かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

渡辺松男の一首鑑賞 290

2016年04月11日 | 短歌一首鑑賞

 渡辺松男研究36(16年3月)
    【ポケットベル】『寒気氾濫』(1997年)120頁
     参加者:石井彩子、泉真帆、M・S、鈴木良明、曽我亮子、船水映子、渡部慧子
     レポーター:鈴木 良明
     司会と記録:泉 真帆

     
290 ポケットベルに拘束さるるわれの目に鬱々として巨大春月

           (レポート)
 ポケットベルを配られる職場は、オフの日や休憩時間帯にも緊急の対応が迫られるセクション。九〇年代頃からこのような緊急連絡手段は必要な職場から徐々に広がり、今なら携帯やスマホでの対応が一般化している。本歌では、四月の人事異動で、当時にしては数少ないこのような職場に異動したのであろうか。常にポケベル(他人)に拘束されてオフの日にも気を抜けない作者の目には、おぼろ月夜も鬱陶しい「巨大春月」に映るのだ。(鈴木)


           (当日意見)
★朧月夜って、本当は人の心をなごませるような、ぼわ〜んとした感じのものなのに、怪物的な大
 きなものというか、襲われるようなそんな怖れのようなものを感じるほど巨大に見える、という
 ように私は受け止めました。(M・S)
★面白いなーと思って。きっと人間っていろんなキャラクターがあるんでしょうね。仕事をしてい
 る人の厳しさみたいな、かなりカルチャーショックを受けて読みました。(船水)
★おそらく、夕方っていうのはお仕事を引けて、普通なら寛ぐ、家に帰って、そいういう時間帯な
 んですね。本来ならその時間帯に見るお月様は、なぐさめであったり、情緒が豊かになるような
 ものであったりするんですけれども、なんかそんなふうには見えない。やはり鬱々としてしまう、
 巨大春月そいう表現でされていますね、そういうところが上手いなと思いました。(石井)
★私が前やったときの巨大な茶碗だったかな。(慧子)
★あー、渡辺巳作氏の巨大茶碗ですかね。(鈴木)
 「商工会会長渡辺巳作氏が巨大茶碗で茶を飲む朝」      
★ちょっと好きな言葉でしょうかねエ「巨大」っていうのは。(石井)
★自分以外を巨大なものとされているんでしょうかねえ。(慧子)
★異質なものを巨大と捉えているんでしょうね。(石井)
★自分を脅かすものとか。(船水)
★自分の自由を奪うものというか、拘束するというか。泉さんなんかどうなんですか?若いひとは
 こういう環境にないんですか今は。(鈴木)
★常に付け回されている、拘束されているような感じはありますけれど。(真帆)
★これ時代なんですよね。あのころはもうポケベルしかなかったんですよ。その前は何もなかった
 ですね。(一同笑)だから安心していられたん  す よ。ところがポケベルとか配られちゃうと、
 出勤しなくちゃいけない訳でしょう。今はもうこういうのは日常化してしまっているので、若い人
 は当たり前と思っているかもしれないけど、私達のころからなんか比べると、やってられないって
 感じですよね。それで残業は日常化していますから。役所でさえこうなって来たって、私も一応公
 務員だから同じ立場なんで良く分るんですよ。病んでしまいますよ。だからもういま本当に病気に
 なる方も多いと思います。一億総活躍社会なんてカッコイイこと言ってますけど、ほんと、あんな
 言葉を言うこと自体ね…。(鈴木)
★ポケベルを配られる職場には二通りあって、上司が自分では対応できないからやるというのと、そ
 れから職場自体がね、例えば病院とかそういう緊急を要する場所とかね、二通りあるんですよ。お
 そらくこの場合はね、前の方じゃないかと言う感じがしますよね。後の方に出て来ますけれど、そ
 の上司とかの様子は。だからその余計、「巨大春月」というのは、上司のね、もやもやとしたね、
 鬱陶しい影かもしれないんですよ。(鈴木)