尿が見られる。舌苔は黄色で、舌質は紅い。脈は滑数であり。治療法則は清心火、導熱下行であり。方剤挙例すれば:導赤散(小児薬用直決)、凉膈散(和剤局方)等になります。導赤散(小児薬用直決):生地 木通(灯心草で代用) 生甘草梢9 淡竹叶6

効能 清心瀉火 利水通淋

心経熱盛証(心胸煩熱、口渇面赤、渇欲冷水、口舌生?)+(尿混濁、排尿痛)熱移小腸

もし血尿が著しく、痛みが甚だしい者には、人参三七琥珀粉を飲ませて、化瘀通淋止血をする。虚証には「知柏地黄丸」(医宗金鑑)にて滋陰清熱をし、旱蓮草阿膠小薊草などを加え補虚止血をはかると記載があります。補足すれば阿膠は中薬学では補血薬に分類されていますが同時に止血薬でもあり、滋陰潤肺作用もあり、婦人科では止血方で用いられています。琥珀は安神、活血散瘀、利尿通淋に作用します。重鎮安神薬で平性は琥珀のみです。凉膈散の膈は縦膈、横隔の意味であり、上焦中焦の熱を清熱+利尿泄熱+通便(以瀉代清)の組み合わせで解熱させるものです。組成は山梔子10連翹40薄荷10(後下)黄芩10竹叶30大黄 芒硝 甘草20であり、調胃承気湯が配伍されています。

 こうして、清利湿熱、解毒通淋法を見てみますと、慢性腎炎、慢性腎盂炎、尿路感染症、出血性膀胱炎、限局的な尿道炎など、現代医学で厳然と区別されている疾患を中医学で鑑別診断を行おうとしても、ほぼ不可能であるということです。しかし、治療効果という観点からすれば、一定の効果がある以上、無視できないものが中医学には存在します。私が、初めて中医学の腎病に接したときの印象は、問診と診察を怠らないようにしなければならないという臨床医の姿でした。パソコンの画面のみ注視し、診察は一切行わない腎病の臨床家が、日本の現実に存在します。胃腸症状は専門外、腰痛は勿論の専門外、脈も診なければ舌も診ないとする態度も、医療訴訟が増加しつつある昨今の医療現場では「許容されうる態度」でしょうか。問診と診察が直接に治療(投薬)に反映されない医学体系の中で育って来た医師にとって、情報源は画像と血液検査、尿検査の結果だけという偏った診療が「一般化」しているのは残念なことではあります。

自然界に存在する薬物を組み合わせ、用法するのが中国伝統医学です。温故知新を、更に進展させるのが明治維新後の日本の姿勢ですから、徹底的に基礎医学を深めなくてはなりません。後塵に甘んじたくなければ、研究を進めるしかありません。基礎研究には、お金もかかりますが、「仕分け」をプロパガンダ(宣伝)にしていた売国的民主党は葬られました。新生「自公(維、み)」に期待しましょう。 しかして?

ドクター康仁 記

細切れの時間を使ってモンローの版画を楽しんでいます。日本の女優では浅岡ルリコ(私はリリーって呼んでいます)がいいですね。イタリアの女優ではソフィアローレン。どんなに美形でも、線に「老い」は出てきますね。本日のマリリンには、隠せない老いが出ています。

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Marilyn Monroe in a black sweater. Original woodcut by Dr. Kojin


慢性腎炎、(特にIgA腎炎)の漢方治療3

2012-12-16 18:56:52 | Marilyn Monroe マリリン モンロー
益気健脾と活血化瘀法
はじめに、基本に戻りましょう。
益気とは「気」を増すことを意味します。これからお話することは中医基礎理論の分野に属します。生命活動を気 血 津液の3要素から弁じる中医学の論理体系の言語体系に従えば、気の功能は、以下の5つです。
1.推動トゥイドン作用 血と津液を推し進める作用
2.温煦ウェンシュー作用 体を温める作用
3.防御ファンユー作用 衛気の作用と考えて可であり、外邪の生体侵入を防ぐ作用
4.固摂グーシャ作用 血、津液が漏れるのを抑える作用
5.気化作用 代謝を行う作用
大雑把でありますが、まずこの5つの作用を頭に叩き込まないと中医学に一歩たりともは入れません。

