【からーん】『寒気氾濫』(1997年)32頁
参加者:崎尾廣子、鈴木良明、曽我亮子、高村典子、渡部慧子、鹿取未放
司会と記録:鹿取 未放
72 閉じられし屈葬の甕のなかに覚め叫ぶときエゴン・シーレなるなり
(記録)2013年9月
★私けっこうエゴン・シーレが好きです。かなり強烈な絵ですけど。(曽我)
★では、曽我さん、この歌についてはどう思われますか?(鹿取)
★叫びをあげるような感じの絵ですよね。渡辺さんの歌は、自分も甕の中で目覚めたらシーレの
ように叫ぶんじゃないかという歌なのでは?(曽我)
★私はこの歌は渡辺さん自身の心象と思って読みました。そういうふうに読むとすごく納得する。
(高村)
★誰でもこういう状況に置かれて覚めたらびっくりしてってことだと思うけど。(鈴木)
(レポート)2013年9月
手足を折り曲げて埋葬されている「甕のなか」で「覚め」た自身を想像し「叫ぶとき」なのであろう。エゴン・シーレはインフルエンザに罹り28歳で没している。やはりインフルエンザに罹り死亡した妻の3日後のことである。このような状態のなかでも自身の叫びでエゴン・シーレの無念の叫びを代弁しているように思う。エゴン・シーレの画集を開けたい思いにかられる歌である。
エゴン・シーレ(Egon Schiele、1890年~ 1918年)
オーストリアの画家。当時盛んであったグスタフ・クリムトらのウィーン分離派を初めとして象徴派、表現主義に影響を受けつつも、独自の絵画を追求した。強烈な個性を持つ画風に加え、意図的に捻じ曲げられたポーズの人物画を多数製作し、見る者に直感的な衝撃を与えるという作風から表現主義の分野に置いて論じられる場合が多い。
インターネット ウィキペディア
(崎尾)
(追記)2013年9月
エゴン・シーレは、ごつごつしていて斑点があるような、普通には美しいと言えない人体を描いています。レポーターの引用にあるように「意図的に捻じ曲げられたポーズの人物画を多数製作」しています。また、ウィキペディアの引用外の部分には「死や性行為など倫理的に避けられるテーマをむしろ強調するような作品」を描いたとも記述されています。
画集を繰っても「屈葬の甕のなかに覚め叫ぶ」絵は見あたりませんでした。作者は、シーレの「意図的に捻じ曲げられたポーズの人物画」から「屈葬の甕」の中の〈われ〉を着想したのかもしれません。甕の中で目覚めた〈われ〉は恐怖のあまり叫ぶ訳ですが、(レポーターも書いているように)それは28歳という若さで病死したシーレ自身の口惜しさでもあるのでしょう。(鹿取)