クールジャパン★Cool Japan

今、日本のポップカルチャーが世界でどのように受け入られ影響を広げているのか。WEB等で探ってその最新情報を紹介。

「森林の思考」と「砂漠の思考」

2020年09月30日 | 母性社会日本
鈴木秀夫氏の『森林の思考・砂漠の思考 (NHKブックス 312)』については、まだここで論じたことはなかったと思う。最近、母性社会としての日本を論じる論文を書いていて、この本にも触れたので、論文のその部分をここに紹介したい。

地理学者の鈴木秀夫氏は、「森林の思考」と「砂漠の思考」という二類型によって人間の思考の違いを分析する。まずは、人間が周囲の環境を見るさいの「視点」の違いが指摘される。森林では地上に視点を置き、その視点から発想する傾向が強く、砂漠では広域を上から鳥瞰するような視点から発想が強い。森林的思考とは、視点が地上の一角にあり、下から上を見る姿勢であり、砂漠的思考とは上から下を見る鳥の眼を持つことであるという。

森林では、周囲を木々に囲まれる狭い視野から周囲を見渡し、樹林にさえぎられた空を見上げることになる。森林は湿潤地帯であり、食物は比較的豊富で種類も多い。そこでは食物や水をめぐって生死を分けるような重要な決断に迫られることは多くない。全ての物はお互いに相まって存在する。草木が繁茂し、多くの動物が住む森林地帯では多神教が生まれやすい。そして、実が朽ちて土に帰り、また芽生えてくる循環的な輪廻転生の概念も加わる。

これに対し、砂漠で生き残るのに最も重要なことは水を見つけ、食べ物を見つけることだ。そのため、長い距離を移動しなければならず、広範囲を視野に入れて行動する必要がある。遠くの泉に今、水があるかないか、生死を分ける決断をして行動しなければなない。それゆれ砂漠民は、鳥のように上から自分と全体を認識する必要に迫られる。そして、砂漠的思考の「上からの視点」が、天、すなわち一神教の神を生み出したというのである。広大な砂漠の中で人間は、風に飛ばされる砂粒と変わらない。そんな人間と万物を創造し、支配するのが絶対的な神であるという一神教が成立する。時間も空間も含めてすべてが、この絶対神によって創造されたのである。一神教の神のイメージは、砂漠の風土と砂漠民の生活に密接に関係しつつ成立した。
森林の思考とは、極端に言えば「世界は永遠に循環し、続く」という思考であり、砂漠の思考とは、逆に「世界は始まりと終わりがある」というものだ。

こうした思考の違いはやがて、キリスト教的な世界観と、仏教的な世界観のとの違いへと発展していく。しかしそれは、どちらが優れているとか、どちらが正しいとかの問題ではなく、森林あるいは砂漠という、それぞれその風土に生きるために必要な思考から生じた違いである。

こうして、多神教や、さらには仏教を生んだのが森林であり、ユダヤ教やキリスト教そしてイスラム教を生んだのが砂漠であった。歴史的に言えば、人類は狩猟・採集の時代には、圧倒的に森林的な思考が優位であった。森林に囲まれた環境では多神教的な宗教が生まれ、砂漠の環境では一神教的な宗教が生まれる傾向が強い。人類が農耕・牧畜を始めるころから、一神教的な文化の影響が徐々に森林的な思考の世界にも広まっていった。

ただし森林と砂漠とは言っても、必ずしも現在の気候風土とそのまま合致してはいない。いまから数千年前に地球が砂漠化していた頃につくられた思考方法を人類は綿々と受け継ぎ、こうした思考方法が現代の人間に対しても明らかに大きく影響している。森林的思考を代表する地域は日本である。対して砂漠的思考を代表するのは、欧米諸国である。以上の考察から、森林的思考が母性原理の文化に対応し、砂漠的思考が父性原理の文化に対応することは、容易に推察できるであろう。

鈴木秀夫氏が考察した「森林の思考」と「砂漠の思考」の違いは、かつて人類が経験した気候変動と世界史の展開のなかでも、大枠としては確認できるだろう。狩猟・採集の時代には「森林の思考」が優位であり、それゆえ宗教も自然崇拝的で母性的な性格のものであった。やがて人類が農耕を開始しても、豊饒な大地を基盤にする母性的な宗教が支配的であった。

農耕の開始は,大地を母とし,農耕を生殖活動と同じとみなす母性的宗教の世界観と結びつく。世界に広く出土する土偶も,豊饒な母なる大地をあらわす地母神である。それは多産,肥沃,豊穣をもたらす生命の根源でもある。地母神への信仰は,アニミズム的,多神教的世界観と一体をなす。

しかし、古代地中海世界では紀元前1500~1000年頃に大きな世界観の変化があったという。それまでの大地に根ざす女神から、天候をつかさどる男神へと信仰の中心が移動したというのだ。これには紀元前1200年頃の気候変動が関係しており、北緯35度以南のイスラエルやその周辺は乾燥化した。その結果、35度以北のアナトリア(トルコ半島)やギリシアでは多神教や蛇信仰が残ったが、イスラエルなどでは大地の豊饒性に陰りが現れ、多神教に変わって一神教が誕生する契機となったという。

《関連図書》
日本人にとって聖なるものとは何か - 神と自然の古代学 (中公新書)
ユニークな日本人 (講談社現代新書 560)
日本の曖昧力 (PHP新書)
日本人の人生観 (講談社学術文庫 278)
古代日本列島の謎 (講談社+α文庫)
縄文の思考 (ちくま新書)
人類は「宗教」に勝てるか―一神教文明の終焉 (NHKブックス)
山の霊力 (講談社選書メチエ)
日本人はなぜ日本を愛せないのか (新潮選書)
森林の思考・砂漠の思考 (NHKブックス 312)
母性社会日本の病理 (講談社+α文庫)
日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)
アーロン収容所 (中公文庫)
肉食の思想―ヨーロッパ精神の再発見 (中公文庫)
日本人の価値観―「生命本位」の再発見
ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「道」の文化という大切なもの

2020年04月22日 | 相対主義の国・日本
本ブログでは、日本文化の特徴の以下のようないくつかの項目の視点から総合的に把握することを志している。 ただ、これ以降は、これまで示してきたものと順番を少しかえる。いままで7番目にあった「絶対的理念への執着がうすかった」という項目を一番目に移動した。 この項目が、日本文化の特徴をもっとも全体的に表現していると思うからである。 また、新たに9番目の項目を加えた。

(1)日本文化は一貫して、宗教などのイデオロギーによる社会と文化の一元的な支配がほとんどなく、また文化を統合する絶対的な理念への執着がうすかった。 その相対主義的な性格は、以下の項目と密接に関連して形成された。