すでに、面倒だなぁという印象を与えてしまったかもしれません。
具体的な「気」の解釈を例をあげて述べます。
冷え性は気の温煦作用の低下によるものであるから原因は気虚であり、治療は補気が必要。
少し動いても、だらだらと発汗が多いなどの自汗は気の固摂作用の低下であるから気虚が病因となる。
高齢者の夜間頻尿はこれも固摂作用の低下であるから気虚。
男性の精液の洩れ(滑精)なども固摂作用の低下であるから気虚。
まだまだ大雑把です。検証しようとしても結果論的な検証しかないのです。その結果論にしても使用する生薬の解析が不十分ですから、検証を現代医学的に論理的に検証するにいたっていないのです。
気の固摂作用は、1、血液を固摂する2、尿液を固摂する3、精液を固摂する4、帯下を固摂するの、おおよそ4つですが、蛋白尿も糖尿も気の固摂作用の低下と拡大して考えます。
スライド 気の分類表

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水穀精微物質は飲食により、脾、胃から体内に取り込まれる物質を意味し、その栄養分である営気は血脈内に分布して血を造り、その「力」の成分は血脈外で衛気として表の①~④に働きます。「気は血を生む」という中医理論と矛盾しない体系になっています。呼吸により自然界の大気から体内に取り込まれる清気は宗気となり、呼吸と循環をつかさどります。元気は先天的に両親から受け取るもの(これを先天の精気といいます)と、後天的に水穀精微物質と清気から補充され、生命活動の原動力になります。人体を構成し、生命活動を維持するのが、気(きチー)、血(けつシュエ)、津液(しんえき、シンイェ)です。神志活動の際の、物質的基礎は「血」であると展開していきます。津液には涙液、汗液、腸液、関節液などを含みますが、血を含まないとしています。水液の昇降出入する通り道が三焦であるとしています。先天の精気に対する「後天の精気」という用語は、脾、胃から吸収される水穀精微物質(水穀精微)と肺から吸収される自然界の清気を意味します。
中医は脾、胃(土)を基本に考えます。現代人が弱い原因は、水穀の変化、自然界の清気(空気と考えてもよい)の汚染により、気の不足(気虚)に落ちっているからだという考えが主流です。気を形成する主な源は①先天の精気②自然界の清気③水穀の気ということになります。やや飛躍しますが、肺は気の主、脾胃は気血生化の源、腎は気の本という中医学の基本概念を紹介しておきます。順番を変えて、①肺は気の主②腎は気の本③脾胃は気血生化の源と覚える方がより中医学的です。
スライドのように、
気には、元気ユアンチー、宗気ゾンチ、営気インチ、衛気ウェイチの4つが存在します。
ここで、また気分転換にMonroeに登場してもらいます。

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元気は原気、真気とも表現される場合がありますが、元気が一般的です。
先天的に親から受け継いだ「先天の精」を基礎として、出生後に水穀精微物質、自然界の清気から後天的に補充されるもので、三焦を通して全身に分布する。生命活動の原動力である。

宗気ゾンチ
呼吸により吸い込まれた自然界の清気と、脾胃からの水穀の精気から胸中で生成され、上焦(心、肺)に分布し、効能は上焦(心、肺)の機能と一致し、即ち呼吸を行し、心脈を貫きます。声の甲高い人に対して、中国では「宗気が高いね」と皮肉を言う場合があります。心不全は心筋の収縮力が衰えた状態ですが、中医学では宗気が衰えた状態であると認識されています。

営気インチ
水穀精微物質の栄養性が豊富なものから生成される。
血管(血脈)の中に分布し、効能は血を造る成分になることである。血液の生成のプロセスにもっとも重要な臓腑が脾胃と中医は考えます。
営気は純粋で陰に属し、衛気は慄疾滑利で陽に属するともいわれます。
営気は十二経脈、任脈、督脈を循行します。

