かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

馬場あき子の外国詠283(トルコ)

2016年04月03日 | 短歌一首鑑賞
 馬場あき子の外国詠37(2011年3月)
    【遊光】『飛種』(1996年刊)P124
     参加者:N・I、井上久美子、崎尾廣子、鈴木良明、曽我亮子、藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:曽我 亮子
     司会とまとめ:鹿取 未放

283 忘れてしまつた歴史は思ひ出さずともぼすぽらす海峡ゆくトルコ晴れ

     (まとめ)
 アジアとヨーロッパの接点にあるトルコの地は、両大陸の権力者が覇を競った舞台であった。まず紀元前1700年ころ、ヒッタイト人が帝国を築いた。しかし紀元前1200年頃にはトロイ戦争に破れ、この帝国は滅びた。その後は、フリギア王国、リディア王国、ヘレニズム、ローマ帝国、ビザンツ帝国、セルジューク朝、オスマン帝国と変転して1923年現在のトルコ共和国が誕生した。
 それら気の遠くなるような歴史の時間の一端が思いをかすめているのだろう。「思ひ出さずとも」の後に「よし」が省略されている形。こう言ってしまったからには当然トルコの歴史の様々を思い出しているのだが、興亡の哀しい歴史はしばし忘れてトルコ晴れの海峡クルーズに身をゆだねていようというのだろう。既に鑑賞した「歴史の時間忘れたやうな顔をしてモスクワ空港にロシアみてゐる」(スペイン旅行途上の歌)も同じような作りになっている。ただ、ロシアの場合は(トランジットなのでほんの短い滞在だが)古い歴史と共に目の前のロシアを興味津々の眼で見ていた。このトルコの歌ではもっとゆったりと風景に身をゆだねている感じだ。「ばすぽらす」のひらがな表記も281番歌の「柳が散つて」と同じような放埒さを許す開放的な気分を出している。(鹿取)
 

        (レポート)
 紀元前2000年(ヒッタイト)よりのあまりにも遠い歴史はさておきぼすぽらす海峡の美しく雄大な眺めを楽しむべし。空も海もあくまでも青く明るいトルコ晴れの一日なのだから。と作者は絶賛されています。ほんとうに誰もがそう思うことでしょう。海峡の両岸を見ながら遊覧船がゆき、沿岸の緑の中に点在する宮殿や要塞、吊り橋等を遠望する。また、両岸で異なる建築様式の対比等々、興味の尽きないぼすぽらす海峡なのです。(曽我)


     (当日意見)
★「思ひ出さずとも」と言っているが、むしろ思いながらみている。(崎尾)
★高尾太夫の「忘れずこそ思ひ出さず候」も思い合わされる。(藤本)
★まあ、高尾太夫ほど切実に思い詰めている訳ではないから……通過するだけの旅行者だから、自
 分はよそ者であるという自覚も働いていると思います。(鹿取)