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竹森俊平「1997年ー世界を変えた金融危機」

2008-02-11 00:19:32 | 書評
うーん、これは。ちょっと困ってしまったな。
最初の70ページぐらいはけっこう面白い。当時切歯扼腕して渦中にいた金融危機(日本、アジアとも)の記述はとてもよくまとまっているし、IMFの過剰干渉政策の背景などこの本にして知ることのできたことは少なくはない。

しかし、である。74ページからナイトの不確実性が出てきてからもうだめだ。第一にどんな現象もナイトの不確実性と言ったのでは話にならないし、第二に不確実性と「リスク」の問題をもう少しまともに掘り込んでおかないとなんのこっちゃわかる話じゃなくなっちゃう。
そう思って見ると、29ページでいっている「引き当てするとすぐに清算しなければならないと銀行は誤解していた」(僕の理解では無税償却の前提が清算であったにすぎない)ということをしっかりした裏をとらずにいっているように見えるのはずいぶん気になる。
もうひとつ。132ページで「ギルボアとシュマイドラーは、エルスバーグの指摘した行動原理を、マキシマン原理として表現できることを証明したのである」と言っている。第一に、マキシミン「原理」といえばロールズが出てきそうだ。学者ならマキシミン「戦略」と言って欲しいな。第二にこれは証明というほどのことじゃない。これも学者らしからず。

率直に言って竹森さんは実質を言えばもと学者いまジャーナリスト、というところじゃないだろうか。率直に言って月刊誌に載っている「金融ジャーナリスト」なる人々の論とた大して変わらないのではなかろうか。

しかししかしこの本は評価高いよなあ。そこは3月号の文芸春秋で加藤陽子さんが言っていた「経済は難しいので専門家は不安感を背景にいかようにもいえる」「1月下旬まで日本株だけが下がっていた状況で国内の改革の遅れを指摘する声がかびすましかったが、以降他国の株価が下がったらすっとそういう声がやんだ」という痛快な指摘がヒントとなろう。
経済は難しくないんですよ。皆さん堂々と論じてくださいね。それにきっちり反論したり教育するのが専門家の役目です。それは経済の分野に限りませんよね。

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