かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

ブログ版 渡辺松男の一首鑑賞 2の95

2018年09月02日 | 短歌一首鑑賞
  渡辺松男研究2の13(2018年7月実施)
    【すこし哲学】『泡宇宙の蛙』(1999年)P65~
     参加者:K・O、A・K、T・S、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:渡部慧子 司会と記録:鹿取未放


95 乱視われ三十個ほどの月の下三十個ほどの配偶者といる

      (レポート)
 乱視の作者は三十個ほどの月を見て、その下にいる。誇張された数かもしれないが地球に一つの筈の衛生が三十個になっているなら作者に一人のはずの配偶者も三十個ほど存在するということになる。三十人としていないのは歌の調べのためでもあろうし、配偶者との関係の良さがにじんでいるのだろう。ユーモラスだ。そしてまた、配偶者のさまざまを知る作者は三十個ぐらい簡単にその性質、傾向を数えられるのだろう。(慧子)


           (当日意見)
★私も乱視があるのでこの感覚はよく分かる。三十個には見えないけれど5.6個ならそんな感じ
 がある。だから現実から発想したかもしれないけれど。なぜ三十個かというと1ヶ月の月の満ち
 欠けの暗示。だから1ヶ月分の配偶者。しかも乱視だから見えているのは虚像。いろんな暗喩が
 入っているのだろう。「ほど」があるから。現実的な発想なんだけど、宇宙観のようなものが出
 ている。世界に対してのメタファーがあるような。でも、普通は暗喩をかける時って読者も構え
 たりするんだけど、それを感じさせないところが却ってテクニカルだなって。作者の身体時間の
 ようなものが宇宙に直結しているのかもしれない。(K・O)
★テクニカルな暗喩って、何を暗喩しているんですか?それを知りたい。(A・K)
★世界に対する喩です。こういう世界に住んでいるんだという。喩がまずいなら世界に対するイメ
 ージですね。テクニカルって言ったけど作者は自然にやっていらっしゃるのかもしれない。
   (K・O)
★松男さんの歌、平行宇宙だとかいろんな世界が複雑に絡みあっていて、何次元かわからないよう
 な世界像なんですが。K・Oさんが最初におっしゃった1ヶ月の月の満ち欠けが三十個ほどの月
 に暗示されているって、重層的でそれだけで美しいし楽しい。魅力的に見える。自分だったら一
 生分かかって作る歌の全部がこの一首に凝縮されているようで、もうみんな言われてしまったよ
 うな気がする。(鹿取)