衛気ウェイチ
水穀精微物質の力の部分より生成される。血脈の外側に分布し、防衛作用(主として外邪から生体を守る作用)が効能です。毛穴の開閉も衛気の作用である。外邪に対する防衛である。黄蓍の作用のひとつである益気固表とは皮膚の毛穴の開閉をコントロールし衛気を充満させることであるとされます。
衛気の作用をまとめると①外邪を防御 ②体温の維持 ③肌膚の温養 ④腠理の調節となります。したがって、中医は衛気が不足すると、低体温、風邪を引きやすくなる、自汗、病後の回復が遅くなる と述べています。

血(けつシュエ)
定義:血脈を流れる赤い液体
生成:水穀精微物質が脾、肺、腎、心、肝臓のそれぞれの気の効用により血となる
分布:血脈の中
運動:気の推動作用による
    心は血脈を司り
    肺は血脈を朝し
    肝は血を蔵し、
    脾は統血する
効能:栄養を与える 潤す
言ってしまえば当たり前のような、そうでないよう様な、大雑把な内容です。漢字の感覚をつかむようにしましょう。血の濡養機能が低下すると、顔色血色が無くなる、肢体が痺れる、皮膚(肌膚)が乾燥する、視力が減退すると中医学は説いています。
気と比べると血は陰に属します。陰血という言葉がありますが、血が陰に属するので陰血と呼ぶというような定義の仕方がありますが、これには納得できません。次ぎに述べる津液も陰に属しますが、陰津液という用語はありません。陰液という用語はあります。私の感覚では陰血というのは津液も含む用語ではないかというものです。

津液
体内のすべての正常な水液の総称です。気、血、津液は生命活動を維持します。
津は稀薄(きはく)で、皮膚、筋肉、孔竅に分散し、血脈の中に注いで滋潤作用に優れ、液は粘稠(ねんちょう)で骨節、臓腑、脳、髄に注ぎ、濡養作用(栄養作用)に優れるものを称します。
津液の生成と輸布
津液は脾の「水湿運化作用」により水穀から小腸、大腸より吸収され、脾の「昇清作用」により肺に運ばれ、肝の疏泄作用とともに肺の主気作用、宣発粛降作用(通調水道作用)により三焦をめぐり、肺の宣発作用の一部として汗になるとともに、腎の気化作用により、利尿(降濁作用)によってその量が調節されます。
脾の昇清シャンチン降濁ジャンジュオ作用
脾は水穀精微物質より清なるものを肺に上昇させる 
脾は水穀精微物質より濁なるものを腸に降ろすという作用を昇清降濁作用といいます。降濁作用が大便に繋がると考えれば簡単な理論です。

気 血 津液の相互関係
気と血の関係を語る上で四文字熟語で、気為血帥チーウェイシュエシュアイ血為気母シュエウェイチームーという言い回しがあります。気は血の帥であり、血は気の母であるという意味ですが、この意味は、
① 気は血を生むことが出来る。営気は五臓の気の作用により血となる。
② 気は血をめぐらすことが出来る。血は心の宗気作用により動く。血は肝臓の疏泄(そせつ シューシエ)作用により滞りなく動く。
③気は血を固摂(こせつ グーシャ)させることが出来る
固摂の具体的解釈を述べれば、無理なダイエットによる若い女性の出血傾向(皮下、薄、長い生理)は固摂作用の低下であり気虚を考える。
原因不明の歯肉出血(血小板数に異常なし)などは気虚と考え、補気剤として補中益気湯を投与する。
④血は気の母である。
イメージとしては、血液細胞に気が乗っかっているというものです。気は血の元帥(指揮者)である同時に血から栄養をもらっているというイメージを持ちます。
具体的な治療的解釈について述べれば、
血虚に対しては補血とともに補気をおこなう (気は血の帥であるから)。瘀血(ユーシュエ)(気滞チージーが原因の時)には、活血フオシュエとともに行気シンチーを行うということになります。
五文字熟語もありますので紹介します。
奪血者無汗とは、
津液も血も水穀から生成され「津血同源」であるために、大量の出血などの場合は津液も失われ無汗となることを意味します。
奪汗者無血とは、
津液も血も水穀から生成され「津血同源」であるために、大量に発汗すると脈内の津液が不足し血脈が空虚になることを意味します。西洋医学的には血液濃縮の状態といえるでしょう。けっして無血となるわけではありません。
まとめると、気は血を①生成②行血③固摂する。④気は血の師、血は気の母

