かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

渡辺松男の一首鑑賞 307

2016年04月28日 | 短歌一首鑑賞

 渡辺松男研究37(16年4月)
    【垂直の金】『寒気氾濫』(1997年)126頁
     参加者:石井彩子、泉真帆、M・S、鈴木良明、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:泉 真帆
     司会と記録:鹿取 未放

307 わずかなる隙間が壁と本棚のあいだにありてうつしよ寒し

      (レポート)
(解釈)壁と本棚はぴたりとは付いておらず、間にかすかな隙間があるのを見つけた。見ていると、現実のこの世が思われ、つくづくと寒ざむしい心地になった。
(鑑賞)「壁と本棚のあいだ」に象徴されるものを考えた。壁というと、村上春樹がエルサレム賞を受賞したときの式典スピーチで言った、「高くて硬い壁と、壁にぶつかって割れてしまう卵があるときには、私は常に卵の側に立つ」を思う。これは2008年のことだから松男さんの歌の方が先だが、そんな「壁」が、社会での自分に立ちはだかるもののように捉えられ、「本棚」は自分の文学と捉えられ、仕事と短歌などの文芸の活動のなかに、それは一体化はされていなくて、どうしても隙間がある。二つは磁石の+と-のように、くっつこうとしてもくっつかない。それが本当に寒ざむしいことだなあ、と思っている歌だと鑑賞した。(真帆)


      (当日発言)
★家具を壁面に置く時、少し隙間を空けるんですよね。ものが倒れないために。その隙間を「うつしよ寒し」と持ってきた、その
 飛び方の感覚が素晴らしいと思います。(慧子)
★「うつしよ寒し」はいろいろ想像させますよね。本だから知恵とか人間の営みとかが文字と して書かれている。それと壁は何
 を象徴しているのか、現実でしょうか?その間に隙間があ って、やはり現実は寒々としている。(石井)
★真帆さんが葛藤とかそんなものを詠み込まれたと鑑賞されましたが、それもいいなあと思いまし た。(慧子)
★生活と形而上学的なギャップを詠んでいる。(鈴木)
★ちょっとした隙間からこういう歌にされるところが凄い。(石井)
★いろんな読み方がありますが、私はわりとそのまま取りました。つまり壁と本が何かの象徴とは とらない読み方です。でも、
 「うつしよ寒し」のところで形而上的な思考になる。そこは皆さ んと同じです。(鹿取)