かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

馬場あき子の外国詠109(スペイン)

2015年11月30日 | 短歌一首鑑賞
 馬場あき子の外国詠12(2008年10月)
  【西班牙3オリーブ】『青い夜のことば』(1999年刊)P64
   参加者:F・I、N・I、T・K、崎尾廣子、T・S、藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:N・I
  まとめ:鹿取未放


109 青黴のチーズ冷えゐる西班牙の食卓に葡萄の季節近づく

     (まとめ)
 青黴のチーズは独特の強い香りを持ち、濃厚でやや塩味が効いたものが多いらしい。食べ方はクラッカーに乗せたり、スープに入れたり、サラダにしたりといろいろであるが、果物と組み合わせて食べるのも一つの方法らしい。ここはおいしく冷えたチーズが出された夏の食卓、共に食べる葡萄の収穫が待たれている。季節感がうまく詠み込まれていて豊かな気分の歌だ。(鹿取)


    (レポート)
 匂いのきつい味の濃いチーズは通人の好むところ、おいしいワインと共に秋の稔りの豊かさを葡萄であらわしているのでしょう。(N・I)


馬場あき子の外国詠108(スペイン)

2015年11月29日 | 短歌一首鑑賞
 馬場あき子の外国詠12(2008年10月)
   【西班牙3オリーブ】『青い夜のことば』(1999年刊)P64
   参加者:F・I、N・I、T・K、崎尾廣子、T・S、藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:N・I
   まとめ:鹿取未放


108 ギロチンのやうな包丁に肉切るはわが未来記の中なる女

      (まとめ)
 ギロチンの刃物は時代によっても違うのだろうが、写真などで見ると人間の幅ほどもありそうな大きさだ。街角で見た光景か、日頃作者が使っている包丁とは格段に大きな包丁を使って、おそらく塊の肉を切っている逞しいスペインの女性、そんなイメージが浮かぶ。上の句の原初的なイメージが、私の中では「未来記」と結びつきにくい。(鹿取)


    (レポート)
 処刑に使うような刃物で家庭料理にいそしむ女、男性優位の社会において少しずつ自立していく逞しい女性像を「かりん」の女性達にも重ね合わせているのかもしれません。(N・I)

馬場あき子の外国詠107(スペイン)

2015年11月28日 | 短歌一首鑑賞
 馬場あき子の外国詠12(2008年10月)
  【西班牙3オリーブ】『青い夜のことば』(1999年刊)P63
   参加者:F・I、N・I、T・K、崎尾廣子、T・S、藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:N・I
  まとめ:鹿取未放


107 大聖堂ほのかに見えて犇きて人々地獄小路に住めり

     (まとめ)
 これもトレドであろうか。地獄小路という名称はネットで検索しても出てこないので、ごみごみした下町の狭い通りを作者がそう呼んでみたのだろう。トレドの大聖堂は250年もかけて完成したそうだが、小路の向こうには壮大な大聖堂の一部が見えているという。小さい家家がぎっしり並んだ小路には大勢の人々が行き来している。地獄小路と呼びながらそこを蔑しているのではない。大聖堂と貧しい人々のギャップはギャップとして、ひしめきあって生きている土地の人々の逞しさに感動し、面白がっているのではなかろうか。(鹿取)


    (レポート)
 スペインの青空とのギャップ、種々の民族を抱えているスペインの特徴がよく表れていると思います。聖と俗、富と貧、醜と美、古びた小路から見えた大聖堂の対比にドラマを感じます。(N・I)

        

馬場あき子の外国詠106(スペイン)改訂版

2015年11月27日 | 短歌一首鑑賞
 馬場あき子の外国詠12(2008年10月)
  【西班牙3オリーブ】『青い夜のことば』(1999年刊)P63
   参加者:F・I、N・I、T・K、崎尾廣子、T・S、藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:N・I
  まとめ:鹿取未放


106 オリーブを納めたる壺埴(はに)の壺ふくらの腹のにじみくるはや

     (まとめ)
 昼食をとっているテーブルから埴の壺が見えるのであろうか。あるいは食後に壺をおさめた倉庫などを案内してもらったのかもしれない。素朴な埴の壺の腹の部分はふっくらと形づくられていて、オリーブからしみ出した油分が滲んでくるという。腹と形容したことでユーモアがかもしだされた。また「納めたる壺」「埴の壺」と畳みかけたリズムが楽しく、「埴」「腹」「はや」とハ音の頭韻が囃し詞ことばのような効果を生んでいる。結句の「はや」は、終助詞「は」プラス間投助詞「や」で、感動や詠嘆を表す。(鹿取)


     (レポート)
 焼きをしない粘土でできた壺にはすぐにオリーブ油がしみだしてくるのでしょう。今で言うメタボのお腹のような壺には人間の悲喜劇をも見たのでしょうか。(N・I)

