まくとぅーぷ

作ったお菓子のこと、読んだ本のこと、寄り道したカフェのこと。

のぼうの城

2012-03-09 07:31:58 | 読書
のぼう、とは、でくのぼうの略である。

・木偶の坊

1 人形。あやつり人形。でく。

2 役に立たない人。気のきかない人。人のいいなりになっている人。また、そのような人をののしっていう語。「この―め」

(デジタル大辞泉より)

武州忍(おし)城 成田家の跡取り息子長親(ながちか)は
領民から「のぼう様」と呼ばれている。
それも、めんとむかって、である。

言われた本人は怒るでも嘆くでもなく
えへらえへらとしている。

かわりに怒っているのは友であり腹心でもある男。
言っている領民に対してというよりはむしろ
言われて言われっぱなしの長親に対しての怒りである。
ただでさえいまいましいのに、
城が攻め込まれるという噂が、噂でなくなってきている
この大事なときに・・・
男が声に出さずに罵る「馬鹿」の文字で
ページが埋め尽くされている。

敵は石田三成、差し向けたのは天下の秀吉。
軍勢を比較したって、勝てるわけはない。
城内では降伏路線で話がまとまった、はずが、
のぼう様だけはまとめられてくれなかった。
折悪しく城主が急逝し、いまやあるじとなった彼が
敵も味方もひっくるめ、すべての人を仰天させる
決断を下す。

「戦いまする。」

三成は大喜びする。潰し甲斐のない相手を踏みつけても
面白くもなんともない。
さらには、憧れの秀吉の真似をして
ど派手な演出の戦法を実践してやろう、と思いつく。

応戦の旨を聞かされた領民は怒号するが
決めたのが、われらがのぼう様だと知ると
一転協力体制に入る。
あいつはなんにもできない、おれたちが助けてやらなきゃ。

自分の意思でやろうと決めたことと
ひとに(とりわけ上の立場から)言われてやらなければならないことは
おなじことでも成果がまるで違う。
それを狙ってわざとそう持っていくリーダーもいるが
のぼう様の場合は素で天然である。
彼はこころから領土を愛し、領民の気持ちに寄り添い
一方では武士の誇りを器いっぱいなみなみとたたえている。
なにかを謀ったわけではない、クライマックス以外では。

いかに相手の裏をかくか、いかに相手を騙すか、
野心こそが価値であり生きるたのみだった戦国の時代に
人間の中身で周囲を惹きつけ勝利した長親の
ひとつひとつの台詞、行動になんだかふっと気持ちが緩み
気づけばわたしものぼう様に逢いたくなっていた。