(2)漁撈・狩猟・採集を基本とした縄文文化の記憶が,現代に至るまで消滅せず日本人の心や文化の基層として生き続けている。

(3)ユーラシア大陸の父性的な性格の強い文化に対し,縄文時代から現代にいたるまで一貫して母性原理に根ざした社会と文化を存続させてきた。

(4)ユーラシア大陸の穀物・牧畜文化にたいして、日本は穀物・魚貝型とも言うべき文化を形成し、それが大陸とは違う生命観を生み出した。

(5)大陸から海で適度に隔てられた日本は、異民族により侵略,征服されたなどの体験をほとんどもたず、そのため縄文・弥生時代以来,一貫した言語や文化の継続があった。

(6)大陸から適度な距離で隔てられた島国であり、外国に侵略された経験のない日本は,大陸の進んだ文明の負の面に直面せず、その良い面をひたすら尊崇し、吸収・消化することで,独自の文明を発達させることができた。

(7)海に囲まれ,また森林の多い豊かな自然の恩恵を受けながら、一方で,地震・津波・台風などの自然災害は何度も繰り返され、それが日本人独特の自然観・人間観を作った。

(8)西欧の近代文明を大幅に受け入れて、非西欧社会で例外的に早く近代国家として発展しながら、西欧文明の根底にあるキリスト教は,ほとんど流入しなかった。

(9)「武道」、「剣道」、「柔道」、「書道」、「茶道」、「華道」や「芸道」、さらには「商人道」、「野球道」などという言い方を含め、武術や芸事、そして人間のあらゆる営みが人間の在り方を高める修行の過程として意識され、それが日本文化のひとつの大きな特徴をなしてきた。

実は、トップに移動した日本文化の相対主義的性格については、残りの7項目が要因となって、いかにその性格が形成されてきたをまとめ、この4月にある論文集の中で公にした。それが、これまでこのブログで書いてきたことのかんたんな整理になっている。この論文の内容も、すべてではないが一部を要約してこのブログに順次掲載するつもりである。

新しく追加した9番目の内容については、これまでこのブログではほとんど触れていない。今後、少しづつ触れていきたいと思う。もしかしたら私たちは、「道」の文化という日本文化の大切な遺産を、ほとんど忘れかけているのかもしれない。言葉としては残っていても、その内実を現代人はほとんど受けついていないのではないか。その負の面をも含め、もう一度私たちはこの大切な伝統を思い起こし、その良い面を積極的に現代日本に生かしていくことが、今後の日本の社会にとってきわめて重要なことだと思う。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「辺境」日本の世界史的な意味(6)現代のジャポニズム

2020年04月21日 | 相対主義の国・日本
そして現代の日本は、長い受容の歴史の結果、その豊かな蓄積の内側から次々と独自の文化を生み出すようになった。浮世絵に代表される江戸時代の豊かな庶民文化も、幕末から明治初期にかけてフランスなどヨーロッパに知られ、その流行はジャポニズムと呼ばれた。

それぞれの文化の背景にある宗教やイデオロギーに縛られずに、さまざまな要素を融合させてしまう柔軟さは、現代のポップカルチャーにもいかんなく発揮されている。それが、インターネットなどの情報革命によって江戸時代とは比較にならないほど広範に世界に影響を与え始めた。

現代のジャポニズム(マンガ・アニメに代表されるポップカルチャーなどの世界的な人気)は、中国文明だけではなく西欧文明やアメリカ文明の受容と蓄積が加わり、それが縄文時代以来の日本の伝統の中で練り直され、磨かれることによって豊かに開花したものといえよう。例を挙げればきりがないが、たとえば宮崎駿のアニメ作品のなかにどれだけ神道的な要素や古代中国的な要素や西欧的な要素が融合しているかを見ればよい。

今、世界は「普遍宗教」同士の深刻な対立を背景にした紛争やテロが後を絶たない。環境問題や経済の混乱の深刻化などにより、西欧近代の文明原理がかなり問題をはらむのではないかと疑われ始めもした。では日本は、それに替わる新たな「世界標準」を生み出すことが可能なのだろうか。これに対する私の答えは、上に述べたような「世界標準」という意味でなら「否」というものである。しかし、「世界標準」という言葉にこだわらずもっと柔軟な見方をすれば、必ずしも否と言えない。

逆説的なことだが、ひとつの「世界標準」にこだわらず、つまり絶対視せず、相対主義的な姿勢で自由に学び吸収しつづけたからこそ、そこから生まれた独自の文化が、今後の世界にとって新たなモデルになる可能性を秘めるようになったのではないか。

近年の日本人は、「世界標準」同士が張り合ったり、宗教同士が争い合ったりすることが、どれだけ悲惨な結果を生んできたか、そして今も生みつつあるかを、かなりよく知るようになった。そして自分たちのようにあまり原理原則にこだわらず、それぞれのいいところを自由に受け入れて、自分たちに合わせて作り替えていく行き方が、逆に豊かな結果をもたらすことをようやく知るようになった。そして、そういう日本のあり方や日本が発信する文化を、世界がクールと感じ始めたのではないか。

《引用・参考文献》
(1)「原型・古層・執拗低音―日本思想史方法論についての私の歩み」(『日本文化のかくれた形』加藤周一・木下順二・丸山真男・武田清子編、岩波書店、1991年所収)
(2)『日本辺境論』内田樹著、新潮新書、2009年
(3)『日本とは何か』堺屋太一著、講談社、1991年
(4)「日本文化の選択原理」小松左京著(『英語で話す「日本文化」』講談社インターナショナル、1997所収)
(5)『ユニークな日本人』グレゴリー・クラーク、竹村健一著、講談社現代新書、1979年
《関連図書》
日本人にとって聖なるものとは何か - 神と自然の古代学 (中公新書)
ユニークな日本人 (講談社現代新書 560)
日本の曖昧力 (PHP新書)
日本人の人生観 (講談社学術文庫 278)
古代日本列島の謎 (講談社+α文庫)
縄文の思考 (ちくま新書)
人類は「宗教」に勝てるか―一神教文明の終焉 (NHKブックス)
山の霊力 (講談社選書メチエ)
日本人はなぜ日本を愛せないのか (新潮選書)
森林の思考・砂漠の思考 (NHKブックス 312)
母性社会日本の病理 (講談社+α文庫)
日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)
アーロン収容所 (中公文庫)
肉食の思想―ヨーロッパ精神の再発見 (中公文庫)
日本人の価値観―「生命本位」の再発見
ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「辺境」日本の世界史的な意味(5)相対主義の強み

2020年04月20日 | 相対主義の国・日本
「普遍的な文明」の絶対的な理念や中心軸、宗教をそのまま自文化の中に持ち込めば、自分たちの根底にある相対主義の文化が脅かさるから、無意識のうちに拒む。しかし、その相対主義を脅かさないかぎりでは、他文明の個々の成果をためらいもなく受け入れ、それをいつの間にか自分に合うものに造り変えてしまう。そこに日本文化のユニークさと不思議さがある。

日本文化の特異さのひとつは、「普遍的な文明」の「世界標準」によって完全に浸食されてしまわずに、農耕文明以前の自然崇拝的で、縄文的な文化が現代にまでかなり濃厚に受け継がれたことだ。これは世界史上でも稀有なことである。儒教や仏教を受容したときも、自分たちが元来持っていた自然崇拝的な宗教にうまく合うように変形した(神仏習合など)。

