かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

渡辺松男の一首鑑賞 291

2016年04月12日 | 短歌一首鑑賞

 渡辺松男研究36(16年3月)
    【ポケットベル】『寒気氾濫』(1997年)121頁
     参加者:石井彩子、泉真帆、M・S、鈴木良明、曽我亮子、船水映子、渡部慧子
     レポーター:鈴木 良明
     司会と記録:泉 真帆


291 精神は肉体よりもごつごつと函館の夜を市電にゆらる

           (レポート)
 仕事で函館に出張したときの景だろう。好景気の頃なら楽しい筈の函館出張も、たぶん明日にでも報告書をまとめなければならないような重い課題を抱えての出張では、ぎすぎすしたこころにならざるを得ない。ぐったりと疲れ切った肉体よりも精神の方が「ごつごつ」とリアルに感じられるのである。(鈴木)


           (当日発言)
★よっぽど難しい心情だったんじゃあないか、って思うんですね。肉体よりも精神の方が、ってい
 うのが「ごつごつと」と表現されていてリアルな感じですね。(曽我)
★精神というのは形がない、肉体というのは形がある、そいういうものを比較されるのはやはり松
 男さんらしいなと思って読みました。疲れきった肉体ですねえ、それよりもリアルに精神の方が
 感じられると、そいうことをレポーターは書いてらっしゃるんですけれどもその通りだなあと思
 いました。「ごつごつ」というのが何かちょっと不器用な、例えば市電に揺られているあの、ゴ
 ットンゴットンとした音の響きとかも関連しているのかなあとも思いました。作者はぐったり疲
 れている肉体よりも精神の方に重きを置いてらしゃる、そいういう情景も分ります。(石井)
★私もこの「ごつごつ」の表現が見事だと思います。「イライラ」とか「キリキリ」、とかそうい
 うのではなくこの「ごつごつ」が実に上手に表わしているなあと思います。(M・S)
★普通だとこ〜「疲れた」とか「胃が痛む」とかね、そういう言い方しちゃいますけど、そういうと
 ころ超えちゃってるんですよね。「ごつごつ」ってもう物みたいになっちゃってる無感動な状態っ
 ていうか、そういうのを「ごつごつ」っていう言葉で。上手いなあ〜と思いますね。普通だと感情
 の世界で納めようとする訳ですよ、だけど感情を超えちゃってる、そこがやはり普遍的な感じがす
 るんですよね、この歌。(鈴木)