かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

渡辺松男の一首鑑賞 296

2016年04月17日 | 短歌一首鑑賞

 渡辺松男研究36(16年3月)
    【ポケットベル】『寒気氾濫』(1997年)122頁
     参加者:石井彩子、泉真帆、M・S、鈴木良明、曽我亮子、船水映子、渡部慧子
     レポーター:鈴木 良明
     司会と記録:泉 真帆

296 酔い痴れてわれらスナック去りしあとタガログ語にて罵倒されいん

       (レポート)
前首のような残業が続いたある日、職場の同僚たちと、フィリピン人が働くスナックにでも立ち寄ったのだろう。酔い痴れて日ごろの不満やうっぷんを吐くうちに座が荒れてくる。たどたどしい日本語しか話せないフィリピン人のホステスは座をうまくとりもつことができずに、店の雰囲気を壊した客のわれらを帰してしまったことで、今頃店長からタガログ語で罵倒されているだろうと、作者は帰路、回想している。(鈴木)


            (当日発言)
★タガログ語を話すホステス達が、酔い痴れて帰った客を罵倒していると読みました。(慧子)
★そう思います。(M・S)(船水)(石井)
★「いん」って推量ですよね。(船水)
★私もそう取りました。おそらく酔い痴れてなにか上司の悪口言ったり、好き勝手なことをしたんですね。
 でもフィリピン人のこのホステスは、うまく取り繕い、うまく対応した。その鬱憤を「われら」が帰っ
 た後に、母国語であるタガログ語で、ホステス同士、あの客は変だったね、おかしかったね、嫌だった
 ねと、罵倒してると想像したんですけれど。(石井)
★「罵倒されいん」という言葉が強いものだから、いないところで人を罵倒するってあるだろうか、とい
 う感じも強かった。酔い痴れてそこで不満ばかりならべて、結局酒はたいして飲まないで帰っちゃった
 ので、店長から「この責任誰が取るんだ」とそこに残された人(ホステスさん)たちが罵倒されたのか
 と。慧子さんが読まれるように、そこに登場してない人を出しちゃいけないかもしれない。いろんな体
 験を思い出すと、どれに納めていいいかということもある。(鈴木)
★リアルな現場ですね(石井)


       (後日意見)
 おそらくホステス達は酔い痴れた客の馬鹿らしい言動に耐えてうまく取りなしたのだろう。しかし客が帰った途端なんという酷い奴らだと口々に罵倒している。そんな様子を客であった〈われ〉が想像している。〈われ〉にはそれだけ酔い痴れた自覚や後ろめたさがあるのだろう。(鹿取)