「世界標準」とは、まずはキリスト教、イスラム教、仏教、儒教など、それ以降の文明の基礎を築くことになった普遍宗教であろう。そして、それらの普遍宗教に基づいて生まれた文明の原理であろう。たとえばヨーロッパ文明は、キリスト教をひとつの基礎としながら、また一面ではそれと対抗しながら、近代の各種原理を生み出していった。「自由」「民主主義」「人権」「合理主義」「科学」「進歩」「自由主義経済」などがそれにあたる。そして、それらが現代のもっとも強力な「世界標準」になっていったのである。

「世界標準」の普遍宗教は、激しい闘争の中で民族宗教の違いを克服することによって生まれたとも言える。それもあって、それぞれの普遍宗教を背景にもつ「世界標準」自体は、お互いに相容れない傾向がある。自分こそ「世界標準」だと言い張って互いに争うのである。現在までのところ、その勝者が近代ヨーロッパだったわけだ。

ところが日本人は、そうした「世界標準」の原理原則にこだわらずに、自分たちに合わせて自由にいくつもの「世界標準」を学び吸収してきた。自文化のアイデンティティを根底から脅かすものはほとんど無意識に拒否するという強固な傾向により、一神教だけではなく、奴隷制も宦官も科挙も日本には入ってこなかった。しかし、一度取り入れたものは、その背景にある原理原則にこだわらず自由に組み合わせて、そこから独自のものを生み出すことができた。神道を残したまま儒教も仏教も西欧文明も自己流に消化し、併存させたのである。その受容性、あるいは相対主義こそが日本文化に豊かさと発想の自由さを与えた。

《引用・参考文献》
(1)「原型・古層・執拗低音―日本思想史方法論についての私の歩み」(『日本文化のかくれた形』加藤周一・木下順二・丸山真男・武田清子編、岩波書店、1991年所収)
(2)『日本辺境論』内田樹著、新潮新書、2009年
(3)『日本とは何か』堺屋太一著、講談社、1991年
(4)「日本文化の選択原理」小松左京著(『英語で話す「日本文化」』講談社インターナショナル、1997所収)
(5)『ユニークな日本人』グレゴリー・クラーク、竹村健一著、講談社現代新書、1979年
《関連図書》
日本人にとって聖なるものとは何か - 神と自然の古代学 (中公新書)
ユニークな日本人 (講談社現代新書 560)
日本の曖昧力 (PHP新書)
日本人の人生観 (講談社学術文庫 278)
古代日本列島の謎 (講談社+α文庫)
縄文の思考 (ちくま新書)
人類は「宗教」に勝てるか―一神教文明の終焉 (NHKブックス)
山の霊力 (講談社選書メチエ)
日本人はなぜ日本を愛せないのか (新潮選書)
森林の思考・砂漠の思考 (NHKブックス 312)
母性社会日本の病理 (講談社+α文庫)
日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)
アーロン収容所 (中公文庫)
肉食の思想―ヨーロッパ精神の再発見 (中公文庫)
日本人の価値観―「生命本位」の再発見
ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「辺境」日本の世界史的な意味(4)日本がキリスト教を拒む理由

2020年04月19日 | 相対主義の国・日本
たしかに日本は「辺境」の島国であったためか、これまで「世界標準」や「普遍的な文明」を生み出すことはなかった。大陸で生まれた「世界標準」をひたすら吸収してきた。異民族に侵略・征服された経験をもたない日本は、海の向こうから来るものには一種の憧れをもって接した。そして外来の優れた文物だけを「いいとこ取り」(3)して、利用することができた。優れた文物だけを自由に取り入れられところに、「絶対的な価値観」を持たない相対主義の強みがある。そうやって形成された日本の文化は、「受容性」を特徴としていた。それは、もっぱら「師」から学ぶ姿勢で大陸の文明を吸収し続けることである。

そうやって中国文明を吸収し、それを自分たちの伝統に添う形で洗練させ、高度に発展させてきた。また西欧諸国による侵略を免れた日本は、かつて中国文明に接したときと似たような態度で、西欧文明に憧れ、その優れたところだけ(自分たちに消化できるものだけ)を取捨選択して吸収することができたのである。

しかし、無条件に何もかも受け入れたわけでもない。たとえば、中国から律令制度を取り入れながら、その重要な一部である、宦官や科挙の制度を受け入れていない。儒教は積極的に学びながら、儒教の根本原則の一つである同姓不婚という制度は日本に入ってこなかった。これは、同じファミリーネームをもつ男女は結婚できず、また異なる姓の男女が結婚すると、互いにもとの家の姓を名乗るという制度だ(4)。

明治維新以来の日本社会は、他のいかなる非西欧諸国よりも貪欲に西欧文明を吸収し、いち早く近代化することに成功したが、キリスト教徒は圧倒的に少ない。現代日本のキリスト教徒は百万人程度で、人口の1%にも満たず、この数字は明治以来ほとんど変わらない。明治以前は言わずもがなである。

日本は、一神教が浸透しなかった最大の国なのである。科学技術や政治・経済システムの面では近代文明を大幅に取り入れ成功を遂げながら、その文化の深層の部分では一神教を頑なに拒んでいる。おそらくそれは、農業文明以前の縄文的な心性が、現代の日本人にまで脈々と受け継がれていることから来る。母性的で相対主義的な日本文化にとって父性的な一神教の絶対主義は、きわめて馴染みにくいのである。

「普遍的な文明」の絶対的な理念や中心軸、宗教をそのまま自文化の中に持ち込めば、自分たちの根底にある相対主義の文化が脅かさるから、無意識のうちに拒む。しかし、その相対主義を脅かさないかぎりでは、他文明の個々の成果をためらいもなく受け入れ、それをいつの間にか自分に合うものに造り変えてしまう。そこに日本文化のユニークさと不思議さがある.

《引用・参考文献》
(1)「原型・古層・執拗低音―日本思想史方法論についての私の歩み」(『日本文化のかくれた形』加藤周一・木下順二・丸山真男・武田清子編、岩波書店、1991年所収)
(2)『日本辺境論』内田樹著、新潮新書、2009年
(3)『日本とは何か』堺屋太一著、講談社、1991年
(4)「日本文化の選択原理」小松左京著(『英語で話す「日本文化」』講談社インターナショナル、1997所収)
(5)『ユニークな日本人』グレゴリー・クラーク、竹村健一著、講談社現代新書、1979年
《関連図書》
日本人にとって聖なるものとは何か - 神と自然の古代学 (中公新書)
ユニークな日本人 (講談社現代新書 560)
日本の曖昧力 (PHP新書)
日本人の人生観 (講談社学術文庫 278)
古代日本列島の謎 (講談社+α文庫)
縄文の思考 (ちくま新書)
人類は「宗教」に勝てるか―一神教文明の終焉 (NHKブックス)
山の霊力 (講談社選書メチエ)
日本人はなぜ日本を愛せないのか (新潮選書)
森林の思考・砂漠の思考 (NHKブックス 312)
母性社会日本の病理 (講談社+α文庫)
日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)
アーロン収容所 (中公文庫)
肉食の思想―ヨーロッパ精神の再発見 (中公文庫)
日本人の価値観―「生命本位」の再発見
ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「辺境」日本の世界史的な意味(3)強力な宗教のない理由

