御託専科

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浜井浩一 芹沢一也 「犯罪不安社会」

2009-04-12 11:08:43 | 書評
多面にわたる話が参考になるが、一点強く印象に残った話を。

1988年から9年にかけて発生した宮崎勤の事件は、饒舌な好奇の対象となり、宮崎が裁判で言った「醒めない夢」に言論人は引き込まれ、さまざまな解釈と見解が繰り広げられてかえって事件は不可解な出来事として認識された。
実は、時代は不可解さを求めていた。言論人はこのような「異常で不可解な事件こそが、私たちが生きる時代の現代性を象徴している」として、むしろ事件の出現をことほいだ。
そのことは、1998年の「サカキバラ」による神戸事件でも続いた。宮台新司を初めとする言論人は社会批判・学校制度批判のダシとして神戸事件を最大限に利用した。

ところが神戸事件の直後あたりから、言論のトーンが、社会の一種の犠牲者としての「少年A」から、理解不能な怪物としての「少年A」に急速に変化した。2000年のバスジャック事件、2001年の池田小事件などとともに、被害者の声の高まりもその大きな要素となった。ありていに言えば、猟奇的犯罪者の心理を面白げに探ること、そして特にその理由を社会・環境にもとめてしまうことは、とてもじゃないが被害者の心理には沿わない所業である、ということである。

「当時の社会は宮崎の猟奇的な犯罪を娯楽として楽しんでいた。ところが現在は、・・・娯楽であるどころか今や犯罪は他人事ではなくなった。・・・・そして社会は、「醒めない悪夢」に引きずり込まれていった。」(132ページ)

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