かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

渡辺松男の一首鑑賞 2の112

2018年09月29日 | 短歌一首鑑賞
  渡辺松男研究2の15(2018年9月実施)
    【〈ぼく〉】『泡宇宙の蛙』(1999年)P75~
     参加者:泉真帆、岡東和子、A・K、T・S、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
      レポーター:渡部慧子   司会と記録:鹿取未放


112 ミリにはミリのしあわせがあるとパパは泣くヤマトクモスケダニの結婚

 (レポート)
 ヤマトクモスケダニが結婚をしていてそのパパと子の会話であろう。「ミリにはミリのしあわせがあるとパパは泣く」とはミリ単位でとらえるほどの自分たち(ヤマトクモスケダニ)だが、身のほどの幸せがあるのだと子に告げながら泣くという場面。この「泣く」を仮に「言う」と変えるなら一首に味わいがなくなる。では、逆説表現なのか。そうとも言ってしまえないなにか、生命の摂理のようなものを含んでいるのではないか。「泣く」が微妙で一首を支えていよう。(慧子)


            (当日意見)
★ヤマトクモスケダニは辞書に無かったのでヤマトマダニで説明をします。「吸血性のダニ。メス
 は吸血しないとき3ミリほど、吸血すると8ミリくらいになる。オスは3ミリ以下で吸血しない。
 日本全国に分布する普通のダニ」(日本大百科全書より要約)(鹿取)
★人間のパパと子どもがいて、お父さんがダニを見てミリにはミリの幸せがあるんだよと言ってい
 るのかと思いましたが、ダニのお父さんがダニの子どもに言っているんですね。結婚って生殖の
 ことでしょうか?(真帆)
★生殖とは違うような。吸血するお母さんは吸血しないお父さんより強いんじゃないですか。だか
 らパパが泣く。(鹿取)
★お父さんが息子に向かってよよと泣いているんですね。これを人間に置き換えてどうこう言うと
 臭くなるので、あんまり深く考えないでいいんじゃないかな。ミリの小さな虫がこんな事を言っ
 て泣いている楽しさ。(A・K)
★以前にも何度か紹介しましたが、松男さんの評論で「ダニが堪えていたら人は笑うだろう」って
 あって、あれの実践版。でも、とっても愉快な歌。(鹿取)


          (後日意見)
 ダニは全世界で約二万種とも言われているそうだ。研究会当日説明した「ヤマトマダニ」と「ヤマトクモスケダニ」は相当違うものらしい。「ヤマト」はつかないのだがダニの分類の中にササラダニ亜目クモスケダニ科というのがあった。Wikipediaの説明によると、ササラダニ亜目は吸血はしない。森林などの土壌中に多くいて腐植を餌にしているが、菌類食のものもいる。どちらかといえば人間に益がありそうだが、松男さんの歌はそこで差別はしないのだろう。ただ、吸血するダニのメスとその夫という図と、夫婦とも吸血はしないで腐った草などを食べているダニの図では「パパは泣く」の鑑賞が微妙に違ってきそうだ。「菌類食のものもある」ところから4首後の「冬虫夏草」の歌に繋がっていくのかもしれない。(鹿取)