2020年04月18日 | 相対主義の国・日本
もちろん日本人同士の紛争は多く経験しているが、同じ民族同士の戦争なら価値観を変える必要はない。しかし相手が異民族であれば、自民族こそが正義であり、優秀であり、あるいは神に支持されているなどを立証しなければならない。

他民族との戦争を通して、部族の神は、自民族だけではなく世界を支配する「正義の神」となる。そして「正義の神」相互の殺し合い、押し付け合いが行なわれる。社会は、異民族との戦争によってこそイデオロギー的になる。「普遍的な価値観」、「絶対的な価値観」によって戦いを合理化しなければならないからだ。

日本は、異民族との激しい闘争をほとんど経験してこなかったために、西洋的な意味での神も、イデオロギーも必要としなかった。強力な宗教やイデオロギーによる社会の再構築なしに、自然発生的な村とか農村共同体に安住することができた。絶対的な理念による社会の統合を形成せず、相対主義的な文化と社会に甘んずることができたのである。

だからこそ、縄文時代以来の「森の思考」、自然を貴ぶ宗教や文化が、本格的な農耕の始まった弥生時代にも引き継がれ、さらに高度産業社会の現代にまで生き残ったのである。日本文化の特異さとは、縄文的な要素を多分に残した農耕文化、しかも牧畜を知らず、遊牧民との接触もなかった農耕文化の特異さということであろう。そして、農耕文化が、縄文的な心性を残しながら連綿と続くことができた条件の一つが、大陸の異民族による侵略・征服などがなかったということなのである。

《引用・参考文献》
(1)「原型・古層・執拗低音―日本思想史方法論についての私の歩み」(『日本文化のかくれた形』加藤周一・木下順二・丸山真男・武田清子編、岩波書店、1991年所収)
(2)『日本辺境論』内田樹著、新潮新書、2009年
(3)『日本とは何か』堺屋太一著、講談社、1991年
(4)「日本文化の選択原理」小松左京著(『英語で話す「日本文化」』講談社インターナショナル、1997所収)
(5)『ユニークな日本人』グレゴリー・クラーク、竹村健一著、講談社現代新書、1979年
《関連図書》
日本人にとって聖なるものとは何か - 神と自然の古代学 (中公新書)
ユニークな日本人 (講談社現代新書 560)
日本の曖昧力 (PHP新書)
日本人の人生観 (講談社学術文庫 278)
古代日本列島の謎 (講談社+α文庫)
縄文の思考 (ちくま新書)
人類は「宗教」に勝てるか―一神教文明の終焉 (NHKブックス)
山の霊力 (講談社選書メチエ)
日本人はなぜ日本を愛せないのか (新潮選書)
森林の思考・砂漠の思考 (NHKブックス 312)
母性社会日本の病理 (講談社+α文庫)
日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)
アーロン収容所 (中公文庫)
肉食の思想―ヨーロッパ精神の再発見 (中公文庫)
日本人の価値観―「生命本位」の再発見
ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「辺境」日本の世界史的な意味(2)城壁なき都市を作った唯一の国

2020年04月17日 | 相対主義の国・日本
日本は確かに地理的には「辺境」の島国であり、そのためか、これまで「世界標準」や「普遍的な文明」を生み出すことはなかった。大陸で生まれた「世界標準」をひたすら吸収してきた。しかし、日本と大陸を隔てる海は、古代の技術でも渡航困難なほどには広くないが、しかし大規模な移民や軍事攻撃を組織的に行うには広すぎた。もし渡航したとしても、軍団はバラバラに到着し、統一行動がとれない可能性が高かったであろう。大陸から適度に隔てられた日本は、高度な文化や知識は流入し得ても、短期での大量移民や大規模な軍事攻略は困難だったのである。

先進文明との適度な距離と列島としてのまとまりという稀有な条件が、日本の歴史に決定的に影響した。大陸から「狭くない海」で隔てられていたことは、日本を異民族との戦争のない平穏な社会にした。

一方、人類が大陸の大河の流域などで農業を始めた頃、その周囲には多くの遊牧民が勢力をもっていた。農耕民は、遊牧民から生命と財産を守るため、強いリーダーの下に結集し、攻撃を防ぐ施設を備えなければならなかった。つまり、城壁で囲まれた都市国家が生まれていったのである。中世以前の都市は、アテネ、ローマ、ロンドン、パリ、フランクフルト、バグダッド、ニューデリー、北京、南京など、すべて堅固な城壁で囲まれていた。

ただ日本だけが城壁で囲まれた都市がなく、城下町はあっても城内町は存在しなかった。日本列島は、険しい山と狭い平野は遊牧に適さかったし、海を越えて遊牧民が侵略してくることも、蒙古襲来以外にはなかった。異民族に侵略され、征服され、虐殺されるというような悲惨な歴史がなかった。明治維新に至るまでは、異民族との闘争とはほぼ無縁であり、だからこそ日本人は、「城壁のない都市」をつくったほとんど唯一の民族なのだ。

《引用・参考文献》
(3)『日本とは何か』堺屋太一著、講談社、1991年
(4)「日本文化の選択原理」小松左京著(『英語で話す「日本文化」』講談社インターナショナル、1997所収)
《関連図書》
日本人にとって聖なるものとは何か - 神と自然の古代学 (中公新書)
ユニークな日本人 (講談社現代新書 560)
日本の曖昧力 (PHP新書)
日本人の人生観 (講談社学術文庫 278)
古代日本列島の謎 (講談社+α文庫)
縄文の思考 (ちくま新書)
人類は「宗教」に勝てるか―一神教文明の終焉 (NHKブックス)
山の霊力 (講談社選書メチエ)
日本人はなぜ日本を愛せないのか (新潮選書)
森林の思考・砂漠の思考 (NHKブックス 312)
母性社会日本の病理 (講談社+α文庫)
日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)
アーロン収容所 (中公文庫)
肉食の思想―ヨーロッパ精神の再発見 (中公文庫)
日本人の価値観―「生命本位」の再発見
ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

静かに桜咲く新宿御苑

2020年04月16日 | 全般
静かに桜咲く新宿御苑


3月23日に新宿御苑を訪れた。満開になった桜も多く、夢中で写真をとった。桜の時期でこんなに人が少ない御苑ははじめただ。コロナ問題が深刻化するなか、いやだからこそか、桜の美しさが身に染みた。これらの写真も海外発信用のツイッターにまず投稿したものだが、新宿御苑は訪れたことのある海外の人も多く、懐かしむ声も多かった。同じ日に撮影したYoutube動画を見たある外国人は、次のように感想を書いてくれた。

「お気に入りの公園。日本への旅行のたびにガールフレンドと何度も訪れた。あなたの動画を見て、彼女はほとんど泣きそうだった。この公園が懐かしい。
My favorite park! My girlfriend and I go to Shinjuku Gyoen several times each trip to Japan! She almost cried watching your video! We both miss this park! Thank you for posting this!」

