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縄文に連なる母なる大地

2014年09月13日 | 母性社会日本
このブログは、日本文化のユニークさ8項目のテーマを中心にして、いろいろな側面から考えている。ここ数週間、8項目のうち一番目、と二番目、

(1)漁撈・狩猟・採集を基本とした縄文文化の記憶が、現代に至るまで消滅せず日本人の心や文化の基層として生き続けている。
(2)文化を父性的な性格の強い文化と母性的な性格の強い文化とに分けるなら、日本は縄文時代から現代にいたるまでほぼ母性原理が優位にたつ社会と文化を存続させてきた。

というテーマを多方面から考えるためにいくつかの本を読んでいる。それぞれについて詳しく触れる機会もあるかも知れぬが、ここではとりあえずそれぞれの本がどのような形でこの問題へのヒントを与えてくれるか、かんたんに紹介しておきたい。

★『月と蛇と縄文人―シンボリズムとレトリックで読み解く神話的世界観
今年刊行された新鮮な論考。著者・大島直行氏は考古学者であるが、物質的・技術的研究しかしない従来の考古学の枠を飛び出して、縄文人の精神性に迫ろうとする。彼が取り入れた手法は、ユング心理学の「普遍的無意識と原型(グレートマザー)」、宗教学の「イメージとシンボル」、そして修辞学の「レトリック」などである。これら人文科学の成果を取り入れながら「神話的思考に基づく縄文世界」に分け入る試みが本書である。

著者はドイツ人の日本学者ナウマンにならって縄文人の象徴の中核に月があるという。縄文人にとって、満ち欠けを繰り返す月は幾多の死を超えてよみがえる再生の象徴であり、畏敬の対象だった。さらに脱皮を重ねる蛇も、土偶の身ごもる女性も「死と再生」の象徴であった。身ごもりが月からもたらされる「水」(精液)によることを世界中の神話が伝えている。日本の土偶にも「月の水」が涙や鼻水やよだれとして表現されているという。著者は、こうしたシンボリズムをさらに広げて、縄文土器や竪穴式住居やストーンサークルなど多くの遺物の特徴は、縄文人が「不死」「再生」への願いを表現したものとして説明できる主張する。

縄文人の円形の住居や墓、ストーンサークル、さらに貝塚も子宮のシンボライズであった。子宮は、縄文人にとっても、自分が生まれた場所であり、死から甦る再生の場所でもあった。また子宮をもつ女性の生理は、月の運行周期と同じであり、その月もまた「死と再生」を象徴していた。母なる子宮を象徴とする「死と再生」は、ユングのいうグレートマザーという元型と深く結びついており、それは人類の古層の記憶、普遍的無意識につらなるという。

縄文の遺物を、月・蛇・子宮などのシンボリズムで読み解く試みは従来の考古学にとってはかなり挑戦的だろう。しかしこれもまたこれまでなされてきた解釈のうちの一つであり、飛び抜けて説得力があるとは思えなかった。私にとっては、縄文文化を母性原理との関連でとらえるうえで、大いに参考になったのは確かだが。ひとつだけ気になるのは、縄文人の信仰を「死と再生」の観点だけからとらえるのは一面的ではないかということ。縄文人が豊かな恵みをもたらす母なる大地によって生かされ、それに感謝したという信仰の側面を無視することはできないのではないかということだ。

★『父性的宗教 母性的宗教 (UP選書)
すでに多くの論者が指摘してきたように、日本の文化的宗教的伝統はどちらかと言えば母性的な性格が強いのが特徴だ。それは、「あるべきものより、あるがままのものを、規範的な分離よりも自然的なつながりを、自律的な個性よりも包容的な共同体を強調する傾向」が強い。

世界観の類型には「遊牧文化型」と「農耕文化型」などの分け方がある。著者は、宗教学者として「父性的宗教」と「母性的宗教」という語を用いることで、文化類型の根底にある人間心理の深層にまで掘り下げて考えたいという。それは、比較文化論と宗教心理学を結びつける試みであり、またそこから日本文化の諸問題を分析する手がかりを提示する試みでもある。

母性的な宗教は母性原理に基づいた宗教である。それは人間心理の初期の発達段階、自他が分離せず母や母に代表される世界との一体性の状態に関係する。それはまた人間の原初的な自然、そこに生まれて在る故郷(ふるさと)、あるいは大地に根ざし、無条件の包容性、寛容性を特色とする。そこでは、神が強力な権威をもって人々を特定の目標へ導くというより、共同体の緊張をゆるめ、調和統合をはかる。その自然的な共同体そのものが母性的なものといえよう。

これに対し父性的宗教は、父親の登場によって原初的な母親的世界との分離が決定的となるエディプス期に特に関係するという。父親に対する愛憎のなかで子どもは、父親の権威を超自我として内面化する。それは父親に代表される社会の規範の内面化でもある。こうした原理と結びついた父性的宗教において神は、しばしば強力な権威をもった支配者・超越者として描かれる。

母性的宗教・父性的宗教の違いは、価値的な優劣を意味せず、一種の理念型であり、現実の宗教は両要素がさまざまに交じり合い融合している。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教は父性的な性格が強く、母性性を抑圧する傾向があるが、カトリックのマリア信仰は母性的な性格を示す。中国の儒教は父性的な要素が強いが、道教は母性的な要素が強く、民衆に広く支持された。もちろん儒教と道教はたがいに影響し合っている。人間の成長の過程で母性的な要素も父性的な要素もともに大切であるのと同じように、人間の宗教・文化にも二つの要素があり、ともに重要な働きをなしているだろう。

著者は縄文時代の宗教には言及していない。しかし私自身の観点から言えば、縄文時代という農耕以前の豊かな自然社会を1万年も経験し、その記憶を断絶なく現代にまで受け継いできた日本人は、母性的な傾向の強い文化のなかに生きている。しかし西欧から取り入れた近代科学や近代社会の原理は、父性的な性格を強く帯びている。そして現代の世界を全体として見れば、父性原理の文明がもつ負の面がかなり色濃く出てきているといえよう。そんな時、私たちは私たちの文化のなかに流れている母性的な一面をしっかりと捉えなおし、現代社会のなかでのその意味を問うことがますます重要になっている。

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