馬場あき子の外国詠105(スペイン)改訂版

2015年11月26日 | 短歌一首鑑賞
 馬場あき子の外国詠12(2008年10月)
   【西班牙3オリーブ】『青い夜のことば』(1999年刊)P63
   参加者:F・I、N・I、T・K、崎尾廣子、T・S、藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:N・I
  まとめ:鹿取未放


105 燕だらけのトレドの小路昼深く青きオリーブに塩は凝れり

     (まとめ)
 昼深いというから土地の人々はシェスタの最中なのかも知れない。そんな静まりかえったトレドの狭い小路を多くの燕が我が物顔に飛び交っている風景。レストランにいて窓外の燕が飛び交う様を眺めている場面であろうか。皿には青い新鮮なオリーブが乗せられて塩がたっぷりかけられている。(鹿取)


    (レポート)
 トレドはキリスト教、イスラム教、ユダヤ教の三つの文化が混在する旧都。燕だらけという描写により昼なお暗い路地に燕のフンの白さが目立つ。また新鮮な青オリーブを食用にするため塩でまぶされている。塩の白さも清潔ではないと読者に連想されるのではないでしょうか。複雑感を出していると思います。(N・I)


馬場あき子の外国詠104(スペイン)

2015年11月25日 | 短歌一首鑑賞
 馬場あき子の外国詠12(2008年10月)
  【西班牙3オリーブ】『青い夜のことば』(1999年刊)P62
  参加者:F・I、N・I、T・K、崎尾廣子、T・S、藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:N・I
  まとめ:鹿取未放


104 文久三年日本にオリーブ伝はりき日本は生麦事件の賠償しをり

      (まとめ)
 生麦事件が起こったのは、幕末の文久2(1862)年で、生麦事件はレポーターが書いているとおりだが、4人のうち1人がその場で藩士に斬り殺されている。イギリスは幕府に謝罪と賠償金を請求、紆余曲折の末、翌文久3年5月賠償金10万ポンドを支払った。しかし別途犯人の処罰と賠償金を要求された薩摩藩はこれに応じず、同文久3年7月薩英戦争が起こった。薩英両方に被害が大きく、10月講和、薩摩藩は2万5000ポンドをイギリス側に支払った。この事件は尊王攘夷運動のさなかの出来事だったが、それから6年後の1868年、幕藩体制は終焉をむかえた。
 そんな世相騒がしい時代に日本にオリーブが伝わったのだという。外国の文物が押し寄せた一環だったのだろう。オリーブの可憐さと事件の生々しさがコントラストをなしているが、オリーブの枝は平和の象徴とまでは歌の背景として作者は意味を込めていないであろう。オリーブの可憐さに寄り添う気分を大切にしたい。(鹿取)


    (レポート)
 文久3年にオリーブの種は持ち込まれたのでしょうか。前年には薩摩の大名行列を乱したかどでイギリス人4名のうち一人が刺殺された。日本はポンドで賠償したという歴史が下敷きにあるのでしょうか。この歌集は西洋の歴史、日本の歴史を風化させないように三十一文字で詠まれているのです。短歌の力です。(N・I)


馬場あき子の外国詠103(スペイン)

2015年11月24日 | 短歌一首鑑賞
 馬場あき子の外国詠12(2008年10月)
    【西班牙3オリーブ】『青い夜のことば』(1999年刊)P62
     参加者:F・I、N・I、T・K、崎尾廣子、T・S、藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:N・I
    まとめ:鹿取未放


103 大聖堂に一生かけて手彫りせし黒きオリーブのやうなる男ら

     (まとめ)
 大聖堂だけなのでどこのものか分からないが、ここは特定しなくてよいのだろう。大聖堂にはオリーブの彫刻がされており、細やかさと数の多さから何人もの職人の男性が一生かけてやっと彫りあげるほどの圧倒的なものなのであろう。そういう職人気質を讃えている歌であろう。黒きオリーブに浅黒くたくましい男たちを重ねている詠みぶりが面白い。(鹿取)


    (レポート)
 イスラム時代に建てられたモスクを取り壊し1世紀掛けて建てられたカテドラル大聖堂は、ヴァチカンのサン・ピエトロ大聖堂、ロンドンのセント・ポール大聖堂に次いで3番目。キリストとマリアの生涯が36の場面からなっている。その仕事をした男達を讃えているのでしょうか。スペインでは不滅のシンボルである神話のオリーブの木である。(N・I)

                             
     (発言)
★レポーターが書いている「カテドラル大聖堂」だが、「カテドラル」が「大聖堂」という意味な
 ので名称がおかしい。「セビリア大聖堂」というのがあって大きさにおいてサン・ピエトロ大聖
 堂、セント・ポール大聖堂に次ぐ世界第3位だそうなので、レポーターの書いているのは「セビ
 リア大聖堂」のことだと思います。大聖堂は他にトレドにも有名なものがあるそうです。特定し
 なくてもいいと思うんですけど、どちらにも繊細・壮大な彫刻があるようです。(鹿取)