Youtubeの動画は以下で。Sinjuku Gyoen Garden Cherry Blossoms in the Wind

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

桜咲く静かな上野公園

2020年04月16日 | 全般
桜咲く静かな上野公園

3月22日に上野公園にいった。コロナウィルスの問題は徐々に大きくはなっていたが、いまほどの緊張感はなかった。国立博物館に向かう有名な桜並木も通行禁止にはなっていなかった。満開には少し早かったが、宴会のない、そして外国人観光客もほとんどない上野公園は、静かに桜を楽しむことができた。一連の桜の写真は海外発信用のツイッターにも掲載したが、コロナ騒ぎで気持ちが落ち込むなか、日本の桜を見れてうれしいというものが多かった。このような感想は、世界に感染が広がるごとに増した。

以下は同じ日に撮影して投稿したYouTube動画である。例年に比べての人通りの少なさがよくわかると思う。

Quiet Ueno Park with Cherry Blossoms(桜咲く静かな上野公園)

※この記事は、一度誤って未完成のまま投稿したものをすぐに削除し、再投稿したものである。ご迷惑をおかけしました。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「辺境」日本の世界史的な意味(1)否定的な史観を超えよ

2020年04月16日 | 相対主義の国・日本
以後、数回に分けて掲載するのは前回ふれた懸賞論文に応募し落選した論文である。このブログで折に触れて語った内容を下敷きにして論文としてまとめたものである

かつて丸山真男は、日本文化の特徴を次のように記した。「私達はたえず外を向いてきょろきょろして新しいものを外なる世界に求めながら、そういうきょろきょろしている自分自身は一向に変わらない」(1)。つねに外来の新しい文化に飛びついて、それを吸収し続ける日本文化は激しく変わるが、そういう姿勢そのものは変わらないというのだ。

内田樹は、こうした見方を受けていう、「世界のどんな国民よりもふらふらきょろきょろして、最新流行の世界標準に雪崩を打って飛びついて、弊履を棄つるが如く伝統や古来の知恵を捨て、いっときも同一的であろうとしないというほとんど病的な落ち着きのなさのうちに私たち日本人としてのナショナル・アイデンティティを見出したのです」(2)と。

この二人の日本理解は、かなり自己否定的ないしは自己揶揄的だ。確かに明治以来の日本人の、欧米崇拝や欧米文化や思潮の受容にはこう揶揄されても仕方のない傾向が見られたかもしれない。しかし、このような見方を日本理解の根底に据えているかぎり、日本の歴史や

文化の本質は見えず、きわめて底の浅い日本理解しか生まれないだろう。
大陸から海で隔てられた「辺境」に位置した日本にとっては、海の向こうから入って来るものはつねに崇拝の対象だった。中国や欧米の文明にたえず範を求め続けた。「世界標準に準拠してふるまうことはできるが、世界標準を新たに設定することはできない」(2)、これが辺境の限界だと内田はいう。日本人に世界標準の制定力がなく、「保証人」を外部の上位者に求めてしまうことこそが、「辺境人」の発想だ。そして、それは「もう私たちの血肉となっている」から、どうすることもできない。だとすれば「とことん辺境でいこうではないか」。こんな国は世界史上にも類例を見ないから、そんな変わった国にしかできないことは何かを考えた方が有意義だ、というのがこの論者の主張だ。

しかし、こうした論には、日本の歴史や文化を見渡すうえでのもっとも大切な視点が抜け落ちている。私たちのナショナル・アイデンティティは、「ほとんど病的な落ち着きのなさ」のうちにあるのではなく、縄文時代に遡る歴史のもっとも深いところにどっしりと根をおろしている。それが見えていないから、きわめて否定的な語でしか日本人のアイデンティティを語れないのだ。

《引用・参考文献》
(1)「原型・古層・執拗低音―日本思想史方法論についての私の歩み」(『日本文化のかくれた形』加藤周一・木下順二・丸山真男・武田清子編、岩波書店、1991年所収)
(2)『日本辺境論』内田樹著、新潮新書、2009年
《関連図書》
日本人にとって聖なるものとは何か - 神と自然の古代学 (中公新書)
ユニークな日本人 (講談社現代新書 560)
日本の曖昧力 (PHP新書)
日本人の人生観 (講談社学術文庫 278)
古代日本列島の謎 (講談社+α文庫)
縄文の思考 (ちくま新書)
人類は「宗教」に勝てるか―一神教文明の終焉 (NHKブックス)
山の霊力 (講談社選書メチエ)
日本人はなぜ日本を愛せないのか (新潮選書)
森林の思考・砂漠の思考 (NHKブックス 312)
母性社会日本の病理 (講談社+α文庫)
日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)
アーロン収容所 (中公文庫)
肉食の思想―ヨーロッパ精神の再発見 (中公文庫)
日本人の価値観―「生命本位」の再発見
ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

このブログの今後の展望:海外発信とそのフィードバック

2020年04月15日 | 全般
 このブログをほとんど更新しなくなって久しい。しかしクールジャパンという言葉に関係するテーマから関心が遠のいたわけではない。実はこのブログに書いてきた内容をもとに去年、アパ懸賞論文に応募したりしている。ただ、この懸賞論文のテーマは「真の近現代史観」であったが、私の論文のタイトルは「『辺境』日本の世界史的意味」であり、近現代史というより縄文時代も含めた日本文化全体を扱うものだったので、はじめから賞を得る可能性は低いと思っていた。事実、賞を得ることはできなかった。しかし、自分の考え方をまとめるよいきっかけにはなったと思う。数日後から、この論文の内容をこのブログに順次掲載しようと思う。

 ところでここ数年、私はもっぱらツイッター(Tokyonobo)フェイスブックで海外に向けて日本文化を発信することを主に行っていた。しかし、たとえばツイッターには文字数の制限もあるし、もっと本格的に海外発信したいという思いもあって、ここ数週間は、ユーチューブで実験的に何回か投稿している。いまはまだ試行錯誤段階だが、近々、ここで語ってきたようなことを基礎として、本格的に英語で発信を始めようと思っている。

 とりあえず試作的に投稿したものをここにいくつかリンクしておきたい。これまでにツイッターに投稿した豊富な写真をもとにして練習用につくったものである。

最初は、Why do Japanese love cherry blossoms? 美しい桜の写真もかなり好評であった。

次は、Why do Japanese love hot springs?

さらに、Kimono ----- Rivaval of the Tradition

一番最近のは、Yosakoi Festival (よさこい祭り)--Why is it so popular in modern Japan?

