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「辺境」日本の世界史的な意味(4)日本がキリスト教を拒む理由

2020年04月19日 | 相対主義の国・日本
たしかに日本は「辺境」の島国であったためか、これまで「世界標準」や「普遍的な文明」を生み出すことはなかった。大陸で生まれた「世界標準」をひたすら吸収してきた。異民族に侵略・征服された経験をもたない日本は、海の向こうから来るものには一種の憧れをもって接した。そして外来の優れた文物だけを「いいとこ取り」(3)して、利用することができた。優れた文物だけを自由に取り入れられところに、「絶対的な価値観」を持たない相対主義の強みがある。そうやって形成された日本の文化は、「受容性」を特徴としていた。それは、もっぱら「師」から学ぶ姿勢で大陸の文明を吸収し続けることである。

そうやって中国文明を吸収し、それを自分たちの伝統に添う形で洗練させ、高度に発展させてきた。また西欧諸国による侵略を免れた日本は、かつて中国文明に接したときと似たような態度で、西欧文明に憧れ、その優れたところだけ(自分たちに消化できるものだけ)を取捨選択して吸収することができたのである。

しかし、無条件に何もかも受け入れたわけでもない。たとえば、中国から律令制度を取り入れながら、その重要な一部である、宦官や科挙の制度を受け入れていない。儒教は積極的に学びながら、儒教の根本原則の一つである同姓不婚という制度は日本に入ってこなかった。これは、同じファミリーネームをもつ男女は結婚できず、また異なる姓の男女が結婚すると、互いにもとの家の姓を名乗るという制度だ(4)。

明治維新以来の日本社会は、他のいかなる非西欧諸国よりも貪欲に西欧文明を吸収し、いち早く近代化することに成功したが、キリスト教徒は圧倒的に少ない。現代日本のキリスト教徒は百万人程度で、人口の1%にも満たず、この数字は明治以来ほとんど変わらない。明治以前は言わずもがなである。

日本は、一神教が浸透しなかった最大の国なのである。科学技術や政治・経済システムの面では近代文明を大幅に取り入れ成功を遂げながら、その文化の深層の部分では一神教を頑なに拒んでいる。おそらくそれは、農業文明以前の縄文的な心性が、現代の日本人にまで脈々と受け継がれていることから来る。母性的で相対主義的な日本文化にとって父性的な一神教の絶対主義は、きわめて馴染みにくいのである。

「普遍的な文明」の絶対的な理念や中心軸、宗教をそのまま自文化の中に持ち込めば、自分たちの根底にある相対主義の文化が脅かさるから、無意識のうちに拒む。しかし、その相対主義を脅かさないかぎりでは、他文明の個々の成果をためらいもなく受け入れ、それをいつの間にか自分に合うものに造り変えてしまう。そこに日本文化のユニークさと不思議さがある.

《引用・参考文献》
(1)「原型・古層・執拗低音―日本思想史方法論についての私の歩み」(『日本文化のかくれた形』加藤周一・木下順二・丸山真男・武田清子編、岩波書店、1991年所収)
(2)『日本辺境論』内田樹著、新潮新書、2009年
(3)『日本とは何か』堺屋太一著、講談社、1991年
(4)「日本文化の選択原理」小松左京著(『英語で話す「日本文化」』講談社インターナショナル、1997所収)
(5)『ユニークな日本人』グレゴリー・クラーク、竹村健一著、講談社現代新書、1979年
《関連図書》
日本人にとって聖なるものとは何か - 神と自然の古代学 (中公新書)
ユニークな日本人 (講談社現代新書 560)
日本の曖昧力 (PHP新書)
日本人の人生観 (講談社学術文庫 278)
古代日本列島の謎 (講談社+α文庫)
縄文の思考 (ちくま新書)
人類は「宗教」に勝てるか―一神教文明の終焉 (NHKブックス)
山の霊力 (講談社選書メチエ)
日本人はなぜ日本を愛せないのか (新潮選書)
森林の思考・砂漠の思考 (NHKブックス 312)
母性社会日本の病理 (講談社+α文庫)
日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)
アーロン収容所 (中公文庫)
肉食の思想―ヨーロッパ精神の再発見 (中公文庫)
日本人の価値観―「生命本位」の再発見
ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)


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