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2013年10月4日 カンティングキール軸の後傾角が意味するもの。

2013年10月05日 | 風の旅人日乗
10月2日に書いた、
カンティングキールの軸についての話の続き。

キールをカンティングさせる軸を
喫水線に対して後傾させると、


Farr Yachts Design

ヨットの実効排水量を減らし、
かつリーウエイを大幅に減らすことができる。
でも、
キールウエイトを軽くする方向にも効果出るので、
その分、復元力が減ってしまうという
マイナスファクターも同時に発生する。


Farr Yachts Design

これをさ、唐突ですが、
AC72のフォイルに置き換えて考えてみます。
まだ第34回アメリカズカップの後遺症に冒されているものでね。

クローズホールドのときに深く入れたC型フォイルを、
通常考える常識とは反対に、
つまり外にではなく内側にカンティングさせる。

また同時に、フォイルの前後振り角を
フォイル前縁に上向きの迎角を与える方向に、
つまりフォイルを前方向にレーキさせると、
ちょうどこの図のカンティングキールのようになる。

モノハルと違って、
ここに発生するチカラは、
AC72の風下側のハルにだけ作用するのだから、
風下側のハルを浮き上がらせるチカラ、
つまりモノハルの場合とは反対に
復元力を増すチカラになり、
かつ、ハルをフォイリングさせるための
強い浮揚力も生み出す。

さらに、フォイルのこのエリアは、
フォイルの先にあるウイングレットよりも大きいから、
合力としてはリーウエイを減らす方向にチカラを発生し、
つまり艇を風上方向に押し上げる。

このことは、第18レースでオラクルUSAが、
フォイリングするハイスピード・モードでありながら、
フォイリングしていないチームニュージーランドと
同じ高さを保って、風上に並び、
障害物ラインに到達する前までにチームニュージーランドを押え込んだ、
あのポートタックのクローズホールドで、
私たちが見たことと、重なってきませんか?









それにしても、当たり前のことだけど、改めて言うが、
スピットヒルは、この高速艇でも、
この僅か10数秒のシーンだけを見ても、
相手のミスを突いてモードを変え、
あるいはモードを合わせ、
すごく際どく艇を走らせてるなあ。上手だ。


これまでのボルボオープン70では、
カンティング軸は喫水線に平行でなければならない
という規則があったが、
次回のボルボオーシャンレースに使われる
ワンデザインクラスのボルボオープン65では、
カンティング軸に5°の後傾角が付けられる。


Rick Tomlinson / SCA

このことだけでVO65は、
次回のコースでシミュレーションした結果、
前回までに使われたVO70よりも、5ft短く、
重さ/長さ比で重く、復元力も小さいのに、
VO70とほぼ互角のスピードで地球を回れるのだという。


Rick Tomlinson / SCA

ボルボオーシャンレースよりも
アップウインドが少ないレグを走る
オープン60クラスでは、
カンティング軸の後傾角は8°というのが
一般的らしい。


Hugo Boss Open60


フォイルの研究の発達は、
モノハル艇のセーリングをも変えようとしている。


Farr Yachts Design

新しい時代のセーリングを学び、
かつそういうヨットに実際に乗ることを怠っていたら、
そのうち、ヨットに乗れないヨット乗りになるな。
気をつけよっと。