まだ、チャンネル登録者数が57名ときわめて少ないが、そこは気長に、大きな夢をもって投稿を続ける予定である。ユーチューブ投稿が本格化すれば、そこでの反響に対する考察などがここでもできるかもしれない。

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新たな視点も含めて日本文化を考える

2019年06月02日 | 全般
このブログでは以下のような8つの視点から総合的に日本文化の性格を考えてきた。しばらく更新をしていなかったが、最近、この8つにもう一つ新たな項目を付け加えて考えるべきだという思いが湧き、それ以降、考察をさらに続ける意欲が出てきている。

(1)漁撈・狩猟・採集を基本とした縄文文化の記憶が、現代に至るまで消滅せず日本人の心や文化の基層として生き続けている。
(2)ユーラシア大陸の父性的な性格の強い文化に対し、縄文時代から現代にいたるまで一貫して母性原理に根ざした社会と文化を存続させてきた。
(3)ユーラシア大陸の穀物・牧畜文化にたいして、日本は穀物・魚貝型とも言うべき文化を形成し、それが大陸とは違う生命観を生み出した。
(4)大陸から海で適度に隔てられた日本は、異民族により侵略、征服されたなどの体験をほとんどもたず、そのため縄文・弥生時代以来、一貫した言語や文化の継続があった。
(5)大陸から適度な距離で隔てられた島国であり、外国に侵略された経験のない日本は、大陸の進んだ文明の負の面に直面せず、その良い面をひたすら尊崇し、吸収・消化することで、独自の文明を発達させることができた。
(6)海に囲まれ、また森林の多い豊かな自然の恩恵を受けながら、一方、地震・津波・台風などの自然災害は何度も繰り返され、それが日本人独特の自然観・人間観を作った。
(7)以上のいくつかの理由から、宗教などのイデオロギーによる社会と文化の一元的な支配がほとんどなく、また文化を統合する絶対的な理念への執着がうすかった。
(8)西欧の近代文明を大幅に受け入れて、非西欧社会で例外的に早く近代国家として発展しながら、西欧文明の根底にあるキリスト教は、ほとんど流入しなかった。
 本論のテーマは、このうち7番目の項目に関係する。ただしこれらの8項目は相互に深く関連しており、7番目以外の項目のすべても、何らかの意味で日本文化の相対主義的な性格が形成された理由になっている。よって、これらの項目に沿って順に論を進めていきたい。
 
9番目の項目は、まだ文章としてはまとめていないが、「悟り」に関係する視点である。日本文化の特質の一つに「道」の文化があると思う。武士道、茶道、華道、書道などというときのあの「道」である。道の思想は、禅を中心とした仏教から多大な影響を受け、もちろん神道や儒教、老荘思想との関係も深い。しかも、私たちに受け継がれた修行、修道の文化のなかにそのエッセンスが集約されている。これを抜きにして日本文化を語ることはできないだろう。

しかも、私自身の長年の中心テーマは、「悟り」を哲学的、心理学的に考察することであった。その考察の副産物として『臨死体験研究読本』という本を十数年前に出版した。なぜ臨死体験と悟りが結びつくのか。

臨死体験者は、なぜ生き方をプラスの方向に激変させるのか、なぜ「悟り」と言っていいような深い意識変容をとげるのか。この謎を、これまでの膨大なデータをもとにとことん追求し、さらに臨死体験を脳の幻覚とするとする代表的な科学的理論の矛盾と限界を明らかにしたのがこの本だからである。臨死体験には、脳の見る幻覚以上の意味があることを丁寧に論証し、科学的物質主義を超えた視点から生と死を見直したのである。

ともあれ、長年の悟りの研究と日本文化の在り方とを結びつける視点が私の中に芽生えることによって、日本文化の考察への意欲が再び高まったのである。




  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日本語ってそんなに美しく響く言葉なの?

2017年06月08日 | 日本についてのアンケート

先月5月18日に、自分の英文ツイッター(https://twitter.com/Tokyonobo/status/865209907607248897で、「日本語はあなたにとってどんな響きですか」と質問したところ、2日間で世界中から50人の人々が返事をくれました。その内容は、予想以上に日本語の美しさを賞賛するものが多く、ちょっとびっくりしました。返事をくれた人々は、もともと日本文化に魅せられり、日本語を学習している人が多かったため、その点は差し引かなければなりませんが、しかしそれにしても圧倒的です。以下はその7割ほどを選んで英文に訳を付けて載せました。短いものは後半に英文だけ載せています。

 


 

Debby / デビー : It's a language I desperately wish to learn but feel intimidated by, being a white Australian! It sounds romantic, cute but also elegant. (嵐ファン) (私はオーストラリアの白人です。日本語は、私が必死の思いで学んでいる言語ですが、恐れも感じています。ロマンチックで可愛いですが、優雅な響きももっています。)

Tokyonobo : Thank you for the reply! Expressions of your complicated feeling for Japanese are so impressive. (日本語へのあなたの複雑な感情の表現はとても印象的です。)

Debby / デビー : Complicated is the right word! 😁 But I will continue to love the power of the Japanese language, it is so mesmerizing to me.(複雑というのはぴったりの言葉です。でも私は日本語の力を愛し続けます。私にとってとても魅惑的なのです。)

Chilean-American here: to me it sounds elegant & flowing, very expressive and charged with emotions in its words. Even if I can't understand what it's being said 95% of the time, I still find joy in listening to someone speaking Japanese. This is why I like to buy drama cds and/or dvds featuring my favorite seiyuu.(チリ系アメリカ人です。私にとって日本語は、優雅で流れるようで、表現豊かで、言葉に感情がこもっています。たとえ95パーセントは何を話しているのか分からなくとも、日本語を話しているのを聴くのは喜びです。だから、お気に入りの声優が出ているドラマのCDDVDを買うのが好きなのです。)

Tokyonobo : .()---Maybe especially in dramas!! (たぶんドラマの中では特にね。)

Chilean-American : That is very true! But even just general conversation, I still love how Japanese sounds ♥  (まさにそのとおりです。でも、普通の会話でも、私は日本語の響きが好きです。)

Ruth(国籍不明:女性):日本語の音はきれいですよ!Japanese sounds beautiful. 私は日本語の歌が大好きです!Japanese songs are my favorite! (原文のママ)

Czech person here: I find Japanese very soft, elegant and well-paced. Because of that I fell in love with the language and want to learn it.(チェコ人です。日本語は、とてもソフトでエレガントでペースがいいと思います。だから私は日本語と恋におちいり、勉強したいと思うのです。)

American reporting in.  Definitely beautiful.  I prefer my nihongo speaking voice to my English speaking voice.(アメリカ人からの報告。間違いなく美しい。私は自分の英語を話す声より、日本語を話す声が好きです。)

From SwedenIt's a very beautiful language. Second most beautiful would be French. (日本語はとても美しい言葉です。二番目に美しいのはフランス語でしょう。)

I'm Polish and I find Japanese very dramatic, melodic, powerful and words are somehow heavy but give a distinct tempo.(ポーランド人です。日本語は、ドラマチックでメロディがあって、力強く、単語は少し思い感じですが、それがはっきりとしたテンポを与えます。)

(バスク人から):私にとって日本語はすごく快適な音があって、可愛く聞こえると思うよ ^^ 其れに、日本語はバスク語と不思議にすごく似ているし、私はバスク人だから、日本語を聞いて特別で良い感がある:) (原文のママ)

★(国籍不明):It sounds very energetic, and full of life. Very far from Ugly and Awful! (日本語は、エネルギッシュで命に溢れています。きたないとかひどいとかからは程遠い。)

★(From USA : Mostly beautiful. Except the high nasal sounds of girls announcing, calling in malls (女性アナウンスの鼻にかかる高音以外は、たいがい美しい。)

ニンノです~ (From Sweden)I think it's absolutely beautiful. I love the way it sounds, and I love the expressions and the fact that it has so many variations!(本当に美しいと思います。その響きや表現法、そして多くのヴァリエーションを持っているという事実が好きです。)

《その他》

Depends on the voice of the speaker. Japanese is a musical language.