気と津液の関係
1.気は津液を生むことが出来る
2.気は津液をめぐらすことが出来る
3.気は津液を固摂することが出来る
4.津液は気の母でもある
以上のようになります。
具体的解釈を述べれば、
夏はなぜ疲れるか?汗と一緒に気が失われ気虚になるからと説明します。
イメージを述べれば、汗に気が乗っており、汗と一緒に気も失われるイメージです。
下痢による疲労感は津液とともに気が失われ気虚となる。これを、気随津脱(きずいしんだつ チースイジントゥオ)といいます。津は気を載せると考えます。それで、嘔吐と下痢の後は、気を全うすることが出来ないと中医は説きます。
気虚が進めば、血虚、血瘀、出血、水停滞、津泄の全てが起こりえます。
気血生化の源は脾ですから、脾を強化することがすなわち益気という意味になります。使用する生薬は補気薬ということになります。気虚はすなわち瘀血を生みますので、益気健脾と活血化瘀法の必要性が生じます。
やれやれ、面倒くさい話になってきました。また気分転換しましょう。

さて、本論に戻って、
神疲乏力(しんぴぼうりょく)(疲れやすいこと)、面色萎黄(めんしょくいおう)(顔色に華がなく萎えた枯葉色の黄色)、納差腹張(のうさふくちょう)(食欲がなく、腹が張る)、肢涼便溏(しりょうべんとう)(手足が冷えて、軟便)、顕微鏡学的血尿があり、舌質が淡暗、脈が沈細などの証があります。脾気が虚損し、固摂の低下で不摂精となり、不統血になるが故に、蛋白尿や血尿が生じると考えます。運化が失調すれば、清気不足となるために、神疲乏力、面色萎黄、納差腹張、肢涼便溏が生じます。舌質が淡暗、脈が沈細は気虚血瘀の象です。「補中益気湯」加味(黄蓍、人参、白朮、炙甘草、柴胡、升麻、当帰、陳皮、茯苓、川芎、益母草、砂仁)を投与します。黄蓍、人参、白朮、炙甘草、柴胡、升麻、当帰、陳皮は補中益気湯そのものです。人参、茯苓、白朮、炙甘草は四君子湯そのものです。方中、人参(または党参)、黄蓍、白朮、茯苓は健脾益気に、当帰、川芎、益母草は補血活血に、陳皮、砂仁は理気醒脾に作用し、中焦の気机を滑らかに整え、胃のもたれを防止します。柴胡、升麻は甘温の気を上昇させ、甘草は調和諸薬に働きます。肉眼的血尿がある場合には、白茅根、大薊、小薊を加え、湿熱の証があれば、黄柏、石葦を加味し、風邪を引きやすい場合には防風を加味します。玉屏風散(黄蓍、白朮、防風)の組み合わせの「防風」ですね。
前の講座での「銀蒲玄麦甘桔湯」の組成、金銀花、蒲公英、玄参、麦門冬、生甘草、桔梗と全体的に涼寒の性質が強い方剤に比較して、温薬の配合がみられます。
IgA腎炎の病期により、証に即応して治療することの一例が補中益気湯+涼血活血薬の組み合わせでしょう。
続く。

ドクター康仁 記
投票に行ってきました。明日の未明までには次期政権が決定されるでしょう。

すこし本論に戻りますが、

瘀血とは?
体内における血液停滞、離経の血液など経脈と臓腑の阻滞した血の総称をさします。
気滞により血が十分にめぐらず血瘀が生じる。
気不摂血により出血し離経の瘀血が生じる。
気虚によっても血が十分にめぐらず血瘀が生じる。
(血寒によっても瘀血は生じる)
(血熱によっても離経の瘀血を生じる)
実は解説しているとキリが無いのです。
口にチャックして話すことをやめたMonroeを最後にどうぞ。

I've made up my mind not to speak any more tonight.
Marilyn Monroe original woodcut by Dr. Kojin.

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