夏兆す車の中の大欠伸
令和来し賑はひ過ぐる清和かな
初夏の庭さまよひて去る熊ん蜂
木々なべて片影をなす凪の庭
いつよりか庭をさ迷ふ夏の蝶
夏風の梢伝ひて頬を撫づ
衣替え白の目映き交叉点
陽を孕み迫る荒磯の夏怒涛
炎天や人の通らぬ歩道橋
蒲の穂や物言いたげな犬の貌
路の上の乾ぶる蚯蚓午後三時
読書の目を逸らす車窓に夏怒涛
両の手に稚を迎ふる初幟
母の日や妻の位牌に香を焚く
炎天や庭に空見る石の象
知らせ待つ鳴らぬ電話の卯月かな
亡き妻の文の出てたる朔太郎忌
池の端の妻の記憶や花は葉に
犬引いて集ふ人らの日永かな
風孕むレースのカーテン日雷
扉の前の背に気配の蚊喰鳥
水分けて歩くプールの昼下がり
夫置いて妻賑はひへ夏祭
一の字に車窓追ひ抜くつばくらめ
逆光や紫陽花の藍際立てる
夏草の刈られて堀の底に水
朝凪の遮断機はねてどっと人
菊挿し芽一つ命を繋ぎけり
読経聞く背筋起立の涼しさよ
金魚死に小さき土の盛り上がる
麦の秋足裏に土の懐かしき
親留守と天下取る子の兜虫
路蟻の右往左往の先は何処
影法師の空へ拡げて網を打つ
うがい水そっと吐き出すキャンプの娘
児に合はす父のかけっこ夏野原
強羅干す男の傍の日傘かな
父の郷走る車に青田風
うなさるる夢の二度ある熱帯夜
大化けの大目玉となる金魚かな
遠からぬ寿命に難病雲の峯
汗の身をリフトに吊られ介助の湯
炎帝の真上にありて樹動かず
飯盒の飯煮えるころ火吹き竹
屍の弾けて落つる誘蛾灯
声高の看護師の声夏の朝
まん丸に松葉伝はる梅雨雫
大股の父に追いつく夏の暮れ
庭の芥掃き寄せられて梅雨開ける
空席を吹くる白南風カフェテラス
袖捲りお久しぶりと溝浚え
点滴台引いて尿へ夏の朝
見舞ひ人帰り一人の軒風鈴
緑陰にスマホ打つ娘の指止まず
身をよじり抱き紐の児に夕虹を
ひょいと児を抱き上げ跨ぐ潦
手の傷を覆ふビニ━ル大根切る
夜の空をなぞる穂先のキャンプファイア
動かざるひとつところの夏至の鯉
妻の忌に間に合ふて咲く鉄線花
注射針替へる点滴梅雨曇り
尻の上に背負はるる子の菖蒲園
ひまわりの前のベンチの媼かな
にわか雨庭に日傘を開き置く
炎天や身動きもせぬ地蔵尊
探せぬと妹の泣き出す水中花
大海の傍の賑はふプールかな
血液に異常ありとふ梅雨曇
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