Japanese has a beautiful melody to its spoken sound.

Very rapid and expressive of emotion.  :)

 

Beautiful, elegant and... sexy.    ★Yes, elegant.

From Italy, I find Japanese elegant.

I think is very elegant!(アルゼンチン)

I find the language pleasant, elegant yet fast-paced .

 

It’s Beautiful! And the music in Japanese is awesome.

It sounds beautiful.   ★I think it sounds very beautiful

I think the Japanese Language is very beautiful!

It sounds very beautiful in my opinion! ^^

 

It's polite and shy and cute    ★I'd say "relaxing" :)

I'm Spanish, and I think I find Japanese nicely soft

It can be many things!  But to me it is precise but flowing.

I think it sounds nice, not too many highs or lows, very even and "clean" sounding.


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日本が一神教に侵食されない深い意味

2017年03月18日 | キリスト教を拒否する日本
宗教学者の島田裕巳氏は、「キリスト教が日本で広まらなかった理由」というウェッブ上の論文で「世界の国々のなかで、これほど一神教を信じる人間が少ない国はほかにない。日本は一神教が浸透しなかった最大の国なのである」と語り、「日本は一度も一神教に席捲されなかった国として、これからも独自の宗教世界を維持し続けていくことになるのかもしれない。そのことはやがて世界的にも注目されることになっていくのではないだろうか」と、この論文を結んでいる。

この最後の指摘は、重要な意味をもっていると私には思える。日本がこれまで独自の宗教世界を維持し、これからも維持し続けていくだろうこと、そしてそのことが「世界的にも注目される」ようになるだろうというは、日本文化の根底にかかわる重要な意味をもっているということである。

ではなぜ日本は、一神教に侵食されずに、独自の宗教世界を維持することができたのか。それは「家」の問題や、神道や仏教がすでに存在したからというような個別の問題からは答えられないはずだ。個別の問題も絡むだろうが、その根底にある日本文化の成り立ちにかかわる独自性こそが、その秘密を解き明かしてくれるのだ。日本独自の宗教世界は、日本の社会や文化の成り立ちのユニークさに根ざしているのだ。

一言でいえばその独自性とは、新石器や土器を使い定住をしながら、本格的な農業を営まなかった独自の自然宗教の時代(縄文時代)が一万数千年続き、しかもそれを引き継ぐかたちで弥生時代以降の歴史が展開していった、世界でもまれに見る連続性ということだろう。

神道や仏教の受け入れ、そして神道と仏教の融合(神仏習合)は、その連続性を物語っている。神道は、縄文時代以来の自然への畏敬の心をもとに生まれた。そして日本列島に住む人々は、仏教をもたらした渡来人たちと、排除しあうのではなく融合したからこそ、神仏融合も起こった。そこにあるのは、断続や断絶ではなく連続だ。

一神教は激しく他の神を排除することでなりたつ。土着の宗教との融合を拒み、それらを根こそぎにする。キリスト教は、ヨーロッパのキリスト教以前の森の文化、ケルトの文化をほぼ抹殺した。日本列島において、縄文時代以来の自然への畏敬の心を、神道として、あるいは仏教と融合した神道として受け継いできた人々にとっては、一神教は、そうした自分たちの生き方を破壊する以外の何ものでもなかった。一神教を受け入れることは、自分たちの社会や文化の成り立ちを根底からくつがえし、断絶させることだった。「家」とか個々の宗教といった個別の理由以前に、日本文化の成り立ちそのものが一神教とはそぐわなかったからこそ日本では広まり得なかったのであろう。日本人は、キリスト教を全面的に受け入れるにはあまりに深く、自然と一体となった縄文時代以来の生き方が肌身に染み込んでいたのである。

以上のことを、ほんブログの根幹である「日本文化のユニークさ8項目」に即して考えるとどうなるかは、前回ごくかんたんに示した。これまでも折に触れて語ってきたので参照されたい。

現代の社会は、ユダヤ教やキリスト教といった一神教の基盤としたヨーロッパ文明が生み出した近代文明によって影響を受け、それに席巻されているように見える。その一方で、一神教同士の対立や一神教と他宗教との対立を背景にした様々な問題も生み出している。その中で日本文化の独自性が注目されるとすれば、それはどうしてなのか。

日本は、非ヨーロッパ文明の中ではもっとも早く、近代文明の吸収と発展に成功した国である。であるにも関わらずキリスト教徒は圧倒的に少ない。「一神教が浸透しなかった最大の国」なのである。科学技術や政治・経済システムの面では近代文明を大幅に取り入れ成功を遂げながら、その文化の深層の部分では一神教を頑なに拒んでいる。そこに日本文化のユニークさと不思議さがある。おそらくそれは、農業文明以前の縄文的な心性が、現代の日本人にまで脈々と受け継がれていることから来るユニークさである。世界の大半はすでにそれを失っているがゆえに、一神教を拒みながら近代化に成功した国である日本が、ますます注目されるようになるのだと思う。

《関連図書》
ユニークな日本人 (講談社現代新書 560)
日本の曖昧力 (PHP新書)
日本人の人生観 (講談社学術文庫 278)
古代日本列島の謎 (講談社+α文庫)
縄文の思考 (ちくま新書)
人類は「宗教」に勝てるか―一神教文明の終焉 (NHKブックス)
山の霊力 (講談社選書メチエ)
日本人はなぜ日本を愛せないのか (新潮選書)
森林の思考・砂漠の思考 (NHKブックス 312)
母性社会日本の病理 (講談社+α文庫)
日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)
アーロン収容所 (中公文庫)
肉食の思想―ヨーロッパ精神の再発見 (中公文庫)
日本人の価値観―「生命本位」の再発見

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

なぜ日本はキリスト教を拒否する(2):縄文からの伝統

2017年03月16日 | キリスト教を拒否する日本
前回に引き続き、宗教学者の島田裕巳氏の「キリスト教が日本で広まらなかった理由」というウェッブ上の論文をもとに、この問題を考える。日本にキリスト教が広がらないのは、家族親族のつながりや冠婚葬祭の関係で、キリスト教の信仰をもつことが邪魔になる場合が多いからではないかと島田氏は指摘する。つまり「家」の問題こそが日本にキリスト教が広まらない大きな理由かもしれないというのだ。(同様の指摘は『日本人の人生観 (講談社学術文庫)』の中で、山本七平氏も行っているので参照されたい。101頁以降)

しかし前回の最後に触れたように、私にはこれが、日本にキリスト教が広がらなかった根底に関わるいちばん大きな理由とは思えない。たとえば、韓国の場合を例にとろう。韓国の場合にも宗族と呼ばれる一族とのつながりの問題や冠婚葬祭に関わる問題も当然あっただろう。またいきなりキリスト教徒が30%を占めるようになったわけではなく、圧倒的な少数派であった状態から始まったのだから、条件は日本とあまり変わらなかったはずである。ではなぜ韓国ではキリスト教が広まり、日本ではそうではなかったのか。そうなった日本独自の理由こそが明らかにされるべきなのだ。(韓国のキリスト教との比較についてはいずれ触れてみたい。)