馬場あき子の外国詠101(スペイン)

2015年11月23日 | 短歌一首鑑賞
 馬場あき子の外国詠12(2008年10月)
   【西班牙3オリーブ】『青い夜のことば』(1999年刊)P61
   参加者:F・I、N・I、T・K、崎尾廣子、T・S、藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:N・I
   まとめ:鹿取未放


101 生きる智恵や努力はさびし整然とオリーブ植ゑて乾ききりたり

       (まとめ)
 オリーブの山々を震動させて機械で実を落とすダイナミックな前歌から一転する。実を棹で落とす次の歌からするとこれは小規模な農園を詠んでいるのだろうか。生きるために人々はオリーブを植える。持てる智恵を全て傾けて、整然とオリーブは植えられている。しかし努力もかいなく厳しい風土に土地は乾ききっているのだ。「生きる智恵や努力はさびし」と風土に生きる人々の厳しい生活状況を捉えながら、「さびし」に作者のやさしいまなざしがある。(鹿取)


     (レポート)
 広大な荒野に整然とあるオリーブ畑には智恵とか努力以前の、人間の原点の逞しさ、土俗性を見たのだと思います。(N・I)

                             

馬場あき子の外国詠101(スペイン)

2015年11月22日 | 短歌一首鑑賞
馬場あき子の外国詠12(2008年10月)【西班牙3オリーブ】『青い夜のことば』(1999年刊)P61
   参加者:F・I、N・I、T・K、崎尾廣子、T・S、藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:N・I
   まとめ:鹿取未放


101 生きる智恵や努力はさびし整然とオリーブ植ゑて乾ききりたり

       (まとめ)
 オリーブの山々を震動させて機械で実を落とすダイナミックな前歌から一転する。実を棹で落とす次の歌からするとこれは小規模な農園を詠んでいるのだろうか。生きるために人々はオリーブを植える。持てる智恵を全て傾けて、整然とオリーブは植えられている。しかし努力もかいなく厳しい風土に土地は乾ききっているのだ。「生きる智恵や努力はさびし」と風土に生きる人々の厳しい生活状況を捉えながら、「さびし」に作者のやさしいまなざしがある。(鹿取)


      (レポート)
 広大な荒野に整然とあるオリーブ畑には智恵とか努力以前の、人間の原点の逞しさ、土俗性を見たのだと思います。
       (N・I)
                             

馬場あき子の外国詠100(スペイン)

2015年11月21日 | 短歌一首鑑賞
 馬場あき子の外国詠11(2008年9月)【西班牙3オリーブ】『青い夜のことば』(1999年刊)P61
   参加者:F・I、N・I、T・K、N・S、崎尾廣子、T・S、藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:渡部慧子
   まとめ:鹿取未放


100 震動幾山河震動させにつつオリーブの実を落す西班牙

     (レポート)
 (国敗れて山河あり)とは中国の詩人杜甫の山河だ。戦いの後雄大な山河は昔ながら残っていたという内容。さて掲出歌「震動幾山河震動」の「西班牙」の山河。思えばアルタミラ洞窟壁画に始まり聖書にタルシンと記述されているタルテソス王国の存在、諸民族の侵入と攻防、又一時ローマ帝国の版図になり、皇帝を輩出、それに伴うキリスト教、イスラム教の変遷、またコロンブスの新大陸の発見、それに始まる(日の没することのない帝国)と言われた繁栄と凋落、独裁政権から民主国家への移行など。ここでは簡単にしかたどれないが、その変遷のいかなる時も「オリーブ」はみのり「オリーブの実を落す西班牙」であった。このスペインの時空の象徴として「オリーブ」は動かない。
 オリーブの収穫時の轟きを「震動」と詠い「震動幾山河震動させにつつ」と初句から3句までの破調と重複にスペインの激動とそれへの作者の深い感慨がこめられていよう。特に「震動」4音を初句に据える大胆さが一首によく働きながら「つつ」で下の句へ繋がり「オリーブの実を落す西班牙」と作者の感動は一首を分けられない。その上の句の破調から下の句へのおだやかな調べへのうつりもなべてを肯定している作者の心のようである。西班牙の魅力的な歴史と山河、そこへ象徴として響きのあまやかなオリーブを配し、すべてを一挙につかんでスケールの大きい一首に仕上げた手法に感服する。(慧子)


       (当日発言)
★機械でオリーブを落としている音(藤本)
★米や小麦ではなく副食でもっている国。スペインという国を詠っている。(崎尾)
                             

        (まとめ)
 韻律が非常にいかつく、漢字も厳ついが、ダイナミックな印象を与える為の計算上のことである。スペイン中が轟きながら揺れているような時空の広がりを感じさせ爽快である。私の見たテレビ番組では手作業でオリーブの実を落としていたが、大規模の農園では機械を使うのだろう。(鹿取)