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慢性腎炎、(特にIgA腎炎)の漢方治療8

2012-12-26 00:15:00 | Marilyn Monroe マリリン モンロー

中医学は経験医学です。長年の経験を積んだ名医を老中医と尊称します。中国伝統医学をtraditional Chinese medicine(TCM)といいます。老中医は内科領域ではveteran TCM physicianと英訳します。それでは、veteran TCM physician Shiの症例報告(医案)を覗いてみましょう。中国のcase reportは治療が無効であった場合のreportは殆ど見られません。ですから、治療が有効であった症例報告という意味でeffective casesとしての医案(case report)です。

時振声教授 医案1

1995年9月17日初診、32歳女性。2ヶ月前に感冒発熱咽頭痛の後に肉眼的血尿が生じ、近医を受診し治療を受け肉眼的な血尿は消失したが、顕微鏡学的血尿が持続し、受診となった。腎生検を施行、経度増殖性IgA腎炎であった。臨床診断は“隠匿性糸球体腎炎(血尿型)”とした。腰膝酸軟、全身乏力、感冒にかかりやすく、咽干喜飲、手心熱、生理は遅れがちで、生理不順があり、生理血に瘀塊があり、大便は乾燥しており、2~3日に一度便通がある。小便は黄、尿意切迫、頻尿、排尿痛は無いが、排尿時に熱感を感じることがある。舌質は暗紅、苔は薄黄、舌の奥はやや?、脈弦細。初診時の尿検査では、尿蛋白(-)尿沈渣400倍率で毎視野白血球0~3、赤血球15~20であった。気陰不足、陰虚内熱、血熱妄行に属する証と判断した。

益気滋腎清利と化瘀止血を治則とした。彼は益気滋腎化瘀清利湯加味:太子参15g女貞子、旱蓮草各10g、生側柏、馬鞭草、益母草各30g、白茅根20g、大、小薊各6gを用いた。服薬2週後には、諸症は軽減し、尿沈渣400倍率で赤血球3~5と改善した。さらに継続して4週服用後で検尿に異常所見がなくなった。原方から大、小薊を去り、継続服用しているが1996年遼寧省中医学誌第二期報に発表するまで再発はない。

評析

本症例は外感風熱による肉眼的血尿時に治療が不十分であったので、病が遷延し、気陰内耗、陰虚内熱、血熱妄行に至った。唐容川は述べる:“離経の血は、新鮮血であれどもまた、瘀血と為す。”故に、時氏は、血尿には虚実を論じない、すでに離経の血が存在し必ず瘀滞を有するからだ。治療時には常に活血化瘀を忘れないようにする、同時に、血を見て止血はよろしくない、炭類の止血固渋薬を大量に使用するのは禁忌であり、効果が無いばかりか、また却って瘀滞が病呈を遷延させると時老中医は説いています。

太子参は益気健脾、補記生津に、女貞子旱蓮草は滋腎養肝に、生側柏は涼血散瘀、袪風利湿、馬鞭草は活血散瘀、利水消腫に、大小薊は涼血止血、散瘀利尿、益母草は活血利水作用するが、“行血は不傷新血(出血させることにはならなく)、養血は瘀血を滞らせることもない”更に、中空で節のある白茅根は、郁熱を透じ、小便の渋りや排尿痛によく効く、また涼血止血に作用する。益気滋腎、活血化瘀、清利湿熱、涼血止血の功能は、“血尿腎炎”の有効良方である。

時振声教授 医案2 腎陰不足 陰虚内熱案

20歳女性、感冒発熱後に肉眼的血尿が出現。某病院で腎生検を受け、IgA腎炎と診断される。ステロイドホルモン、雷公藤治療が無効で、顕微鏡学的血尿、(400倍毎視野で尿沈渣赤血球1030個)尿蛋白定性(+)或いは(-)。疲労が重なり、感冒で咽頭痛が生じると肉眼的血尿が加重し、2~3日続くと、顕微鏡学的血尿になり、病呈は1年以上になっていた。腰酸腰痛、咽干咽痛、口干喜飲、食欲不振、尿は新鮮な肉を洗った時のような赤い色で、大便は乾燥に傾き、舌質暗紅、舌苔薄黄微?、脈は弦細であった。腎陰不足、陰虚内熱、血熱妄行、挟有瘀血、湿熱にて、滋腎化瘀清利湯と銀蒲玄麦甘桔湯の合方を4剤投与したところ病状は好転し、咽干咽痛は軽減した。尿検査にて蛋白(+~-)赤血球(5~8)、滋腎化瘀清利湯を2ヶ月継続投与したところ、如検査で蛋白(-)赤血球(-)となった。治療効能を固めるために、さらに2ヶ月投与を継続した。尿検査は正常に属している。

評析

IgA腎炎では肉眼的血尿あるいは顕微鏡学的血尿があり、同時に手足心熱、口干喜飲、大便偏干、脈象は沈細あるいは弦細、舌質は暗紅苔薄或いは舌質紅無苔などは、中医弁証では腎陰不足或いは肝腎陰虚、瘀血を挟み、湿熱も伴う証に属する。時氏は滋腎化瘀清利湯を以って滋養腎陰を治本とし、清熱利湿と活血化瘀を治標として、臨床治療効果を高めている。

時氏滋腎化瘀清利湯女貞子10旱蓮草10白花蛇舌草15生側柏15馬鞭草15大小薊30益母草30白茅根30石葦30

銀蒲玄麦甘桔湯:銀花15蒲公英15玄参10麦門冬15生甘草6g桔梗6g薄荷6g(後下)

温薬が一つも見当たらないのが本日の焦点の一つと感じてください。治本や治標という用語に拘らなくてもいいのではないかと私は思います。

次回も時振声教授の医案をご紹介します。

続く

ドクター康仁 記

Peaceful_green_reflection

画竜点睛を欠くといいますね。最後に決め損なったことを表現する四文字熟語の表現の一つですが、私は、昔とは違って、最初に眼を書き入れます。木版画というのは、切り損なったら終わりの世界ですから、最初に眼から彫り始めます。もし、点睛を欠けばそれ以上は彫り進めません。


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1 コメント

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とても分かりやすい解説です。 (Unknown)
2012-12-28 00:55:23
とても分かりやすい解説です。
感謝します。
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