次に島田氏が、「キリスト教が日本で広まらなかった理由」として挙げるのは神道と仏教の存在である。東南アジアのなかで唯一のキリスト教国がフィリピンであり、ここにキリスト教が伝えられたのは日本と同じ十六世紀だという。しかも現代、この国のキリスト教徒の割合は9割を越え、大半がカトリックである。

同時期に伝わりながら、二つの国で対照的な広まり方になったのは、フィリピンには、インドのヒンズー教や中国経由の仏教などの影響をほとんど受けなかったことが影響しているという。日本では仏教や神道がキリスト教を阻む壁になっただが、フィリピンにはそのような壁がなかったというのだ。

しかしこの理由もあまり説得力を持つとは思えない。先ほど例に出した韓国の場合も、大陸から儒教も仏教も伝わっているが、キリスト教徒の割合は日本よりはるかに多い。儒教や道教や仏教など大陸の宗教の影響が圧倒的である台湾でさえ、キリスト教徒の割合は4.5%であるという。日本の1%以下という数字はやはり際立って少なく、島田氏が挙げる理由のいずれも、この特異性の根本的な説明にはなっていないと思う。

ではその根本的な理由とは何なのか。私は、このブログで追求し続けている「日本文化のユニークさ8項目」のほとんどが、相互に関連し合いながらその理由になっていると思う。8項目とは以下のようなものであるが、ここでは、それぞれの項目がなぜキリスト教が広まらない理由になっているのかについてごく手短に触れるにとどめたい。今後、項目ごとに本格的に論じたいと思う。また、これまでにもこのブログ内の項目に沿ったカテゴリー内で折に触れて論じているので興味があれば参照されたい。

(1)「漁撈・狩猟・採集を基本とした縄文文化の記憶が、現代に至るまで消滅せず日本人の心や文化の基層として生き続けている。」
一万数千年続いた縄文時代は、磨製石器や土器を使用しながら本格的な農業は営まないという、世界史的にもきわめてユニークな時代であった。それだけ自然に恵まれ自然に依存し、自然と一体化した時代の記憶が日本人の心性の根底にあり、その心性こそが砂漠や遊牧を基盤として生まれた一神教を拒絶するのである。

(2)「ユーラシア大陸の父性的な性格の強い文化に対し、縄文時代から現代にいたるまで一貫して母性原理に根ざした社会と文化を存続させてきた。」
世界史にもまれな特異な形での長い縄文時代とそれに続く稲作の時代は、母なる自然の恵みへの思いを基盤とした母性原理の宗教と文化を形作った。それが、砂漠や荒野を中心とした厳しい自然の中で生まれた父性原理の宗教への違和感を生むのである。

(3)「ユーラシア大陸の穀物・牧畜文化にたいして、日本は穀物・魚貝型とも言うべき文化を形成し、それが大陸とは違う生命観を生み出した。」
ユーラシア大陸の大部分は、穀物と同時に牧畜や遊牧に深く根ざした文化を形成した。食用に家畜を育て、管理し、食べることが人間の食生活の重要部分をなすのだ。聖書を少し読めば、神と人との関係を人の家畜との関係に例えて語ることがいかに多いかがわかるだろう。本格的な牧畜を知らなかった日本人には、キリスト教を含む一神教のそうした発想が肌に合わないのだ。

(4)「大陸から海で適度に隔てられた日本は、異民族により侵略、征服されたなどの体験をもたず、そのため縄文・弥生時代以来、一貫した言語や文化の継続があった。」
アジア・アフリカ・南北アメリカの多くの地域は、多少ともヨーロッパの植民地支配を受け、その地域に深く根ざした言語や文化が時には根絶やしにされ、歪められ、あるいは片隅に追いやられたケースも多い。またヨーロッパでも農耕以前の文明が継承されたケースは少ない。日本の場合は、その地理的な幸運もあって、縄文時代以来の母性原理に根ざした文化や言語が現代にまで多かれ少なかれ継承されている。

(5)「大陸から適度な距離で隔てられた島国であり、外国に侵略された経験のない日本は、大陸の進んだ文明の負の面に直面せず、その良い面だけをひたすら崇拝し、吸収・消化することで、独自の文明を発達させることができた。」
良い面だけをひたすら吸収できたと同時に、自分たちの文化的伝統に合わないものは選ばないという選択の自由があったのである。だからこそキリスト教をはじめとする一神教は選ばれなかった。植民地支配を受けた国(たとえばフィリピン)では、支配者の宗教が現地の人々に与える影響は、植民地支配を受けなかった国に比べはるかに大きいであろう。

(6)「森林の多い豊かな自然の恩恵を受けながら、一方、地震・津波・台風などの自然災害は何度も繰り返され、それが日本人独特の自然観・人間観を作った。」
この項目の前半(豊かな自然の恩恵)部分は、(2)の項目で述べたことと重なるので繰り返さない。後半部分は今回のテーマとの関係が薄いのでここでは触れない。

(7)「以上のいくつかの理由から、宗教などのイデオロギーによる社会と文化の一元的な支配がほとんどなく、また文化を統合する絶対的な理念への執着がうすかった。」
「以上の理由」の中でいちばん大きいのは「異民族により侵略、征服された体験」がないことであろう。異民族の侵略に出会えば防衛上、異民族の宗教よりも自分たちの宗教の方が優れていることを示すため、その理論化や体系化を強いられる。キリスト教国家による侵略の危険に晒されれば、自分たちの宗教もそれに対抗しうる理論化を果たさなければならない。日本人にはその必要がなく、ただ肌に合わないからと拒否すれば済んだのである。

(8)「西欧の近代文明を大幅に受け入れて、非西欧社会で例外的に早く近代国家として発展しながら、西欧文明の根底にあるキリスト教は、ほとんど流入しなかった。」
その理由こそが、これまでにかんたんに説明した「日本文化のユニークさ」の各項目だったのである。

以上の説明は、各項目に添ってごくかんたんに述べたものに過ぎない。説明はきわめて不十分なものなので、いずれ一項目ごとに本格的に、キリスト教が広まらなかった理由との関係で論じてみたい。

《関連図書》
ユニークな日本人 (講談社現代新書 560)
日本の曖昧力 (PHP新書)
日本人の人生観 (講談社学術文庫 278)
古代日本列島の謎 (講談社+α文庫)
縄文の思考 (ちくま新書)
人類は「宗教」に勝てるか―一神教文明の終焉 (NHKブックス)
山の霊力 (講談社選書メチエ)
日本人はなぜ日本を愛せないのか (新潮選書)
森林の思考・砂漠の思考 (NHKブックス 312)
母性社会日本の病理 (講談社+α文庫)
日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)
アーロン収容所 (中公文庫)
肉食の思想―ヨーロッパ精神の再発見 (中公文庫)
日本人の価値観―「生命本位」の再発見

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする